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花を咲かせる魔法使いはとりあえず楽をしたい  作者: 岳鳥翁
アリエリスト領と花の魔法使い
2/76

2:天使からの頼みごと

 さて、そんなこんなで森の中である。


 うん。俺もよくはわかっていないのだが、ゴールデンボールな状態から目を覚ませばここにいたため、取りあえずここが異世界ということでいいのだろう。

 ……もっとも、さっきの天使とのやり取りは全部夢で、俺が寝ている間にこんな森の中に移動していたというならば話は別であるが。何それ怖い。


 まぁとはいえ、今そんなことを言っても仕方のないことだろう。どちらにせよ、自分が今森の中にいることは変わりがないのだ。

 森の中のくまさんが、落し物を持ってきてくれるほど優しいとは考えられん。

 俺の頭も相当キテるなこれ。


 「取りあえず、状況確認だな」


 色々と考えるのも面倒臭くなってきたが、取りあえずはそうするのが一番だろう。俺だって自分の命が危うい時くらいは頑張るさ。できるだけやりたくはないし、やるとしても頑張るのは必要最小限に、だが。


 先ずは服装の確認からだ。

 俺が着ているのは長そで長ズボンのスウェット。俺の就寝時の服装である。森の中だと、虫とか枝などでの怪我が心配だから、ありがたいと言えばありがたい。が、暑い。

 

 生い茂る木々の隙間から零れる日光。木陰でこれだけ暑いのなら、直射日光はどれだけ暑いのだろうか。

 この暑さは夏だと思うのだが、俺の記憶が正しければ、今はまだ冬の名残の残る春だったはずだ。つまり、あの天使やら転生やらが夢だった場合、俺はいつの間にか夏の森の中にいることになる。


 「てことはつまり、夢じゃなかった、と考えるのが妥当か」


 なら一言言いたい。何故森の中なのか、と。

 贅沢は言わないから、転生させてくれるのなら近くに俺を養ってくれる美人さんの家の近くがよかったです。そして、ヒモライフが送れるならなおよし。それくらい、叶えてくれてもよかったはずだ。何故、楽をしたいと思って早々にこんな森の中なんだ。


 見渡せども木、木、木。人に会おうにも、まずどこに行けばいいのかさえ見当がつかない。

 こういうときは下手に動かずにジッとしておくべきだ、と何かの本で読んだような気がするので、取りあえず近くにあった木に背中を預けて動かないでおこう。

 だって、下手に動いても仕方ないし、疲れるだけだからね。


 「……そういえば、なんか手紙がどうのって言ってたっけ」


 何もせず、ただただ無意味な時間が過ぎていくだけだったが、ふと天使の少年の言葉を思い出した。

 正直な話、このまま夜になってしまうと流石に命の危険を感じるので、何かアドバイスがあればうれしいんだが。


 どこにあるのかと探してみたところ、ちょうど俺が目覚めた辺りに白い封筒が置かれていた。今まで気づいていなかったが風に飛ばされなかったのは幸いである。

 簡素な封筒で、表には花富士君へ、と書かれていた。裏を見れば、差出人の記入欄に天使よりと書かれてある。もう疑ってはいないが、改めて先程の出来事が本当のことなんだと思わされる。


 取りあえず中を見ると、そこにあったのは一枚の手紙。

 

 『やぁ、これを見ているってことは無事に転生はできたみたいだね』という文から始まった手紙ではあったが、いきなり着の身着のまま異世界の森の中のどこが無事なのであろうか。

 せめて、美人で甲斐性のあるお姉さんくらいはいてほしかった。


 『まぁどうせ君のことだ。転生早々に楽なヒモライフを送りたかった、とかなんとか言ってるんだろうけど、残念ながら僕にはそこまでする力はない。だから、それは今後自分で叶えてね』


 ……よくわかっていらっしゃる。だがあえて言わせてもらおう。

 もっと楽したいです! 努力するのは疲れるんです! 面倒なんです! 楽をさせてください!!


