30:奪還作戦
どうも! 二修羅和尚です。
FGO、イベント始まっちゃいましたね。早ぇよ。続き書こうと思ってたのに、気づけば手にはスマホが。
回らなきゃ…回らなきゃ……
討伐イベントは悪い文明。
「なぁクェル! P…アーネストを攫いに来たやつって、海藻類以外はどんなやつだったんだ?」
クェルがフルフート領に向けて馬を走らせる中、俺はそのクェルの腰にしがみ付きながら尋ねる。馬を走らせている関係上、風の音がうるさいのでそれなりに声を出さなければ聞こえないのだ。
俺たちがアリエリスト邸を出発してからおよそ一時間近くが経過しているのだが、未だにフルフート領に到着する様子はない。それどころか、Pさんを攫った集団に追いつくことこもなかった。
とりあえず、馬の振動がやばい。何がやばいって尻がやばい。こんなに痛いのだったら馬なんか乗るんじゃなかったと後悔しているところだ。
そして何よりどちらも無言なのがそんな状況に拍車をかける。まぁ、クェルについては自分のせいで、なんて考えているからなのだろうが、さすがに会話なしだとこの痛みと向き合うしかやることがない。
「海藻類……ああ、カーマインのことか。あの男は私が斬る。邪魔はしてくれるなよ」
聞きたかったこととまったく別の回答が返ってきた。それもかなり物騒なもので、風の音でうるさいはずなのにいやによく聞こえた。
馬に取り付けられたランプに照らされたクェルの目は、もともとの目付きと相まっていつも以上に怖い。たぶん、ここに海藻類がいれば速攻で斬りにいくと思う。
「いや、それはいいんだが…俺はユリウスさんが言ってた強化兵とやらのことを聞きたいんだが?」
「……私が相手をしたのは、魔法を使う者が一名、武器を使う者が二名。恐らく、冒険者ランクで言えば赤程度なのだろうが、連携されると厄介だ。…クッ、不覚…!!」
どうやら、ユリウスから強化兵とやらの話は聞いていたようで、戦闘になったときのことを思い出したのか、クェルの顔が怒りで歪む。
何でも、初めは戦士二人が相手だったらしいのだが、後から魔法使い組の二人が合流。徐々に劣勢を強いられ、最後には隙を突かれてPさんを攫われたんだとか。
だがクェルも反撃して足止めに使われた戦士タイプ二人を撃破したとのこと。
あといつも相手の強さを冒険者のランク基準にしないでほしい。よくわからないから、相手の面倒臭さもわからなくなる。
赤といえば、ランクで言えば真ん中だったはず。強さも微妙な感じしかしない。
「まぁあれか、あと二人か。よくやったんじゃないか?」
「…いや、結局お嬢様は守れなかったんだ。護衛として失格も同然だろう。…だから、意地でもお嬢様は返してもらう…!!」
協力を頼んだぞ…!! と力強く求めてきたクェルに若干圧倒されながらも頷いておいた。
…こいつこんなけやる気なんだし、全部任せればよくね? なんて考えていたやつなんてここにはいないのだ。本当だよ?
