23:懐かしの味、青林檎。尚、まだ数日
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「…暇だ」
時刻はまだ昼を過ぎたころか。
ゴロン、と寝返りを打ち、いかにも高級そうな(実際高級)ベッドの上で一人呟いた。
あの海藻類が連れて来た男との決闘の翌日。俺はユリウスの遠慮なく寛いでくれという言葉に従って、そのつもりでいたのだが、存外やるとこがないというのはそれはそれで詰まらないものである。
ベッドに伏せ、意味のない音を枕に向かって吐き出し続ける。
普段から動きたくない、働きたくないといっている俺が何を言っているのかと自分でも思うが、そういう意味ではなく娯楽や趣味といったものがやりたいのだ。労働したいわけではない。
森では花の世話だったり、生き物との交流なんかで暇を紛らわせていたんだが、ここに来てそれもなくなったため、もうすでにあの森が恋しくなってきている。
ホームシック、とでも言うべきか。もしくはフォレストシック。
一瞬、しーちゃんに会うために森へ帰るくらいならいいかもしれない、と考えることもあったが、ここから森までまた歩くのは単純に疲れるし面倒くさい。更には、じいさんから何かしらの文句(物理)があるかもしれないのですぐに諦めた。
まぁこの家の俺に対する待遇はいいのだ。文句は言うまい。が、それでもやはり暇なのはいただけない。
そんなわけで、何かないかとユリウスに尋ねてみた。この部屋から動きたくないので、メイドさんを通じてのやり取りだったが、返ってきた返事は『うちの魔法使いと模擬戦なんてどうだい?』というなかなかクレイジーなものだった。顔に似合わず、思考回路に筋肉でも詰まっているのか。
追加でカーマイン…海藻類は今いないから大丈夫と言っていたが、何をどうして大丈夫と言ったのだろうか。むしろ、今の時期にいないことの方が問題な気がする。何かやらかしそうだし。
まぁそんなわけで、現在の俺は特にやることもなく、ベッドの上でゴロゴロしているわけなのだ。
ちなみに、フルート(多分違う。けど忘れた)とかいう貴族との決闘は明日行われるらしい。これを聞いた時、本当に時間ギリギリだったんだなとは思った。
場所は昨日の訓練所であるらしく、相手側がこちらに出向くそうだ。
てっきりお前らが来いとか言って偉そうにしている貴族を想像していたので驚きである。もっとも、決闘に勝ってすぐにアリエッタを連れていくため、などという理由を後からユリウスに聞いて溜め息が出たが。あと、その時のユリウスの顔が怖かった。
笑顔が黒いってあれのことを言うんだね。
「…そうだ、青林檎食べよう」
枕に押し付けていた頭を上げ、思い立ったように口に出していた。
よく考えてみると、森では毎日のように食していたはずが、森を出てからは一度も口にしていない。
思い出すのはあのなんとも言えないほのかな甘味。いくら食べても飽きの来ない、それ一つで完結していると言っても過言ではない程の果実。
いつものように『咲け』の一言がなくとも、体が勝手に動いた。
杖はベッドから離れた場所に立てかけてあるが使わずとも魔法は使えるので問題もない。この部屋にも人の気配はないので、警戒する必要もないだろう。
…もっとも、あの忍者さんの本気がじいさん並みでなければ、の話ではあるが…ま、ないな。
忍者さんのことを思い出して、昨日の決闘の相手のことも思い出したのだが、今はそんなことよりも青林檎だ。
目の前には、俺の知る西瓜のような実のつけ方をした青林檎が数個。
完全な人工物であるこの部屋の床からこんなものが生えている光景は、コンクリートを突き破って生えていたタンポポを思い出させる。
ただ、今回は俺の魔力をエネルギー源としているため、根っこはない。そのため、俺がこれを咲かせるのに用いた魔力が尽きれば、途端に枯れ始める。そのため、収穫は手早く、だ。
「しかし、こういうことには本当に便利だよな、この魔法」
俺の魔法は花を咲かせる魔法、という認識であっているのは確かだ。だが、少し違う。
俺の魔法、もう少し詳しく言うと、好きなとき、好きな場所に、花が咲くまでの過程をすっ飛ばして想像した花を咲かせる魔法である。更に、青林檎のように何度も咲かせて慣れると、このように果実まで成長させることができるのだ!!
ん? 受精はどうしたのかって?
さあ? そこはほら、ファンタジーの魔法だし? うまいことなってるんじゃないの?
基本は俺の魔力を用いているが、俺がエネルギーとする対象を指定すれば、それをエネルギー源としたりする。昨日の決闘みたいに、生物を対象にすることも可能だ。
そんなわけで、一発の火力がないかわりに、そういったえげつない姑息な手を使うしかないのが現状だったりする。
…まぁ、大技はあるがそれはいいだろう。もともと、じいさん相手に使うような奴だし。
閑話休題。
つまるところ、農業なんかに使えばかなり稼げそうなものである。(やらない)
「青林檎うめぇ…」
あぁ、懐かしき(数日)故郷の味。
そういえばこの青林檎、じいさんもすごいと言ったすごいものであるそうなのだが、いったい何なのであろうか?
