33:解決
どうも、二修羅和尚です。
すみません。また授業で投稿遅れました。
さて、今回で話は一区切り。次回が一章のエピローグとなります。
何か出てきた。
屋敷から這い出してきた豚の怪物は、ブヒャヒャヒャヒャッ、とあまり聞きたくない笑い声を上げていた。怪物の笑い声にあわせて、おなか周りの酷い贅肉がブルンブルン揺れている。
なんかこれ以上見たくなかったので、視線を足元に転がるクェルに向けた。
「動けるか?」
「……ああ、なんとか、な。そんなことより、お嬢様は助けられたんだな。ありがとう、カオル殿」
そう言って何とか起き上がろうとするクェルであったが、うめき声と共に腫れた左腕を庇うような動きを見せた。ぜんぜん何とか動けるようには思えないんだが。
「ブヒャヒャヒャ……ん? あの小娘ェ……どこに消えたァ……!!」
急に笑い声が止まったかと思えば、どうやら奴さんは自分でぶっ飛ばしたクェルを探しているようだった。
俺たち三人はあの豚の前方、それなりの距離を空けた場所に居るんだが、顔ごと動かして探しているのを見るに目が悪いようだった。
……あれ、でも豚だし、臭いで分かるんじゃ……
「臭いィ……若い娘の臭いィ……」
案の定、怪物は鼻をフガフガ鳴らして辺りの臭いをかぎ始めた。
とっさに、これはまずいと感じた俺は近場で根に縛られて転がっていた海藻類の真下から巨花を急成長させ、押し出す形で豚の元へと射出した。
声にもならない呻き声を出しながら飛んでいった海藻類はそのまま豚の元へ。ドッ! という音とともに豚の怪物にぶつかる。
「ん? ……おお! カーマインではないかぁ……」
「『咲け』」
豚がその意識を海藻類へと向けた瞬間に魔法を使う。対象は豚の足元を中心としたそれなりの範囲。
「ん? ……グァワァアァァアァァアアァアア!!! 鼻がぁ!! 鼻がぁぁあぁぁぁ!!」
変化に気づき、海藻類片手にもう一度鼻を鳴らす豚であったが、すぐにその行動を中止し、耳が痛くなるような悲鳴を上げて暴れ始めた。
そうだろうそうだろう、嗅覚がいいのならこいつはかなり効く。何せ、その場所に咲かせた花はラフレシア、アメリカミズバショウ、オオバナサイカクといった、強烈な臭いで有名な花なんだからな。
ラフレシアは言わずもがな、アメリカミズバショウはスカンク・キャベジとも呼ばれるほどの花で、オオバナサイカクも強めの腐肉臭を放つ花だ。
気候も場所も違う花をこうやって一度に咲かせることができるのもこの魔法の便利なところだな、本当に。
俺の両親による花屋の英才教育が、まさか異世界に来てここまで役に立つとは思わなかった。よくがんばったよ、昔の俺。二度と体験したい臭いではないがな!
「さ、今のうちに逃げ……る前に、治療か」
いつのまにか立ち上がっていたクェルであったが、どうにも走れる様子ではない。またおぶってもらわねば困るのだ。今回はPさんもいる。
だが、敵がこちらを認識していない今が逃走には好機。飴をやろうかとも考えたが、あれは効果時間が長い代わりに治癒に時間がかかる。となると……
「『咲け』」
こいつしかないわけでありまして。
もう何度も咲かせてきたリアの花を、慣れた動作で実に変える。それをもぎ取ってクェルに投げ…渡せないので口の前に差し出した。
「カ、カオル殿。こ、これは……」
「リアの実だ。食え。その怪我も直ぐに治る」
その言葉に一度リアの実を見たクェルは、その後もう一度俺を見た後、決心したかのようにリアの実に齧り付いた。が、一口食べてしばし動きを止めると次には遠慮なく、かばっていたはずの腕でリアの実を受け取って食べ始めた。
騎士だからなのか、同じ性別のはずのアリエッタよりもいい食べっぷりをしている。生産者(ちょっと違うかもしれない)冥利に尽きるというものだ。
ユリウスには、あまりリアの実を出すな、的なことを言われていたような気もするが、クェルだしいいよね? ほら、クェルが強くなってもアリエリストには得しかないし!