 『もっとも、君のことだ。楽したいやら疲れるやらと文句を言うのは目に見えている』


 ならもっと考慮しろよ。

 

 『そこでだ、君に提案がある。これは僕のするお願い事とも関係してくるんだけど、やってくれるのなら、君の夢が近づくと思うんだ』


 「よし来た何をすればいいんだ天使様。肩でも揉む? おまけに足もやっちゃうよ?」


 『……何か、気持ち悪いほど心変わりしてる君が容易に想像できるよ。ま、君がこの話を断るとは思えないからこのまま話は続けさせてもらうよ。多分君がいるその場所は、地竜の森と呼ばれる森のはずだ。そこから北に向かえば、植物が何も生えていない、生物も存在しない不毛の地があるんだけど、君に頼みたいのはそこを生命が生きられる土地に変えてほしい、というものなんだ。あ、無理とか言わないでね。なんせこれは、君に適性のあった特典なら可能だと判断したからこそなんだから。というわけで、更に詳しい話は不毛の地に着いてからだよ!』


 そこで手紙は終わっている。まだ中身がないかと手元の封筒を覗いてみるが、どうやら本当にこれで終わりであるようだ。

 ここで移動しないといけないのか。正直、森の中の移動とか疲れるし面倒だし御免被りたいのだが、そうしないと話が進まないし、今のままだとここで夜を過ごすことになる。

 それに、だ。いけば俺の夢、すなわち楽々ヒモライフ近づくかもしれないのだ。ならば、ここはいくしかないだろう。


 「……にしても、北ってどっちだ?」








 ◇












 「やっとか、やっと着いたのか…! 〇ねっ! 天使の野郎〇ねっ!!」


 もうあと数時間ほどで日が沈むんじゃないかと思う程に陽が傾いた頃、漸く俺は天使の手紙に書かれていた不毛の地とやらに到着した。ちなみに、俺が北へ向かえたのは、運よく木の切り株を発見できたからである。

 あれ、年輪の感覚が狭いほうが北なんだよな。知っててよかったよほんと。知らなかったら、今頃迷子で死んでいた可能性もある。雑学って、どこで役に立つか分らないな。楽にヒモになれる雑学ってなかっただろうか。


 それにしても、結構な距離を歩いたはずなのだが、それほど疲れたようには感じない。普段の俺なら、すぐに疲れてあきらめてしまうはずなのだが、そういうこともなかった。

 これが特典とやらなのだろうか? だとすれば、今回のお願い事とは、この増した身体能力でこの地を開墾しろ、とか? 

 

 目の前の不毛の地とやらに視線を移す。

 確かに、不毛の地と言われるだけあって、そこには生命を感じさせる植物も生物も見られなかった。当然のことながら水もない。

 そこにあるのは、パサパサに乾いた土のみ。

 試しに手にとってみるが、植物が育たないのがよくわかる。栄養なんかまったくなさそうだ。花屋だったからね。


 それほどまでに疲弊しているのだ、ここの土は。


 これを開墾しようとするなら、土そのものを変えなければ意味がない。

 が、断言しよう。無理だ、と。


 広い花壇程度であるのなら、面倒だし、やりたくはないがまだ何とかなると言えただろう。だが、俺の目の前に広がるのは、広大な茶色の土地。とてもじゃないができるとは言いたくない。

 この全てがこんな土であるのなら、不毛の地なんて呼ばれるのにも納得がいく。

 