内心、もうすごい食べ物でいいじゃんとか思っているのだが、俺自身少し気になっているのも事実である。決闘が終わったらユリウスにでも聞いてみることにしよう。
覚えてたら、だけど。
「うんめぇぇえ……ん?」
誰かが俺のいる部屋の前で止まったのを感じたたので、扉のほうに視線を向ける。
すると扉は、できるだけ音が立たないように開けられ、わずかに開いた隙間からすばやく侵入する人影。
人影…ていうかドレスなんですが。
「ふふっ、また会いましたね、カオルさん」
「会った、というかそっちが合いに来たんでしょうが」
そう侵入してきたアリエッタに返してやると、一瞬まぁ、と驚いて見せ、しかし次にはにこやかに笑ってみせる。
「そんな風に言われたのは初めてだわ。…ところで、カオルさんが食していらっしゃるのは?」
「これか? この間話したときに言ってた、森でよく食べてた果実だ」
「まぁ、それが話してくださったあおりんご、というものなのね! 私も食べてみたいわ!」
体が弱いとは思えないほどの軽快足取りで、俺の座るベッドまでやって来た彼女は、そのまま勢い良くベッドに腰掛けた。
視線が今食べている最中の青林檎に向いているのだが、流石にこれを食べさせるわけにはいかないので、すぐに新しいものを咲かせて用意する。
何もない部屋の床から突然生えてくる所植物に、まぁ、と簡単の声を上げるアリエッタ。
この間も見ただろと尋ねてみると、この間は気づいたら花に囲まれていたので、こうやって見るのは初めてなんだとか。
「どうやって食べるのかしら?」
「んなもんそのままかぶりつけば…って、お嬢様はそんな食べ方はしないか。切るなら勝手に切って…」
俺が言いきる前に、シャクッ、という音が聞こえた。
みると、アリエッタは小さく口を動かしながら顔を綻ばせている。手には小さく口の付けられた青林檎。
どうやら、そのまま齧りついたようだ。
「おいしいわ! こんなおいしい果物は初めて! …少しはしたなかったかしら?」
「…まぁ、構わないならそれでいい」
アリエッタから視線を外し、俺も青林檎の残りに齧り付く。
うん、うまい。
それから少しして、アリエッタが青林檎を食べ終わった。
だいぶ前に食べ終わっていた俺はその様子を見ていたんだが(変な意味ではない)、あんな風に終始おいしいと言って自分の好物を食べてもらえるのは嬉しいものである。
「おいしかった…また食べたくなっちゃうわ」
「そりゃどうも。言ってくれりゃ、また出してやるさ。それほど手間じゃない」
「まぁ、それはうれしいわ! それに、何だか体の調子もすっごくいいの! ふふっ、きっとカオルさんのおかげね!」
「俺、というか青林檎のおかげだろうに」
まぁ、とんでも効果の青林檎だしな。アリエッタの調子がいいのも、あながち間違いではないだろう。実際、森に来た冒険者の怪我人も短時間で治癒した程の果実だ。
思いのほか体調が良かったのか、アリエッタはクルクル回ったり、軽やかに歩いてみたりとだいぶはしゃいでいるようだ。
と、そこへ部屋の前に気配があった。
俺がアリエッタに声をかけるより前に部屋の扉が勢いよく開かれる。
「姉さん! こんなところにいたのね!」
入室早々にそんな大声をあげたPさんは、貴族のお嬢様とは思えない足取りでアリエッタの元まで近寄って行った。
どこか怒っている雰囲気のPさんであるが、対するアリエッタはご機嫌な様子。
アーちゃんっ! という声をあげて向かってきていたPさんに飛びついていた。
「ちょ、急に危ないでしょ! 姉さんが転んだらどうするのよ!?」
「ふふっ、心配してくれてありがとう! 私、とっても嬉しいわ!」
何とか体勢をとってアリエッタを受け止めたPさん。そんなPさんをお構いなしに抱きしめるアリエッタは更にPさんの頭を撫でてたたみかける。
微笑ましい光景であるはずなのだが、Pさんの大平原によって形を変える双山に目が行く俺の心はとても汚れているのではないだろうか。
…健全な男子だからしかたないよね。
「あ、これいい…じゃなくてっ! 姉さん体が弱いんだから、部屋で休まないとだめでしょ! それに姉さんは色々と甘いんだから、いつ血迷ったカオルが手を出すか分らないわよ!」
「おい、それは酷いぞ」
「私たちのむ、胸を注視してたでしょ!?」
バレテーラ。
睨まれたので速攻で目を部屋の隅に反らす。
あと付け足すなら、俺はPさんの胸は見ていない。Pさんの胸板(失礼だが事実)に潰れるアリエッタの胸を見ていたのだ。
断じて貴様の胸は見ていない。
「アーちゃん。あまりカオルさんを怒らないで? 私が勝手にここに来たの」
「また部屋を抜け出したのね…父上が心配するわよ?」
「だって部屋にいるだけじゃつまらないわ。それに、今はとっても体調がいいの! もしかしたら、治ってるかもしれないわ!」
「わかった。わかったから。ほら、早く部屋に戻るわよ」
邪魔したわね、とアリエッタを連れて出ていくPさん。手を引かれるアリエッタは部屋を出る際にこちらにいつもの笑顔で手を振っていた。
「あ、それとカオル」
出て行ったと思っていたら、Pさんが顔だけ扉の隙間から覗かせていた。
何だ、と返してPさんに視線を向ける。
「明日、頑張りなさいよ」
それだけ、と言って扉を閉めて出て行った。
「…いや、お前が頼んできた事だろうに」
何故、命令口調なのかは疑問に思うところだが、まぁそれがPさん…アーネストという少女なのだろう。いちいち腹を立てるのも面倒だし、そういうものだと思っていればいい。
俺は再びベッドに身を委ねると、昼食が運ばれてくるまでの間まで五度寝をしているのだった。
「本当に治ってたんだけど!?」
そんな慌ただしいPさんが部屋に飛び込んできたのは昼食として出されたスープを飲んでいる時だった。
吹き出しちまったじゃねぇかこのアホウ少女め!!
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二修羅が狂喜乱舞します




