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35:アリエリスト家の女

どうも!二修羅和尚です!

二章第一話ができましたので投稿させていただきます。一章のように毎日投稿はできませんのでご容赦ください。


それでは、どうぞ!

「……よし、いないな」


 建物の間から大通りを覗き見るが、探している人物は見つからない。その事実に俺はほっ、と息を吐くもすぐさま気を引き締めて辺りを警戒する。

 いつものローブ姿の上から、更に体を覆いつくせるローブを纏う今の俺の姿は怪しいの一言に尽きるだろう。だが、こちらにもこうしなければならない理由があるのだ。


「……いこうか」


 目指すは俺の元いた場所。この世界における故郷とも言える地竜の森だ。

 そこにたどり着くには、まずこのアリエリスト家が治める街、アリストの外壁を越えなければならない。この状況でわざわざ門を通るつもりはないので、フルフートのところでやったように、文字通り超えればいいのだ。



 ローブのフードが取れないよう、また、顔がバレないようできるだけ深く被る。

 自惚れではないが、俺が思っている以上に【花園の賢者】という恥ずかしい異名は有名だったらしい。それが以前ギルドで登録した際に顔まで広まったので、俺のことを知っている人は多いかもしれない。

 見つかるわけにはいかんのだ。


 

 なるべく目立たないように、かつすばやく街を歩く。前回、前々回とは人通りの少ないところを歩いてアウトだったので今回はやり方を変えたのだ。

 題して、『人を隠すなら人の中』作戦。今のところは順調だ。……今のところは



「よし……よしっ……半分近くまで来たぞ……新記録だ」


 時折俺のことを訝しげな目で見る人はいたもののそれだけだ。この調子なら、うまいこと外まで逃げられる。外壁を越えれば、あとはこっちのもの。この街中でやるつもりはないが、外ならそこらじゅうに花を咲かせて襲わせるという時間稼ぎができる。もちろん、その時間稼ぎで逃げ切れればの話ではあるが、それでもこの街中よりはチャンスはある。あるはずだ。



 ないとか思いたくない。



 とりあえずもう一度隠れられるところに身を潜めながら辺りを警戒。

 もうすでに夕刻。暗くなれば俺を発見することは困難になり、俺はここから逃げやすくなる。


「大丈夫だ。策は完璧。三度目の正直。絶対成功する……!!」


 一度目、二度目は失敗に終わったが、今度こそは…!! という意気込みので今回の作戦に臨んだのだ。前とは違って、ネモフィラも用意したのだ。花言葉は『成功』。

 必ずうまくいくと言い聞かせながら、先ほどより少し急ぎ足で外壁へ向かう。


 訓練が疲れたから寝ると言って部屋に篭ったと思わせ、こうして抜け出してきたのだ。ベッドにはイシモチソウでダミーも作った。『欺く』という花言葉を持つ花だ。効果はあるはず。


 もちろん、ふとんをめくられれば終わりだが、時間稼ぎくらいにはなるだろう。


「もうちょっとだ……」

「ええ、もうちょっとでしたね♪」


 追っ手がいないことを再確認した俺が、休憩もそこそこに外壁へと向かおうとしたときだった。


 背後から聞こえたのは、澄んだ女性の声。聞く人が聞けば、美しい、天女のような声だと評価するかもしれない。

 だが残念なことに、今の俺には天女ではなく般若の声にしか聞こえない。


 その声に俺は振り返ることなく一気に駆けた。


「あらあら、まだまだ元気ですね。訓練が緩過ぎたんでしょうか?」


 後ろから聞こえる声に、冗談じゃねぇ!! と思わず叫びたくなるが、ここでそう反応してしまうと隙を突かれて直ぐに捕まる。それだけは避けなければならない。


「しかしうまく騙されましたわ。あなたの気配だと思っていたものが、まさかただの花だったなんて。世の中、私が知らないことも多いと自覚させられましたわ。あなたの魔法には驚かされてばかり……ふふっ、そんなあなたが婿()()()。将来が楽しみですわね」


 こちらが全力で走っているにも関わらず、声は変わらずに背後から聞こえていた。その事実に恐怖しつつも、まだ捕まっていないというその一点で俺は走り続けていた。

 振り返れば、捕まる。

 

 この状況では外壁まで逃げ切れないと判断した俺は、急遽予定を変更して進路を変更。目指すのは街の広場だ。あそこなら多少広い。なら迎撃も可能。勝てる気なんてこれっぽっちもないが、可能性があるならこの選択肢を取らざるを得ない。


 というか、捕まれば明日からの俺がただじゃすまないのが目に見えてわかる。


「くっ……!! 『咲け』!!」


 広場に着く直前で妨害用に壁を作る。

 あのコールの炎弾の雨にも耐えた自慢の壁だが、それがどうなるかはよく知っている。

 

