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花を咲かせる魔法使いはとりあえず楽をしたい  作者: 岳鳥翁
アリエリスト領と花の魔法使い
19/76

19:アリエッタ

すみません、時間間違えてました


FGOのイベントが始まったが、石はアポコラボまで取っておく。


どうも、二修羅和尚です。三十話までかけたので、今月いっぱいまで連続投稿可能です!! ここまで読んでくださり、ありがとうございます!


ブクマ、評価していただけるなら幸いです!

 とても面倒なことになった。


 屋敷の一室に通され、そこで一人で待つように言われた俺はいかにも高そうな皮のソファーにもたれてそんなことを考えていた。

 面倒、というのは約束以外の決闘を行わなければいけないことについてもそうなのだが、あのカーマインとかいう男もそうだ。


 いや、あくまでも噂という話だ。確証はない。ないが、そういう話がクェルのような護衛にまで聞こえてくる時点で色々と問題があるのではないか? ほら、火のないところに煙は立たないって言うし。

 おまけに、そのカーマインってのが明らかに俺を敵視しているということもある。俺には身に覚えがないが、あの男にとって俺の存在そのものが都合が悪いのだろう。もしくは、一目見て俺のことを嫌いだと判断したのか。


 「・・・やめよ、面倒くさい」


 色々と考えを巡らせてはみたが、最終的には思考を放り投げた。

 そもそも、俺があれこれ考えてどうにかなる問題じゃないし、どうにかする問題でもない。家の問題は、全部Pさんたちに任せればいいだろう。

 俺はただ養われればそれでいい。それを条件にここまで来ただけなのだから。


 俺はソファーのすぐ傍に配置されているテーブルから、手乗りサイズのベルを手に取って鳴らした。

 あのユリウスとかいうここの領主様に、何か用があるなら鳴らしてほしいといわれていたものである。


 チリンチリン、とベルの音が部屋に響く。すると、部屋の扉が静かに開き、そこからメイドさんが姿を現した。

 丈の長いスカートや結ってまとめた髪など、前の世界で言う昔のメイド服、といった方がわかりやすいだろう。彼女は、部屋の壁際に立ってこちらに一礼する。


 「どうされましたか?」

 「すみません、何か飲み物とかもらえませんか?」

 「かしこまりました。では、すぐに紅茶の用意をいたします」


 丁寧な口調でもう一度礼をしたメイドさんは、それだけを言ってまた部屋から出て行った。なお、理想は何も言わずとも全部やってくれること。

 しーちゃんはできてたんだから、それくらいは人にもできるはずだ。よって、無茶な注文ではない。


 飲み物が運ばれてくるまでの間、特にやることもないのでソファーに寝そべった。

 人の家のソファーで何をやっているのだと言われればそれまでではあるが、今までの草と花で作ったベッドもそれはそれでよかったが、革張りの高級品なんて前の世界でもお目にかかれないもんだ。これくらい堪能しても問題はないだろう。


 「あ、やべ。これめっさ気持ちいいわ・・・」

 「そうですか? ふふ、気に入ってくれたなら良かったです」

 「・・・え?」


 閉じかけていた目を開く。


 「お目覚めですか?」

 「お・・・お目覚め、です」

 

 金糸のような細く、さわり心地のよさそうな髪が顔を撫でる。

 声の主は、俺と目が合うと、上品に笑った。何がおかしいのだろうか。

 あと、顔が近い。


 「・・・その、退いてくれると助かるんですが?」

 「あ、そうでしたね。ごめんなさい」


 そういって頭を下げるた彼女は俺の視界からフェードアウトしていった。

 起き上がっても問題ないことを確認して、俺もソファーに寝転がらせていた体を起こす。見回してみれば、彼女はソファーの背もたれの向こう側にいた。


 どうやら、完全に気が緩んでいたらしい。いつの間にか気配が増えていたことに気付かなかった。


 「それで? 俺に何か御用でしょうか?」

 「特にこれといった用はありませんよ? ただ、あの子が連れて来た方がどんな人なのか、少し気になっただけなので」

 「・・・そうですか」


 あの子、というのは内容からしてPさんのことなのだろうか。まぁ、あの海藻類のことっていう可能性もあるかもだが、何となく違うだろうとは思う。

 この人、Pさんとどことなく似ているのだ。


 ということは、話にあったPさんのお姉さん、と考えたほうがいいかもしれない。


 「あ、自己紹介がまだでしたね。私、このアリエリスト家の長女でアリエッタと申します。仲良くしてくださいね、花園の賢者様?」

 「・・・その呼び方はできればやめてください。俺はカオルといいます」

 「そんなに畏まらなくてもいいですよ。私よりも年上ですし、今回は私たちがお願いする立場なんですもの。それに、私もその方が嬉しいです」

 「あー・・・なら、そういうことで頼む」


 やはり、予想通りと言うべきか。

 本来なら、身分とかなんかそこらへんで色々と面倒くさいんだろうが、他ならぬ本人からの頼みなんだし、砕けても仕方ないよね。

 何気に、気を使って話すのってしんどいんだわ。


 「まぁ、嬉しい! 実は同い年くらいの男の人とこんな風に話したことがなかったの! とっても新鮮ね!」

 

 手を頬にあてて喜ぶ姿は、まるでどこかのお話の世界に出てきそうなお嬢様そのものだ。え、わからない? わかるでしょ?