「……ふぅっ。ありがとう、カオル殿。……しかしこれはすごいな。怪我どころか、疲れも取れているぞ。それに力が溢れてくる。先程までの自分とは別人のようだ」
「感想はいい。治ったんだな? そうなんだな? よし、それじゃぁ俺がまた行きと同じように外壁までの道を作る。お前は俺とPさん……アーネストをおぶって逃げる。分ったな?」
視線を移せば、豚の怪物は未だに花畑(臭い地獄)の中でのた打ち回っている。おまけに、体中を地面におもいっきりぶつけながら転げまわっているため、手にしていたはずのものが見るも無残な姿に変わり果てていた。
多分、死んでいるのかもしれない。が、俺が気にすることではないので気にしない。これも自業自得だろうに。
軽く心の中で合掌しながらも、Pさんを落ちないように背負い直す。行きでクェルにしたように、Pさんと俺を魔法で咲かせた花で固定し、外壁の上まで続く巨花を咲かせた。
「さ、行くぞ、クェル。あとはユリウスさんに任せようぜ」
「……いや、少し待ってくれないか、カオル殿」
準備ができたので、急ぐようにクェルに言った。だが、クェルは俺の言葉を聞いていないのか、未だ暴れる豚の怪物に視線を向けてそんなことを言う。
何言ってんだこいつ。
「何を待つんだよ」
「すまない。だが、私はあれの相手をしたいのだ」
「何言ってんだお前」
思わず口に出した俺は悪くない。たぶん、こんなこといわれたら当然の反応だと思う。あれか、こいつは生粋の戦闘狂なのか、それともただのMなのか。
なぜ相手をしなくてもいい相手をわざわざ相手にしなくてはならんのか。
「頼む。カオル殿はここで見ているだけでいいんだ。私は、あれを倒さなければならない」
「……いや、どう考えても無駄足だろ? ここは逃げるのが一番だ。ほっとけば、ユリウスさんも来るし、明日には王都から騎士団も来る。俺たちが相手にする必要がないじゃないか」
「……頼む」
こちらがいくら拒否しようとも、クェルは引かない。いい加減にしてほしい。これ以上面倒事を増やすな、と本音で文句を言ってやってもクェルの意思は相変わらず。
「理由は?」
いつ豚がこちらに気づくのかとハラハラする中、何故そんなことを言い出したのか理由を聞いてみる。たいそうな理由でなければ、もう俺がこいつを引きずってでも帰るつもりだ。あれの相手をするなら、魔法で移動をもっと楽にする方法を考えたほうがよっぽど楽だ。
「……あの怪物が、お嬢様を誘拐した元凶だ。ならば私があれを仕留めなければならない。一度犯した失敗は、奴に引導を渡すことで償いたいんだ」
失敗、というのはPさんを誘拐から守りきれなかったことなのだろう。
しかし、あれがこの件の元凶? 元凶というのはアーネストを出せとか言ってきた貴族……確か、フルフートとかいうあの成金豚のことであってるはずだ。
「……え、あの豚の怪物、フルフートなの?」
「ああ。屋敷内の強化兵を殲滅し、奴一人に追い込んだのだが……懐から液体の入った小瓶を出して飲んだかと思えばあれだ。いったい、奴は何を飲んだのだ?」
「俺が知るかよ」
てか、飲んで変身+巨大化ってどこの戦隊ものの悪役だ。
「そうか……賢者と呼ばれるカオル殿のことだ。何か知っているかと思ったんだがな」
「噂の一人歩きだっつーの。何だよ、賢者って。広めたあの冒険者は会ったら殴ってやる」
忘れていなければな!
