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花を咲かせる魔法使いはとりあえず楽をしたい  作者: 岳鳥翁
アリエリスト領と花の魔法使い
24/76

24:青林檎改め

どうも、二修羅和尚です!

ブクマやPVが増えてきてめちゃくちゃ嬉しい今日この頃



もっと増えろー!

 「それで? いったい、何をしたのかを聞いてもいいかな?」


 Pさんから依頼された決闘を明日に控えた前日の夜中。つまり今。

 本来なら明日のことも考え、もう寝て夢の中へとレッツゴーしたいところなのだが、そううまくはいかなかったらしい。


 何でや(関西風)


 現在、俺に貸し出されている客人用の部屋には、俺の体面に座るユリウスの他に、あの忍者みたいな人が扉付近で控えていた。

 用件はもちろん、本日の昼間の件。つまり、Pさんの言ってたアリエッタの病状が治った、ということについてである。


 

 

 今日のあの昼の続きだ。


 慌ただしく駆けこんできたPさんによって、俺の昼食が一品無駄になったのだが、そんなこと知らんとばかりにPさんは俺の手を取って部屋の外に連れ出した。

 面倒だし部屋出たくないしでPさんに抵抗して扉にしがみついていたのだが、後ほどやって来たクェルによって引きはがされたのは御愛嬌。


 一般人よりも身体能力が上であるとはいえ、魔法使いである(三十歳の意味ではない)俺が騎士であるクェルに筋力で勝てないのは当たり前だった。


 そんなわけで、無理やり俺が連れて行かれたのはここアリエリスト家の庭。

 領主宅ということもあってかなり広い庭は、前の世界でいえば野球を二試合同時にできる程の広さを誇る。

 そんな庭とアリエッタに何の関係があるのかと思って俺の手を取っていたPさんに聞いてみると、Pさんはあれ、と庭のある一点を指差していた。

 余談であるが、まだ手をつなぐのかと聞いてみると顔を真っ赤にして怒っていた。


 まぁそれはいい。本題だ。


 Pさんが指さす方へと目を向けると、そこには小さいながらもドレスを身に纏った女の子が見えたのだ。恐らくあれがアリエッタなのだろうと当たりをつけたつけた俺だったんだが、すぐにその考えを疑った。


 なんせ、件のアリエッタであろうと思った女の子は、身の丈はあろう大剣を持っていたのだから。


 そしてそこから始まる大剣の振り回し。武器の扱いなんぞ素人も当然な俺であったが、それでもその扱いがとんでもないことだということは分った。

 あの大きさの剣でどうしたらその速度で振れてそうなるのかとか色々と考えたのだが、結局行き着いた答えはファンタジーすげぇの一言のみ。



 つまり、俺らしくもないこんな長々とした話をして何が言いたかったかと言えば、だ。


 アリエッタ、マジ戦士(白目)


 その後、にこやかな笑顔で駆け寄ってくるアリエッタは、担いだ大剣も相まってとても恐ろしかったです。








 で、今に至る、と。

 俺にも理解できないです。



 「なあ…何をしたか、の前にアリエッタのことについて教えてもらってもいいか?」


 俺の中ではもう犯人が青林檎と言うことは分っているのだが、いくら万能凄い青林檎先生でも、あの儚げ天然お嬢様を筋力特化ゴリラのような戦士には出来ないはずだ。

 できたら、あの冒険者達は偉いことになってる。


 「ふむ…確かにそれもそうだね。これは君にも関係してくることだ。話しておいたほうがいいだろう」


 そういって、ユリウスは忍者さんにお茶を用意させた。どうやら、少し話して終わり、とはいかないようだ。

 あと寝たい。


 いつの間にか執事服に着替えていた忍者さんがポットとティーカップを載せた台車を運んでくると、俺とユリウスの前に洗練された動きで配膳していく。

 

 「…そういえば、彼のことについては話していなかったね。君を調べるようなまねをして申し訳ないとは思っているが、領主として。何より、あの娘達の父としての行動だ。許してほしい」