「っ! 見えたぞ!! あそこがフルフート領だ!!」
クェルの声に、俺は背中越しから前方を覗く。
見えてきたのは高い壁。どうやら、ここもアリエリスト家と同じく外壁があるようだ。
だが、本来なら開いているであろう門はしっかりと閉じられているようだった。まぁ時間的に閉まっていても当たり前なんだが、そうなるとPさんを攫ったやつらは別ルートから中へ入ったことになる。
どうするのかと考えていると、クェルは外壁近くで馬を止めた。先に俺が降り、続いてクェルが降りると、彼女はありがとう、と馬の鼻先を摩っていた。
帰りにも世話になるので、俺も感謝の気持ちをこめて特性飴玉を与える。これで回復に関しては問題ないはずだ。
アイテムボックスにしまってあった杖を取り出す。
「で? ここからどうするんだ? 門は閉まっているみたいだが……」
「……やつらが中へ入った経路があるはずだ。そこを探す」
行くぞ、といってランプを取り外して外壁へ向かうクェル。やる気があるのは結構なんだが、みんながみんなそうだとは考えないでほしい。
ランプがなくなったことで辺りが闇に包まれる。まぁ多少の月明かりで見えないことはないのだが、雲が出ているせいでやはり少し暗い。
空の月を見終えて視線を戻す。その先にはランプに照らされたクェルが壁を調べていた。
実に頭の悪いやり方だ。そんな面倒なやり方で時間を使うつもりはない。俺は、早いところPさんを連れ帰って寝たいのだ。
それによくよく考えてみれば、ここで俺が活躍すればPさんは俺に文句が言えなくなるだろう。やかましいPさんが俺の言うことに従うのだ。何か言われても、この件を盾にすれば問題なし。何と完璧な作戦なのだろうか。
「おいクェル。こっちに来い」
外壁に沿って、何かを探っていたクェル。俺はそんな彼女を自分のほうに呼び寄せる。
ランプでお互いの顔が見えるようになった。
「何だ、カオル殿。今は一刻を争うんだぞ…!」
「そんな馬鹿みたいに探してることが問題なんだよ…。なぁ、あの貴族の家ってこの壁の中のどこにあるんだ?」
「…変なことを聞くのだな。フルフート家の屋敷は、確か街の中央にあったはずだ。…それがどうかしたのか?」
突然の質問に、怪訝な顔をしながらも答えてくれたクェル。
なるほど。ってことはこの外壁のどこから入っても距離はそう変わらないのか。どこかに寄ってるなら、一番近い外壁まで馬を走らせてもらうつもりだったんだが。
俺は先ほどまでクェルが探っていた壁の近くに寄ると、その場所を確認するようにして壁を見上げた。
「…まぁ、これならいけるな。そこから動くんじゃないぞ」
「カオル殿、いったい何を…」
「『咲け』」
クェルが何かを言い切る前に魔法を発動させる。すると、俺たち二人の立つ地面が突如隆起し始め、やがて地面から生えた何かがその姿を現した。
「なっ!?」
「ほれ、しっかりつかまれよ」
咲かせたのはクスノキ。あれも花が咲くので俺の魔法で咲かす事は可能なのだ。というか、この魔法は花を咲かせるのではなく、花が咲くまでの過程を無視して生やす、といったほうがいい。故に、こんな事も可能なわけなんだが。
ちなみに、クスノキを選んだのは気分。あの有名なジ〇リにもでてたしね。花言葉は確か『芳香』
一瞬にして外壁を越える大木にまで成長したクスノキ。ザワザワという木の葉同士が揺れてこすれる音が鳴るがまぁ問題はない。木はそこらじゅうにいっぱいある。
俺たち二人がいるのは、そんなクスノキのてっぺんだ。壁を越える高さまでいっきに成長したため、壁内の街の様子がよく見える。中央見える馬鹿でかい屋敷の影がフルフート家なんだろう。
「カ、カオル殿には、常識というのが通用しないのか…?」
クスノキの葉で姿が見えなかったクェルはてっぺん部分に出てくると、そこからの景色を見ながらそんなことを言った。
「失礼だな。じいさんなんかと比べれば十分常識的な部類だろうに」
「……比べる対象がおかしくはないか?」
たぶんおかしい。
「さて、あとはここから屋敷に向かえばいいんだが……降りるのも面倒だし、歩くのも面倒だしなぁ…」
見下ろしてみる。
それなりに高さはあるようで、ざっと見積もってだいたい十メートル……いや、二十近くはあるか?
この高さを飛び降りるのは少々危険だな。
「では行こうか」
「……何してるの?」
「? 降りる準備だが?」
隣で屈伸運動し始めたクェルに聞いてみれば、何を当たり前のことを、見たいな目で見られた。こいつ頭おかしいんじゃねぇの?
それともこいつくらいになると、これくらいの高さを飛び降りるのは常識みたいなものなのだろうか。仮面付けさせてライダーって呼んでやろうか。
これよりすごいのが溢れているなら、とんでもない魔境だな、この世界。パワーインフレって言葉知ってる?
「……なぁ、クェル。一つ良い案があるんだが、どうだ? それなら、かなり早く目的地に到着できるぞ?」
まあでも、それならこの案も上手くいくだろう。
作戦名、『デルタプラス』開始!!
