29:事の起こり
どうも、二修羅和尚です!
今日は暑い!とにかく暑い!夏か!?
とまぁ、そんなこんなで第二十九話
どうぞ!
決闘後、駆けつけてきたPさんが飛びついてきたので避けた。
ここで優しく抱きとめて、それらしいことを言えればかっこいい主人公なのだろうが残念なことに俺にそんな願望はない。
それに、女を受け止めるのならアリエッタくらいになってから出直してもらいたいものだ。なお、あれほどの怪力は要らないので悪しからず。
避けられた事に腹を立てたのか、顔を真っ赤にしたPさんが殴りかかってくる。
先ほどまでこれ以上の攻撃を相手にしていたために脅威とは思えないのだが、それでもわざわざ当たってやるつもりもないので余裕を持って回避する。そういうのは、喜ぶやつにやればいい。容姿はいいのだから大歓迎されるだろう。
こちらの世界に来てから、やけに回避がうまくなった気がする。あれか、これもリアの実のおかげなのか。
ついにはクェルに俺を捕まえるように指示を出すPさん。当の本人は苦笑いで曖昧に返事を返していた。
まぁ最後は、いつの間か俺の後ろに立っていたアリエッタに、力の限り抱きしめられるという結果に終わったのだが。骨が折れて、内臓が飛び出るかと思った。
双山は柔らかかった…気がする。記憶にはない。
◇
目が覚めたころには、もうあのマルフとかいう貴族は帰ってしまったそうだ。別に顔を合わせたいとは思わなかったのでそれはそれで構わないんだが、ユリウスとウィリアムと俺の三人になった時に聞いた話ではあのマルフとか言う貴族が王国(アリエリスト家は王国に仕える貴族なのだとか。初めて知った)を裏切って他国に情報を流していたらしい。
コール(コーラじゃなかった)については治療して帰ってもらったんだとか。なんでも、あのままだと死んでいた可能性もあるそうだが、それを聞いている俺は、毒の効果があったのか? くらいにしか考えなかった。
それと、あのカーマインの裏切り。アリエリストの情報をマルフに流していたそうだ。
知ってた。
あの貴族はもうじきやって来る王都の騎士団に連れられ、王都で裁判にかけられるらしい。どのような罰が下されるのかなんて興味はないが、ユリウス曰く軽いものではないらしい。死刑とかあるのかもしれない。怖い怖い。
それと同時に、カーマインもアリエリスト家の魔法使いを辞めさせられたそうだ。やっていたのはアリエリスト家の情報をマルフに流していた程度とのことで追放、という形をとったのだとか。
昔は優秀で熱意のある男だったんだけどね…とはユリウスの話。なんでも、王都の魔法学校を第六席で卒業し、そのままここに就職したらしい。
六位ってのがあの海藻類らしく微妙に聞こえる数字だが、魔法学校に集まるのは有望な貴族の子供たち。総数は騎士学校よりも少ないらしいがそれでもすごいんだそうだ。
まぁ、俺にとってはどうでもいい。
大事なのは、俺は決闘に勝ち、このアリエリスト家で夢に見たヒモとしての楽のできる生活を享受できるということ。更に、ひとつの懸念であった海藻類がこの家から出て行ったことで俺に悪感情を抱く輩が消えたこと。
快挙である。カオル君大勝利。悪は滅びた。
これで俺が心配することは何もない。じいさんに森から出て世界を見て来いなどという俺のことを考えてくれているはずなのに頭が逝ったとしか思えない発言を聞いたときは、俺のこの身はどうなるのかと不安になったこともあった。不安になりすぎて枕を濡らした程だ。 だが、世界は俺を見放さなかったらしい。現に、俺はこうして人として文明的な生活を得ることができるのだ。世話だってしてもらえる。まさにここが楽園。ヒモとして生きろという神様の思し召しだ。
まぁ、世話をするのはPさんなんだが。あれで年上でグラマーで性格も良しだったなら文句なしのパーフェクトなのだが……そこはPさんの将来に期待しよう。なにせ、遺伝子的には問題ないのだから。