 「…まぁ、俺に害がなければいい」


 だから、紹介とかいりません。絶対その人(やってる仕事が)やばい人じゃん。


 「ありがとう。ではウィリアム。自己紹介を」


 「はっ。言葉を交わすのは二度目ですが、改めて。私はウィリアムと申します。こちらのユリウス様に仕え、情報収集や諜報、暗殺などを受け持っております。何か用事などがございましたら、何なりと御申しつけください」


 今の執事服に見合う、丁寧な言葉丁寧な仕草で挨拶するウィリアム。

 俺はその礼に、お、おうと微妙な返答しかできなかった。内心、紹介いらなかったと文句を言いたかったが、口にして言わなかった俺も悪いのだろう。もっとも、出したところで無視してやりそうだけどなこの領主。


 …仕事内容とか聞かなかった。いいね?


 「娘たちも知らないウィリアムのことを話したのは、こちらが君に示す最大限の信頼だと思ってほしい。無論、だからこうしろなんてことはないが、出来れば君といい関係を築きたいと思っている」


 どうかな、と問いかけてくるユリウスはまっすぐに俺を見る。どうやら、俺の返答を待っているようだ。


 だが、こちらとしてはそもそも敵対なんて考えてはいないし、するつもりもない。

 後は特に決めてはいないが、約束を果たしてくれるならば、Pさんやユリウス、アリエッタに迷惑のかかることはしないことを誓ってもいい。養ってもらうにしても、養ってくれる人たちと良好な関係を築けたほうが良いに決まっている。

 あまり仲が悪くなりすぎれば、いくら約束とはいえ難癖つけられて追い出されるかもしれないのだ。


 そのときは森に帰るだろうけど。


 そう考え上でユリウスの言葉に頷くと、ユリウスは良かった、と安心した様子で笑う。


 「さて、あまり遅くなっても迷惑だろうし、話を進めよう。アリエッタのことだが、あの娘は弱る前までは元々あんな感じだったよ」

 「…嘘はよくないぞ?」

 「ははは、まぁそう思うだろう。私も最初は驚いたさ。どうやらアリエッタは妻のアリーネに似たようだ」


 あなたの奥さんはゴリラなんでしょうか?


 口にしそうだったが何とかこらえた。


 「…奥さん、すごい戦士だったりするのか?」

 「かなり、ね。多分実力で言えばこの王国でも十指には入るんじゃないかな? 彼女も貴族ではあったが、戦場ではその見た目と戦う姿から【鬼姫(おにひめ)】なんて呼ばれていたそうだしね」


 まぁ、そんな妻に惚れた私も私だが、とやや自嘲気味に笑うユリウス。

 本当なのか、という目をその隣にいるウィリアムに向けてみるが、彼も彼で苦笑気味に頷いてた。どうやらマジらしい。


 ゴリラじゃねぇか。


 その後も本題から外れて続くゴリラさん(口には出さない)自慢であったが、ウィリアムが軽く咳払いしたところでとまってくれた。

 ユリウスはわるかったね、と照れたように笑う。


 どこの無双ゲーなのかといいたくなるような話ばかりで、ある意味で楽しかったです。


 「まぁ、ユリウスさんが愛妻家なのはわかったし、アリエッタがそんなすごい奥さんの血を強く受け継いでいるのもわかった。ただ、そんなアリエッタがどうして弱ったんだ?」


 聞いている話じゃ、そのアリーネさんとやらは殺しても死なないイメージしかわかないもんだ。そんな人の影響を血として受けているアリエッタが何故患ったのか。そこがわからない。


 ちなみに、Pさんはユリウス似であるそうだ。


 「何故、か。正直言って、何が原因なのかはわからないんだ。ただ、体内の多大な魔力が影響していることは医者に診せてわかっていたんだ」

 「魔力が多すぎた?」


俺の疑問の声に、ユリウスはこくりと頷く。


 「ああ。自慢ではないが、私も魔法使いとしてはかなり優秀な男だったんだ。アリエッタは身体能力は妻に、魔力の量は私に似てね。成長してからなら大丈夫だったんだが、アリエッタは体が成長しきらないうちに魔力の量が急激に増加。結果、運動機能に悪影響が出ていたんだ。それも、まともに剣も振れないほどにね」


