16:異世界ギルド2
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「…とりあえず、お前のせいだと言っておこうか」
「…本当にカオルだったのね。顔を見てなかったから半信半疑だったけど」
よく確信なくて声をかけられたな、といいそうになったが先に入っていたクェルに教えてもらったのだろう。
あと、こいつのせいで遅くなったことは変わりないことなので軽く杖で頭を小突いておく。
イタッ! とうめき声をあげるPさんであったが知らん。これくらいの罰はあってもいいだろう。流石に、年下の女子相手に本気で殴ることはしない。そこまでの下衆じゃない。
「ちょっと! 何で殴ったのよ!?」
「本気で殴って帰ってもよかったんだがな。一応不本意でも約束だから帰らないでやる。…あと、俺が詰め所で捕まってたのはほとんどお前のせいだろうが」
そういってやると、Pさんはうっ、と言葉を詰まらせる。まぁ、自分が悪いという自覚があるのならばそれでよしとしておこう。こんなことでグチグチ言ってても、何の得にもならない。それに疲れるだけだ。いいことなんかありゃしない。
「おぉ、何だ。昨日の魔法使いの嬢ちゃんたちじゃねぇか」
涙目になって額を押さえるPさんが黙って俺を睨む中、そんな声をかけたのは意外にもアルゴテだった。
知り合いだったのか、とPさんに視線をやってみるが、当の本人は頭にはてなマークを浮かべていらっしゃる。
昨日会ったであろう人の顔を覚えられないのかこのアホウ少女は。
クェルが後ろから何かを呟けば、Pさんは思い出したかのように手を打った。
「昨日、花園の賢者の話をしてくれた人ね!」
「てめぇか」
「? 何がだ?」
お前が俺の情報なんかを教えなければ、俺は今頃しーちゃんたちに世話をされる楽々ヒモ生活を満喫していたのだ。・・・そりゃ、多少の不満はあったりもしたことは事実だが、それでも理想に近い生活をしていたことは確かなんだ。
もう一度ジロッとアルゴテを睨んでやるが、もうすでに彼の視線はPさんの方を向いているようで気づいてはいなかった。
「にしても案外早いお帰りだったな。今日の朝に街を出たって聞いてたんだが・・・やっぱ見つからなかったか?」
まるで結果がわかっているような顔をしてそう言ったアルゴテ。しかし、彼のその顔は、腰に手を当てて何やら自信有り気なPさんを見ているうちに面白いように変化していく。
隣から見ていてもわかるんだがこいつの顔芸面白い。
「お、おい…まさか、見つけたのか…?」
「フフン♪ この私に、不可能なことなんてないってことよ!」
どうだ参ったかとでも言いたそうな顔をする魔法少女のPさんに、何やら大興奮しているおっさんアルゴテ。文字にしてみると何やらヤバイ現場にも見えなくもないが、実際に見てみてもちょっとヤバイ。
鼻息を荒くして中学生に接近するおっさん…110だな。
「なぁ、とりあえず登録だけけやっておかないか?」
もっと褒めていいのよ~! とか言って調子に乗っているPさんと同調するアルゴテは放って置いて、俺は静かに待機していたクェルの元へと歩み寄った。
「そうだな…だがすまない。私はお嬢様から目を離せんのだ。登録なら正面の受付でできるだろうから、一人でやってきてくれると助かるんだが…」
「了解了解。んじゃま、やってくるわ」
申し訳なさそうなクェルに手を振って答える。
クェルもクェルで、あのお嬢様の相手は大変だろうに。文句のひとつも言わないのは立派なことだろう。まぁ、この世界では護衛として当然のことなのかもしれないが。
言われたとおりに正面の受付に向かう。
受付は三つあり、それぞれ見た目のよい女性や女の子が受け持っているようだ。
異世界ファンタジーのギルドの受付嬢といえばこれ、という見本といってもいいだろう。
とりあえず、一番近くだった左側の受付まで足を進める。
一礼して対応してくれたのはまじめそうな眼鏡をかけた青い髪の女性。髪の毛ファンタジーやら、眼鏡があるのかなど、いろいろと考える。
将来はこんな美人さんに養ってもらいたいと思います。
「ようこそ冒険者ギルドへ。依頼の発注でしょうか?」
「いや、登録をお願いします。あと、ギルドのこととか教えてもらえると助かります」
「かしこまりました。それではそこのイスへおかけください」
見ると受付のカウンターの脇に数脚のイスがあったので、そのうちの一脚を手に持って女性と対面になるように座る。
少しがたついているが、まぁ問題はないだろう。
「では、今回あなたの登録と説明を担当する、受付のブルームと申します。初めに、お名前と戦闘スタイルを聞いてもよろしいでしょうか?」
「カオルと言います。戦闘スタイルといいますと、魔法を使う、ということでいいんでしょうか?」
「ええ、構いません。それにしても、魔法使いですか。魔法を使える方は大変貴重なので、当ギルドとしても嬉しい限りですよ」
事務的な口調で淡々と話す彼女…ブルームさんはそう言って手元の紙に何かを書き込んでいく。
俺のプロフィールでも書き込んでいるのか? と疑問に思っているとそんな俺の様子にブルームさんに気付かれたようだった。
「冒険者になる方には文字が書けない方もいますので、こうして我々受け付けが書くように統一しているんですよ」
「なるほど。それは助かる」
別に書けないことはないのだ。
この世界の文字は転生の際に天使に基本知識としてしれっと与えられていたりする。
ちなみに気付いたのは先程、ボードの依頼書を見たとき。森じゃ会話はすれども、文字を見ることなんてなかったからな
「ちなみに黙秘でも構わないのですが、使用する魔法の属性は何でしょうか? 教えていただけるなら、パーティなどの紹介もやりやすくなりますよ?」
「黙秘で」
「かしこまりました」
花です、なんていうのもなんかあれなので黙っておく。
「では最後になりますが、こちらの紙に血を一滴垂らしてください」
「…はい?」
クェルの言ってた通り、やけに簡単に登録ができるなと思っていたのだが、最後になんか良くわからないのことを言われた。
血を一滴? 何に使うのだろうか?