 「…嫌だ、無理。面倒だ」


 本当に嫌になってくる。

 俺はそう呟いてズボンが汚れることも気にせずに座りこんだ。

 だが、俺が座り込んだ場所のすぐ横にそれはあった。


 白い封筒。


 あの天使からの手紙の続きである。


 読みたくはない。読みたくはないのだが、これを読まないことには俺の明日が訪れない(物理的に)ような気がしたので仕方なく封を切った。


 『やぁ、これを見ているということは無事に不毛の地に着いたんだね。君のことだから途中で休んでるんじゃないかと心配にもなったけど、そうならなくて何よりだ。さて早速だけど、説明の方を始めていこう。まぁ話と言っても君の現状とこれからしてもらうことの説明だけなんだけど……取りあえず、君に付与した特典についてだ。その名も、《花魔法》! 魔法ってのは君のいる世界でも知られているんだけど、それを扱えるのは何百人かに一人って言われているくらい貴重なものだよ!』


 そこまで読んで、俺はほぉ、と自分の手を見る。

 魔法とは、向こうでもゲームを嗜んでいた俺からすればとても馴染みのある言葉だ。漫画やアニメでもおなじみだったしな。

 それが俺にも使える、というのは少しばかり…いや、かなり心躍るものだ。


 『とはいえ、君の場合はまだ与えたばかりのもの。完璧に扱えるようになるにはそれなりの修練が必要だ』


 踊った心が急激に冷めた。

 え、そういうのってもういきなり最強レベルで使えるようなものじゃないの? 修練? ちょっと何言ってるのか分りませんね。


 『うんうん、とても嫌がる君の姿が目に浮かぶね。とはいえこれは僕がまだ下っ端の天使であるが故だ。そこは謝っておくよ。ただ、修練でもして君の格…所謂レベルを上げておかないと、その世界じゃヒモになる前に屍になっちゃうからさ。そこで、だ。そんな君でもできる最高効率の修練場。それがここ、不毛の地なんだ! 君の魔法は、言ってみれば指定した場所に花を咲かせる魔法。その魔法を使ってその不毛の地を花畑にする。それが僕からのお願いであり、君の修練だ』


 そこまで読んで、改めて俺は視線を不毛の地へ移す。

 広さ的には、俺が入学式で訪れた大学よりも更に広い。たぶん、ここが琵琶湖ほどあるぞ、と言われても俺は疑うことはないだろう。それくらい広いのだ、ここは。


 『それと、その土地についての説明もしておくよ。そこは元々、高純度の魔力が集まる場所だったんだけど、ある日それが溜まりすぎて大爆発を起こしたんだ。まぁあとはその爆発の余波と、魔力の濃度が高すぎる故の弊害でそうなった』


 ちょっと待ってほしい。いきなり意味のわからない説明を挟んでくるんじゃない。

 えっと、つまりあれか。爆発で自然諸共吹っ飛んだあと、魔力とやらが多すぎて植物が育たない、と。

 ……自分で言ってみてもよくわからないんだが。


 『まぁあれだよ。魔力は植物や生物たちにとって必要不可欠だけど、多すぎても毒ってことだ』


 ……なるほど、栄養の過剰摂取ってことでいいんだな。駄目でもそれで納得するからそれでいい。


 『あと、君の身体機能がそっちの一般人よりも上くらいにはなっているはずだから、体力的にはだいぶ楽になるはずだよ。それから、最初のうちの無力な君だと心配だから、一か月だけ僕ら天使の加護を与えておいた。加護がある間は森の魔物は君に手出しできなくなっている。……伝えるべきことはそれだけかな? ま、そういうわけだから、後のことは君に任せるよ。好きなように、それも君の夢のヒモ生活を送ってもいい。では、よき異世界生活を!』


 手紙はそこで終っていた。

 最初の時と同じように封等の中身を確認してみるが、中にはやはり何も…


 「おっ?」


 封筒を逆さまに向けて、中に入っていたものを手の上に出してみる。

 それは黒く、かたい小さな粒だった。大小様々な形のそれは、実家が花屋の俺もよく目にしていたものである。

 そう、種だ。


 「これも使えってことなのかね」


 見た感じ、主に食べられる植物が中心であるようだ。てことはつまりはここでしばらく住むことになるってことかな。…一人で。


 そう、一人で。

 ……え、無理じゃね?


 

 

 


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