 視線を目の前のカップに落とすユリウス。ユリウスやその奥さんも親として何か思うところはあったのだろう。目の前のユリウスからどこか悔しそうな様子が見てとれる。


 笑顔、という仮面を着けていないユリウスはどこか新鮮に感じられた。


 「……だが、それは今日までの話だ」


 暫くは黙って俯いていた彼であったが、やがて顔をあげた頃にはいつも通りの胡散臭い笑顔がそこにあった。 言外に何をしたのか、と聞いているのだろうことがよく分かる。


 まぁだが、今の話でよくわかった。つまり、青林檎先生が犯人。青林檎の効能がどういうものなのかは今までは毎日のように食べてきた俺もよく知らない。せいぜい飽きのこない、めちゃくちゃ美味しくて色々と万能な果実、という認識程度だ。


 じいさんが知っているそぶりであったが、自分で調べろの一点張りですごいということしか教えてくれなかったのだ。知ったときの俺の反応を想像して楽しんでいたそうだが、ユリウスが知っているならここで聞くのもありかもしれない。


 「何をしたのか、だろ?…まぁあれだ。俺が森で毎日食ってたのを食わせただけだよ」

 「そういえば、何か食べてたとアーネストが言ってたね。見せてもらってもいいかい?」

 「ちょっと待ってろ」


 面倒ではあるが、ユリウス達の前であるため杖を手に取る。いつボロがでるかはわからないが、意識している限りはやるようにしているのだ。


 昼間と同じように俺は青林檎を魔力を用いて一気に果実まで成長させる。

 その様子を見ていたユリウスは、ほう、と感嘆の呟きをもらした。


 「決闘の時も思ったが、君の魔法はなかなか興味深いものだ。魔法の腕前もかなりのものだね」

 「誉めても何もしないぞ」

 「わかっているさ。さて、これがアリエッタに食べさせ………」


 ピタリ、とユリウスの声が消えた。

 もう夜中であるということもあり、部屋の中がシンッと静まり返る様子は些か気味が悪い。何かあったのかと思ってユリウスを見れば、彼はその碧眼を見開いて目の前の青林檎を凝視していた。

 それはユリウスの隣で控えていたウィリアムも同様なようで、立ったまま固まっている。


 二人とも整った容姿をしているだけに、今のこの光景はどこか滑稽なようにも感じる。


 「…ウィリアム。私は、夢でも見ているのかな? 私にはリアの実があるようにしか見えないんだ」

 「残念ながらユリウス様。私にも見えております。…夢ではないかと」


 ウィリアムの言葉に、そうかと諦めた様子のユリウス。

 

 「カオル君。君はこれをアリエッタに食べさせた。それで間違いはないね?」

 「え…あ、ああ。そうだな」

 「なるほど。なら、納得のいく話だ。…まったく、君は私を驚かして殺すつもりかね」


 リアの実。それが今まで俺が青林檎と呼んでいたものの本当の名前なのだろう。

 ユリウスは苦笑そう言うと、青林檎…リアの実を一つ手に取り、食べてもいいか、と俺に問う。


 別に断る理由もないためその言葉に頷くと、ユリウスはそのまま齧り付いた。

 

 「…うん、思ってた通りリアの実で間違いなさそうだ。しかも、昔食べた物よりもおいしい気がする」

 「そりゃ結構なことだ。…で? 俺としてはそれが何なのか、それを早く教えてほしい。手短にな」


 もう時間も遅い。

 俺としては早く寝たいところなので、ユリウスが食べ終わるのを待つつもりはない。ここで聞いておかないと、自分の性格上後回しになって結局聞くのが面倒になることは目に見えているのだ。なら、この場で話を終わらせておいた方がいいだろう。

 最悪、森へ帰った時に調べてこいとか言い出すかもしれないからな。あのじいさんならやりかねない。



 ユリウスにリアの実とやらの詳細を聞き終えたのは、日付が変わる直前のことだった。

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