最悪、俺の理想に当てはまりそうなメイドさんを雇ってもらえればいい。
ただしアリエッタ、君は遠慮してくれ。条件には当てはまるかもしれないが、あの筋力を天然で発揮されれば俺はいつか死ぬ。その自信がある。
ユリウス、ウィリアムの二人と別れて自室に戻る。ここに来てからずっとこの部屋だし自室といってもいいだろう。何なら、この部屋で養ってもらうのもありだ。もちろん、ここよりもよさそうなところがあるのならそこに移動するつもりだ。
壊れていたドアノブはすでに新しいものに付け替えられたらしく、前のものよりも造りがしっかりしていそうだった。
対応が早いことに感心しつつ中へ。手にしていた杖を扉のすぐ傍に立てかけ、部屋の奥のベッドに飛び込んだ。
もう陽は沈んだ。明日からはいよいよ前の世界から夢見ていた生活が始まる。その祝杯として、月を眺めながら酒なんてのも良いかもしれない。酒はユリウスに頼んでメイドさんに持ってきてもらおう。
この世界に来る前は未成年だったので向こうの酒の味は知らないが、まぁ大丈夫だろう。だめでも、酔うくらいだ。リアの実があればすぐに治る。
「…そうだな、明日から世話になるし、Pさんとアリエッタも誘ってみるか。Pさんには酌でもやってもらおうかな」
美人に酒を注がせると更にうまい、何て言葉を聞いた事がある。アリエッタはおっとりしてるが美人だし、Pさんはあれでも見てくれは美少女だ。アリエッタも、身体接触を避ければ怪我をすることはないはずだ。
ベッドから立ち上がる。もうこの時間だとメイドさんは待機していないだろう。仕方ないから自分で動く。
いつもなら面倒臭がって諦めるのだが、まぁ今日くらいは自分で動こうじゃないか。
夜で本来なら冷えるんだろうが、じいさんがくれたこのローブはそこらへんも完璧であるらしい。ちょうどいい温度に保ってくれている。
こりゃ夏や冬がきても安心だな、と考えながら部屋を出た。
その直後だった。
「ッウォ!?!?」
ドカーンッ!! と何かが破壊される凄まじい音が屋敷に響いた。若干の揺れが廊下ごと俺の体を揺する。
たいした揺れではなかったが思わず手を廊下の壁についた。
破壊音からするに地震ではないのだろう。襲撃でも受けたのか?
「勘弁してくれよ…」
揺れは直ぐに収まったが俺はそのままの体勢で項垂れた。明日から新生活だというのに、何故前日にこのような面倒ごとに巻き込まれなければならないのか。イベントはもう決闘だけでおなか一杯なんだよ…!!
先ほどまで高揚していた気分が一気に下がる。まるでヒマラヤから地獄に落ちたようだ。
メイドさんたちの悲鳴と思われる声が屋敷中に響き渡る中、俺は深い深いため息を吐いた。
「ここに居られましたか、カオル殿」
「ああ、ウィリアムさん。これ、何が起こってるんだ?」
とりあえず、部屋に置いて来た杖を取り廊下を歩いていると暗闇からウィリアムが現れた。どこから現れたのかは今は気にしないが、状況がよくわかっていないため教えてもらうことにする。
「それは後で説明を。今は私とともにユリウス様の下まで来て下さい」
「…了解。案内よろしく」
ここで説明しろよ、という言葉が出かけたが、それをグッと飲み込んで指示に従うことにする。
こっちです、と走るウィリアムに走らせてんじゃねぇよと心の中で文句を言いながら着いて行く。途中途中で慌しいメイドさんたちを見かけたが、それを全無視してウィリアムと俺はユリウスの下まで急いだ。
「ユリウス様! カオル殿をお連れしました」
「入ってくれ」
ウィリアムが立ち止まったのは、他の扉よりもしっかりしていそうな造りをした扉の前。一度立ち止まって丁寧にノックをしたウィリアムは、ユリウスの許可を経て中へ入る。
それに続いた。
「やぁ、さっきぶりだね、カオル君」
そう言っているユリウスは執務用のイスに座っていた。手を顔の前で組んでいるため顔は見えないが、声色からしていつもと違うことはよくわかる。
「…それで? 何が起こったんだ?」