 …まぁいい。とにかくあれだ。第一印象はめっさいい子っぽい。うん。

 しかし、姉妹だそうだが似ているのはその見た目だけなのか、Pさんはお転婆系の生意気な少女という印象に対して、こちらはどこか儚げなおっとりしていそうな女性である。

 あとあれだ。Pさんのある一部分の栄養素は、全部この人に持っていかれたのかと疑いたくなってくるな。 


 腕によって形を大きく変えるそれを、俺は出来るだけ視界に入れない様に注意する。

 

 「で? 本当に俺に会いに来ただけなのか?」

 「ええ。…そうなの。あ、お話もしてくれると嬉しいわ。私、この屋敷からあまり出たことがないの」

 

 そういって俺の隣に座るアリエッタは、何がおかしいのかまた笑う。それも上品に笑うもんだから、悪い気にはならない。むしろ、なれない空気に俺が落ち着かない。


 「話ってなぁ…基本、あの森から出たことないから、そんな面白い話は出来ないんだが?」

 「まぁ、面白そう! 森なんて私、一度も言ったことがないの。是非お願いしたいわ…あら?」


 何かに気付いたのか、突然アリエッタがソファーから立ち上がった。

 何をするのかと思いきや、彼女は扉の位置からちょうど影になるところに身を潜めたのだ。


 「…なぁ、何してるんだ?」

 「メイド達から隠れているんですよ? 私、体がそれほど強くはないから本当は部屋で休まなくちゃいけないんだけど、あなたのことが気になって来ちゃったわ!」

 「いや、来ちゃったわって…」

 …どうやら、俺が抱いた印象は間違っていたようで、なかなかアグレッシブな性格をしているらしい。

 体が弱くても、あのPさんのお姉さんであるようだ。


 「それに今から楽しいお話が聞けるのですもの。見つかって部屋に戻されたら、もったいないわ!」

 「…そっすか」


 だが一つ言わせてほしい。

 そのドレスのスカートがソファーからはみ出ているので、絶対見つかると思うんですが。


 そう言おうと思ったが、いったところでどうにかできる問題でもないだろう。いちいち俺のことを話すの面倒だし、このままメイドさんに見つけてもらって連れて行ってもらおうと思ったのだが…


 ふとアリエッタと視線があった。


 「ふふっ、楽しみにしてますね」


 彼女は、もう隠れる体勢に入っているのか、一生懸命身を縮めながら小声でそう言った。


 間もなくして扉からノックの音が響いた。頼んでいた飲み物を持って来てくれたようで、「飲み物をお持ちしました」というメイドの声も聞こえた。

 扉の外から音が聞こえる前からメイドが来ることを察知していた潜伏お嬢様は、いったい何者なんだろうか。


 「…はぁ。『咲け』」


 メイドを部屋に入れる前に、魔法を発動させる。

 咲かせたのはピンクのアジサイ。それを部屋中大量に。

 一瞬で部屋がアジサイに覆われたことで、隠れていたアリエッタの姿はもう花の中。少しの間は我慢してもらおうか。


 「どうぞ」

 「失礼しま…っ!?」


 ティーカップとポットを乗せた台車を押して、先程のメイドさんが入って来たが、部屋の変わりように唖然とした様子で立ち止った。

 声を上げなかっただけ凄いと思う。それか、驚きすぎて声が出なかったのか。


 どっちでもいいか。


 「すみません。少し落ち着かなかったので、森の花園と同じようにしてしまいました。また直ぐに戻すので、気にしないで下さい。それと、台車はそこに置いておいてください。自分でできますから」

 「は、はぁ…そ、そうですか…」


 それでは、といってまた一礼して部屋を出ていくメイドさん。

 それを見送り、暫くしても入ってこないことを確認してから隠れているであろうお嬢様に声をかける。


 「もう行ったぞ。早く出てこい」


 

 ………


 なかなか出てこなかったのでわざわざ彼女が埋もれているであろう場所のアジサイをかき分ける。

 

 「…何故出てこない」

 「こんなにたくさんの花に囲まれるのは初めてなんですもの! もう少し楽しみたいわ。それにすごく気分もいいの! これなら、何時間でもここに居られるわ!」


 何が楽しいのかまったく理解ができないのだが、彼女の様子を見る限り本当に楽しいのだろう。

 それに、ピンクのアジサイの花言葉は『元気な女性』だ。その効果も若干ながら発揮されている。


 「そりゃよろしいことで。それより、あそこの台車取って来てくれ。喉が渇いたんだ」

 「あら? 私が入れるのかしら?」

 「それくらいやってくれてもいいだろう。気を使って隠してやったんだ。それとも、貴族のお嬢様にやらせるなってか?」

 「あらあら。そんなことないわ。むしろ、やってみたかったの! みんな私にはやらせてくれないから」


 楽しそうに笑う彼女は、そういって花の中から出てくると、嬉々として台車の下に向かう。

 俺はそんな彼女をみながら、仕える身分の人が仕える人にはやらせないだろうとか考えていた。



 余談ではあるが、彼女との話はあの領主様が来るまで続いたのだった。


 あと、紅茶はそんなにおいしくなかった。初めてだったら仕方ないだろうが、人に出すならもうちょっと練習してほしい。

 


 


 

大事なことなので二回言います。


ブクマ、評価がほしい!(言ってることが変わっている件)

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