「あら? ここで訓練ですか?」


 慌てた様子もなく、彼女はそんな呑気な声と共に剣の一閃で壁を一気に破壊した。まるで障害が障害足りえていない。そんな現実に涙しそうになるが、何とかこらえて走る。


「『咲け』っ!!」


 魔法を発動。すぐさま跳躍。


 魔法によって咲いた巨花が俺の足元から一気に生えたことによって、跳躍力を増した俺の体はそのまま近くの民家の屋根に着地する。家の持ち主には悪いが、俺の緊急事態なんだ。許せ。

 少しばかりの余裕ができたことで、俺は眼下を見下ろした。


「今日はよく逃げるのですね」


 夕日に照らされながら手を顎に当てて首を傾げるその様子は、見る人が見れば幻想的でさぞかし美しいといえる光景なのだろう。だが、今でも俺の本能は逃げろ、捕まるな、と警鐘を鳴らしている。


「でも少し疲れましたわ。それに、ユリウスさんも待っています。さ、帰りますよ」

「い、嫌だ……!! お、俺は戻らないぞ!? 森へ帰るんだ!!」


 疲れたなど、嘘に決まっている。現に、俺はあの人が息を切らしているところを見たことがない。それに、ここで帰ればここまで来た俺の頑張りが全てパーだ。今度はいつ逃げられるかも分からない。


「あらあら。それは困りますわ」

「そ、それはこっちの台詞だぞ!? なんだよ、結婚って!! そんな約束をした覚えはない!! それに、なんで俺とPさんが結婚するのに、こんな目に合わなきゃならんのだ!?」


 内心でハラハラしながらも、俺は言いたいことを叫んだ。冗談じゃない、あんまりだという気持ちをこめてできるだけ大声で。


 だがそんな俺の言葉を、彼女は相変わらずの笑顔で受け止める。それが心底不気味で、何もされていないはずなのにたじろいでしまう。


「なぜ、ですか。そうですね……」


 思案顔になった瞬間に俺は屋根の上を駆けた。あの問答の答えを聞く暇があるなら、少しでもあの人から離れたほうがいい。そういう判断のもとで下した行動だ。

 走って走って、息が上がりそうになるのを飴をなめることで和らげる。リアの実のほうが効果は高いが、あれでは手がふさがって走りにくい。


 だが、そんな俺の頑張りも無駄に終わってしまうようだった。


「娘のため、としか言えませんわね」

「っ!? 『咲』」

「距離を詰められれば弱い。いつも注意していることですわよ?」


 杖がなくても魔法が使えることは彼女も知っている。軽量化もかねて杖はアイテムボックスにしまっていたのだが、今回はそれが裏目に出た。

 詰められた際の迎撃手段がない。


 見よう見まねの蹴りを繰り出そうとするが、重心が片足によったところを狙われた足払いによって俺は大きく体勢を崩した。

 あとは成すがまま。体が宙に浮いたところで腕を捕まれ、そのまま関節技で押さえつけられた。


「ま、た、タンマタンマ!! 腕痛いって!?」

「だってあなた、離せば逃げるわよね?」

「逃げない逃げない逃げないって!? ちょ、マジで腕がやばいんだって!!」


 そのうち普段は曲がらないほうへ曲がるんじゃないだろうかとも思える痛みに、俺は必死にもう一方の手で民家の屋根をタップする。

 必死に嘆願したおかげか、彼女はそお? といいながらも俺を解放してくれた。


 すぐさま腕を確認するが、関節の節々が痛む程度で折れてはいないようだった。


「それではすぐに屋敷へ帰り……」

「ハッハー! 逃げる!!」

「だろうと思いましたわ」


 背を向けたそのときを狙って駆け出そうとした俺であったが、目の前に現れた彼女の、そんな台詞と共に放たれた拳が俺の腹にとんでもない衝撃を与えた。


 息ができない。


「はぁ……まったく、世話が焼ける人ですわね。アーネストはどうしてこの方を好きになったのでしょうか」


 何か呟いている様だったが、残念なことに何を言っているのか俺にはわからない。というか、そんな余裕が今の俺にはない。

 腹を押さえて必死に呼吸しようとするが、横隔膜でも麻痺しているのかうまいくいかないのだ。


 不意に体が持ち上げられた。恐らく、彼女に襟でも持たれて担ぎ上げられたのだろう。これまでの二回ともそうだった。



 涙目になった俺の目が彼女の姿を捉える。


 金糸とも表現できる金髪に整った容姿は、沈みかけた夕日の赤と半場まで夜の闇に染まった空の青によく映えいる。二十代、あるいは十代でも通りそうな見た目であるが、彼女は二人の娘を持つ人妻だ。動きやすいズボンスタイルでも気品が感じられる立ち振る舞い。


「ち、ちくしょぉ……」


 もうお分かりであろうが、彼女こそ、Pさんことアーネストとアリエッタの母であり、ユリウスの妻。様々な武勇伝を持つ生きた伝説の女。あと無双ゴリラ。


 アリーネ・P・アリエリストである。

一章に続いて、またよろしくお願いします!!

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