「当ギルドで管理するマジックアイテムに使用するためですよ。詳しくは私も存じ上げませんが、これで犯罪者かどうかを判断しています」
「へぇ…それはすごいな」
そんな感想が口から出るが、それと同時に本当なのかと疑ってしまう。
何故血液からそんなことがわかるのかがわからない。が、職員であるブルームさんが知らないと言うなら聞いたところで意味はないだろう。第一、知ったところでだから? としか思えない。できるからできる。それでいいじゃないか。考えるの面倒だし。
これを、とブルームさんから手渡された針を使って、指先にそれを軽く刺した。
ジワリ、ジワリと滲み出て来た血液がある程度の塊になったところで紙に垂らす。
「ありがとうございます。では、その場で暫くお待ちください」
俺から紙を受け取ったブルームさんは一礼して受付の奥の部屋へと扉を開けて入っていった。
特にやることもなかく、暇だったので魔法で花を咲かせた。
咲かせたのは日本でも有名なヒヤシンスだ。それも青いヒヤシンス。花言葉は『誠実』。他にも『貞淑』なんて花言葉もあるが、まぁそれはいい。
色とかも含めて、ブルームさんに合う花だろう。
…あわよくば、俺に対する高感度の急上昇、ならびに養われるENDなんてものを期待していないわけじゃない。
だってほら、働いているお姉さん系の美人さんですもん。そんな風に期待してもいいじゃないか。
「お待たせしました、カオル様。問題なく登録が受理されましたので、本日よりカオル様はギルド所属の冒険者となります。こちらがその証となるギルド証です」
一人、将来の養われ計画を立てていたところで、ブルームさんが奥から戻って来る。それと同時に、彼女から白い金属板が手渡された。
話の流れからして、これがギルド証とか言うものなのだろう。見てみると、そこには俺の名前と剣と何かの翼が交差した紋章が刻まれていた。
「では登録が済みましたので、これからギルドの説明に移らせていただきます。よろしいですか?」
「はい。お願いします」
ブルームさんの言葉に頷く。ブルームさんも眼鏡に指を当てて位置を正すと、紋章のみが刻まれた七枚の金属板をテーブルの上に並べる。
すべて色が異なり、左から俺がもらった白、黄色、橙色、赤、紫、青、黒の順に並べられている。
「まず初めに、ランクの説明から始めましょう。ランクとは文字通り、ギルドにおける強さの基準となっていまして、最初は誰もがこの白のギルド証である白からとなっています。依頼をこなし、その働きが評価されれば次のランクへと昇格となりますので頑張ってください」
「評価の基準はどうなってるんですか?」
「達成した依頼の数や、魔物の討伐数や討伐した魔物の強さ。護衛任務での評価などが加味されます。最低ランクである白は討伐依頼や護衛任務がありませんので街での手伝いや近場での採取依頼が主となっていますから、この場合は依頼主の評価と達成依頼数が基準となります」
「飛び級とかはあるんですか? あと、討伐した魔物ってのはどうやって判断するんだ?」
「過去にそういった例外はありますが、特例措置なので期待はしないほうがいいかと。それと魔物ですが、魔物ごとに討伐証明部位がありますので各々で持ち帰ってもらわなければ討伐したという証明にはなりません」
なるほど。なんともいえない基準である。
てことはあれだ。たまたま見つけた死骸からその証明部位とやらをとってきたり、最悪他人の狩った魔物の横取り、あるいは討伐者を殺して奪ったりしてもわからないわけだ。
「こういった説明をしますと、他人を殺して奪ってもいいという考え方をする者もいますが、やればギルドが所有するマジックアイテムですぐに通達されます。賞金首になったりしますので下手な考えは起こさないように注意してください」
殺してまで、とか考えてないので安心してください。
ただちょっと、他人に任せてギルドには自分が持っていけば楽かな、とか考えただけですから。
表面では平静を装いながらも、内心で少しばかり焦ってしまう俺なのであった。
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