◇
「本当に……本当に常識はずれだな、カオル殿」
「話している暇があるなら、もっと急げよ。まだ半分過ぎたくらいだぞ」
さっさと走れと言ってやれば、クェルは怪訝になりながらも黙って街の上空を駆け抜ける。夜だからなのか冷たい風が頬を撫でた。
「これで明るくて人が見えたら、人が豆のようだ! なんて言ってやれたものを…」
「…その台詞はどうかと思うぞ」
独り言のように呟いたクェルはそう言って、目の前に迫った蔓を飛んで避けると、着地の振動が俺にも響いた。振動が来ないようにもっと丁寧に扱ってほしいものだ。
「…落ちるなよ? マジで。俺だけ落とすのも許さんからな? やったら、即この足場を消してやる」
「恐ろしいことを言うんだな……だが安心してくれ。この程度、私なら問題はない」
しっかり掴まっていてくれと言われたので、その通りに肩を掴む。相手に影響しないように掴む必要があるためなかなか難しい。そのため、俺とクェルを括り付ける植物(花つき)をもう一つ追加する。
案外、おぶられるというのも難しいものなんだなと実感した。
デルタプラス作戦。その場で思いついた作戦にしてはそれなりにうまくいったとは思っている。走る中をおんぶされるというのがこれほどつらくなければ完璧だったといってもいい。
内容は簡単。
まず俺が外壁からフルフート邸まで届く巨花を咲かせる。詳しく言えば、根元が壁側で先がフルフート邸の屋根に絡まるように咲かせている。謂わば橋だ。
多少うねったり、歪んだりはしているがそこは植物だから仕方ない。一応は俺の魔力をエネルギーとしているため、俺からの供給がなくならな限りはそこに在り続ける。これくらいの魔力消費は屁でもない為そこも問題はない。
後は力の強いクェルが俺をおぶり、その上を駆け抜ければいい。
幸い夜ということもあって、俺たちの姿と巨花は見えづらい。雲がかって月明かりがそれほど強くないことも幸運だろう。おまけに道を使わない上からの進入。気にするやつはほぼいないはずだ。
「言ってる間にもう間近だな。海藻類達より早く着いたりしてないか?」
「可能性はある。どうする? 二手に別れるか?」
「んじゃ、俺は屋敷内に入る。クェルは外で戻ってこないか見ておいてくれ」
「それだと、もう帰っていた場合カオル殿が危険ではないか?」
心配そうな声を出すクェルであったが、俺は大丈夫、と一言。
そもそも俺の魔法は外のような広い場所よりも、室内のような狭い場所の方が効果を発揮する。全員が屋敷内にいるのなら上々。入る前に屋敷ごと花の巣窟に変えてやれば、それだけで解決する。
「んじゃ、クェルは外を……ッ!? クェル!! 跳び下りろ!!」
俺の口調が突然変わったことに驚いたのか、クェルは一瞬こちらを見るも直ぐに指示通り巨花の橋から跳び下りる。俺も、襲い来る浮遊感に叫びそうになるのを耐えた。
瞬間、ゴウッ、と背後が赤く光った。同時に、とんでもない熱風が追い風となって俺たちを襲う。
「い、いったい何が……っ!?」
何とかフルフート家の庭に着地を決めたクェル。かなりの振動があったのでもう少し何とかしてほしかったとか思いつつ、クェルの顔を見てやれば、その顔は驚愕に染められていた。
そりゃそうだろう。なんせ、今まで橋に使っていた巨花の一部が燃やされているのだ。
「張ってりゃ来ると思ってたのが当たったみたいだな」
巨花にまとわりつく炎があたり一辺を赤く照らす。そんな中を悠々とこちらに歩いてくる人影が一人。その人物を見て、クェルはそいつの名を呟き、俺は顔を歪めた。
「よぉ、また会ったな。賢者」
「人違いです」
【炎狼】コール。本日二度目の邂逅であった。
超面倒臭ぇ。
面白かったら、ブクマ、評価お願いします!
か、感想とかレビューでもいいんだよ?やる気!出しちゃうんだから!!