話しかけようか迷ったが、このままだと次に進むことがなさそうだったのでユリウスに状況説明を求めると、ユリウスは手を下ろして立ち上がる。
黒い笑みだった、とだけ言っておこう。あえて補足するなら、目が笑っていなかった。
「どうやら、私の恩情はあの二人には届いていなかったようでね…アーネストが攫われたよ」
「…は?」
言葉からして、下手人はカーマインとあのマルフとかいう貴族なのだろう。
だが、何故そこでPさんが攫われるのかが理解できない。
「何故なんだ?あの貴族が関わっているならアリエッタを狙うと思うんだが…」
「一応、アリエッタの方にも襲撃はあった様なんだが…逆に返り討ちにしたみたいでね」
容易に想像できるのが怖い。
「で、アリエッタが失敗したから、P…アーネストだけでもってことか?」
「少し違うね。アーネストの方はカーマインの私情も入っているだろう。何せ、あの男はアーネストに恋慕していたようだからね」
その言葉に、どこか納得している俺がいる。まぁクェルからそういう話は聞いていたし、あいつの反応からして明らかだったんだが。
「クェルも奮闘はしてくれたんだが、カーマインを含めて強化兵三人を相手には劣勢だったようでね。隙を突かれて攫われたらしい」
クェルがどの程度の実力なのかは知らないが、森でじいさんが多少認めていたのを思い出すにかなりの実力もちではあったはずだ。
それがカーマインを含めて四人いたとは言え劣勢に持ち込まれる?
強化兵、という響きからしてろくでもないものなんだろうとは簡単に予想がつく。俺がアリエリストの代表となる際の決闘に出てきた相手も確かコールが強化兵といっていたはずだ。
一瞬で勝負をつけたので、あれがどれほど強いのかはよくわからないがそれなりに警戒すべき相手であったようだ。
「…で? 俺に取り返しに言って来い、と?」
「私も行きたいのは山々なんだけどね? こうなった以上、私が留守の間に屋敷を狙われる可能性もゼロではないんだ。だから、君にはクェルとともにフルフート家へ向かってもらいたい」
「フルフート家がやったっていう証拠は?」
「心配ない。カーマインがベラベラ話したらしいからね」
マジで馬鹿なんじゃねぇのあいつ。
そして何故か、俺も動くことを前提に話をしていやがる。面倒だ。
それに、これはある意味貴族同士の間で起こった事件。俺抜きで解決しろよ、と言えればそれでよかったのだが、残念なことにそれはできない。
よく考えてほしい。ここで俺がNOと言えばアリエリスト家当主であるユリウスとの関係は最悪になるのは必然だ。約束であるため、一応養ってくれるであろうがそこに感謝はない。もしかしたら、なんやかんやのいちゃもんをつけて俺を追い出す可能性もある。もっとも悪い状況を考えると、暗殺とかもあるかもしれない。
せっかく決闘なんて面倒臭い事までして手に入れた夢のヒモ生活を、暗殺の恐怖に怯えながら過ごすなど真っ平ごめんだ。
故に、ここでの選択肢がYESしかないという強制ルート。クソゲーは〇ね!
「…そのフルフート領までの道を教えてくれ」
不本意なことではあるが、受けるしか道はない。ならせめて、事を速攻で解決してやろう。そして直ぐに帰って寝る。夜中に面倒事を起こしてんじゃねぇよ。
俺はユリウスの指示に従って門に向かう。怒りを込めて、杖で廊下の床を突きながら。
◇
それからすぐ、俺はクェルと合流してフルフート領へと向かった。馬を出してくれるそうなのだが、俺は乗れないのでクェルの腰にしがみつく形で向かうことになる。みっともないとか言わない。出来る事、出来ない事が人にはある。故に、出来ない事を出来ないという事の何が悪いのか。
だからクェル。その哀れみの目は止めろ。
男子諸君が喜びそうだから追記しておく。
今回のクェルは急ぐために鎧を脱いでいる。柔らかかったとだけ言っておこう。
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