「さて、では行ってくる。ここで待っていてくれ」
「何さらっと行こうとしてんだよ。許可した覚えないし、その折れた剣で戦えるわけないだろ?」
クェルが手にしている剣は見事にポッキリと折れてしまっている。これをまともに振るって攻撃ができるとは思えないのだが、クェルは振り向き様に笑って見せた。
「安心してくれ。今の私はカオル殿のおかげで絶好調……いや、それ以上だ! この剣でも負けはしないさ。…では行ってくる」
そういい残して豚の元に駆けていくクェルに、俺は仕方ないとばかりにため息を吐くと豚の周りの花畑(臭い地獄)を解除する。ああいうのは言っても聞かない、問答するだけ無駄なタイプだ。
しかし、最後の行ってくる、は俺が女であいつが男なら惚れてしまってもいいくらいのかっこよさだった。思わず、養ってくださいといいそうになった俺は悪くない。
よく考えてみたら、クェルってなかなかの優良物件ではないか? 目つきが悪いことを除けば、強くて頼りがいあるし、収入も貴族の護衛だから悪くないはず。おまけに年上で美人ときた。
「……何ニヤニヤしてるのよ」
「お、起きたか、Pさん」
後ろから声がしたかと思えば、背負っていたPさんが目を覚ましていた。彼女と俺を固定する花を解除しようとするも、このままでいいと言われたが、背負っているのも疲れるので下ろす。
背中を叩かれる。痛いです。
「前から思ってたけど、そのPさんって私のこと? だったら止めてくれないかしら。ちゃんとアーネストって呼んで」
「えぇ……だって長いじゃん?」
「ア・-・ネ・ス・ト!!」
「はいはいわかったわかった。ほら、言ってる間に戦闘始まってるぞ」
Pさんを軽くあしらいつつ、クェルの方に目をやった。
何というか……一言で表すなら無双です。
折れた剣など何のその。すばやい動きで翻弄し、豚がクェルを見失ったところで手痛い一撃を与えている。豚の方も何度も攻撃を当てようと腕を振るが、大振りな攻撃は当たるどころかかすりもせず、無駄に体力を消費しているようにしか見えなかった。
「グオォオオォオオオオォオオォォォォォォ!!!! 小娘がぁァァぁァあアァァぁぁァ!!」
「ハァアッ!!」
方向とともに拳を叩きつけようとした豚であったが、その大振りの攻撃が隙となりクェルの接近を許した。
一閃
「ギャアァァァァアアアァァァァ!?!?!?」
折れた剣であるにもかかわらず、クェルの攻撃は豚の顔面を切り裂く。
先ほどとは比にならない豚の叫び声に、俺とPさんは思わず耳を塞いだ。
やがて、巨体が倒れる音があたりに響くと、クェルはそれを振り返ることもせずこちらへ歩み寄ってきた。
あれで後ろで爆発でも起きればヒーロー感がでたのだが、と少しばかり残念に思うこともあったが、まぁ終わったのならそれでいい。
「死んだか?」
「いや、殺してはいない。それに、生殺与奪は私ではなく、王国の法が決めることだ。私が手を出せるのはここまでだな」
「クェルゥゥ!!」
「お嬢様ぁ!!」
感動の再会張りに抱き合う二人。そんな二人を尻目に、俺は魔法の花で倒れた豚……成金豚の成れの果てを拘束する。
もうじき、ユリウスもやってくるだろう。後始末は彼らに任せるが、ここまで追い詰めて逃走なんてされれば、俺たちに復讐を、なんて可能性も出てくる。面倒は御免だ。
咲かせたのは ジシバリという日本原産のキク科の花。それを成金豚が縛れるほどに成長させ、全身を覆わせていく。
花言葉は束縛、ということもあってあれを逃がさない、という一点においてはちょうどいい花だろう。エネルギーはあれの体力と魔力、および屋敷周辺の土地が持つエネルギーを指定。これで明日までは持つだろう。
「よし。んじゃ帰ろう。今すぐに」
「待て。ユリウス様が来るまで待たないのか?」
「え、父上が来るの?」
「もう帰りたい。だから帰る。ほら、はよ、はよ」
クェルやPさんが何か言ってるが、すべて無視する。だいたい、ここにいるのも本意ではないのだ。本当なら、一人酒を楽しんでいただろう。
今はそんな気も起きないし、帰って寝たいという気持ちのほうが強い。だから、ここでユリウスを待つなんて選択肢を俺がとる意味はない。
説明しなきゃならないこと? んなもん帰って寝たら、明日やってやるよ!
「クェル、おぶれ」
「……はぁ、子供か、カオル殿」
「ほんと、みっともないわよ?」
「うるさい。だいたい、お前が誘拐されなきゃこんなことにはなってないし、クェルが守りきれてればここまでくる必要もなかったんだ。反省しろ」
ちょっと言い過ぎな気もするが、事実だし、早く帰るためには仕方のないことだとあきらめよう。
二人もそういわれて何も言い返せないようで、黙ったまま。結果、俺の言葉通りにしてくれた。
現在、クェルにおぶられ、Pさんをおぶっています。つまり女子によるサンド。
「なぁ、Pさん。もうちょい肉つけようや」
「アーネストよ!! それと、私だってまだ可能性はあるわよ!!」
「ちょ、首! 首絞まってるから!!」
「……あの、あまり暴れないでほしいのだが…」
外壁のクスノキまで花の上を走るクェルと、それにおぶられる二人。
ともかく、これでやることはすべてやった。後は俺の求めたヒモとしての生活が待つのみ! 後は俺の望む嫁さん見つけたらすべてがそろう。
「あぁ……楽がしてぇなぁ!!」
拝啓、俺を転生させた天使様。
とりあえず、もっと楽できそうな世界ってありませんでしたか?
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