15:異世界ギルド
疲れたよ、パトラッシュ…
そういってもう倒れこみたい気分になった。
あれからひたすら歩き続けるだけの面白くもなんともない、ただただ無駄に体力を消費するだけの単純作業。
苦痛。ただの苦行である。
幸いと言っていいのか、俺を転生させた天使曰く、一般人よりは身体能力が高くなっていることは聞いている。だが、ここ数年はひたすら世話をされるだけの生活だったことを考えると少しばかり心配だったんだがどうやら杞憂だったみたいだ。
まぁ、俺にとって利益でしかないためそれで良しとしよう。
だがそんな俺でも心的疲労はどうにもならない。
なんでひたすら道なんだよ。途中で茶屋なんか置いとけよ。
もしくはたまたまそこにいた養う人を探している美女。養われたい人ならここにいる。
「もう寝たい…」
「流石にここで寝られては困るぞ、カオル殿。それに、もうアリストの街に入る。我慢してくれ」
ほら、と隣を歩くクェルに肩を叩かれる。
俺達がいるのはとある街の入り口。街に入るため、検問に並ぶ列の最後尾だ。
馬鹿でかい街壁に囲まれているこの街が、Pさんやクェルの話に出ていたアリストの街なんだそうだ。
少し前からここの壁は見えていたので、暇つぶしにあれが何かをPさんに聞いてみたところ嬉々とした様子で語ってくれた。
魔物が住み着く森がすぐそばにあるため、アリエリストの祖先が万が一の備えとしてこの壁を築いたんだそうな。
もっとも、その森から魔物が襲ってきたことはないため使われたことはないらしい。
じいさんが関係してるんだろうなぁ、とか思っていたのは内緒だ。
余談ではあるが、あの森が地竜の森と呼ばれてるのは伝承で地竜の巣があるとされているからなんだとか。
もし、その伝承が本当のことであるのならば、じいさんはいったい何歳になるか気になるところである。
興味が沸いたら調べてみるか。
と、そこまで考えたところでいつの間にか検問は俺達の番になっていたらしい。
Pさんが堂々とした足取りで門番の前に出ると、門番の兵士はPさんを見て慌てて敬礼の構えをして見せた。
どうやら検問の必要はないようで、兵士たちの前を素通りしていくPさん。それにクェルも続いていたので、俺も構わず後に続いた。
「おい、貴様はまだだ」
「あ?」
同じように兵士たちの前を通ろうとしたのだが、俺の前には槍が突き出されていた。
見ると、警戒した様子で先程まで敬礼していた兵士。
それだけではないようで、その周りにいた他の門番の兵士さんたちにも同様に睨まれていた。
「…俺、なんかしたのか?」
「見知らぬ、しかも顔をローブで画した者を止めるのは当然だろう」
そりゃそうだと納得はした。が、連れてこられたのは俺なのに、この扱いは何なのであろうか。
ちなみに、クェルやPさんは気付かず先に行った。恨んでやる。
「見たところ魔法使いのようだが、この街には何が目的で来たんだ?」
「目的って言われてもなぁ…」
この雰囲気でPさんに決闘の代理を頼まれた、なんて言っても信じてくれそうにないのは明白だ。なら、最もたる俺の目的でも言えばいいか。
「養われにきた」
「……は?」
何言ってんだこいつ、みたいな目で見られた。
「いや、済まなかったカオル殿。まさか、あなただけあそこで止められるとは考えてなかったんだ」
「…うん、謝ってくれてるのはわかったから。ただ、もう森に帰りたくなっただけだから」
「本当にすまない…!」
結局、俺がいないことに気付いたクェルが迎えに来るまで、門番の詰め所で拘束されていたのだった。
俺が身分証なんか持っているはずもなく、拘束された上にローブと杖まで没収され、延々と尋問まがいの質問攻め。
途中、もうここの門番全員養分に変えて森に帰ろうかと思ったが、なんかそれも面倒になったので適当に流してたけど。
血相を変えてやってきたクェルが事情を説明したあとの、あの門番たちの顔には笑ったがな。真っ青ってああいうのを言うんだろう。
帰り際に、あの門番たちの頭には時間差で花が咲くようにしてやった。尚、奴らの髪の毛が養分となる。禿げる? 俺は知らん。
まぁそういうわけで、あんまり気にされても困るのだ。
「誠意は伝わってるから、もうやめてくれ。じゃないと周りから変な目で見られる」
「…それもそうだな。カオル殿の寛大な心に感謝しよう」
いや、割と狭いです。
「…しかし、フードはとってもよかったのか?」
ギルドの前でPさんが待っていると聞き、そのギルドとやらへ向かっているのだが、その途中でクェルがそんなことを聞いてきた。
「あぁ、これね。別にたいした意味はなかったし問題ない」
元々この二人は追い返すつもりだったし、その際に顔を覚えられない様にと顔を隠していただけだしな。あと、これかぶってると心なしか落ち着くのだ。
こう、覆われてる感覚ってなんかいいよね。
「しかし、カオル殿は意外と若かったのだな。十代後半と言ったところか? 黒髪というのもこの辺では珍しいぞ」
「この辺でって言われてもなぁ…俺そんなこと知らんし。あと、俺は今年で二十二だ」
「なんと…これは失礼した」
謝ってくるクェルに対して、別にかまわないと返しておく。
しかし、日本人は外見年齢を若く見られる、何て話を聞いたことがあるが本当だったんだな。俺の容姿は日本で死んだ時と同じだが、クェルやPさんはあちらで言うところのヨーロッパ系と言ったところだろうか。街の人を見てみてもそんな感じである。
あと、髪の毛の色が凄い。流石異世界。
「…っと、カオル殿。ここがギルドだ」
俺が街のあちらこちらに視線を泳がせている間に目的地であるギルドに着いてしまったようだ。
クェルの言葉につられて見てみると、そこにあったのは石造りの結構立派な建物だった。それも二階建てである。
「…へぇ、意外とちゃんとしたところなんだな」
「恐らくお嬢様は中でお待ちなんだろう。さて、入るとするか」
どうやら両開きの扉は開きっぱなしのようで、クェルは先に中へと入って行った。
そしてそれに続く俺である。
異世界ファンタジーの定番であるギルドではあるが特にこれと言った感想はなかった。強いて言えば初めてくる場所だから少し緊張した、というくらいであろう。
扉を潜る。
異世界の、それも定番とされるギルドに入っての感想ではあるが、見た感じは西部劇で見るような酒場、といった印象であろうか。
扉をはいった正面には、黒と白で統一された制服に身を包んだ女性たちが、カウンター越しに冒険者と思われる男たちと話している。恐らく、これが受け付けなんだろう。
そしてその受付の左側には高校の黒板くらいの大きさがあるボード。多数の張り紙、それを前にして話し合う冒険者。
そして受付の右側にはいくつかのテーブルとイス。酒場と兼用しているのだろうか。中にはまだ日が高いというのに酔いつぶれている輩も多数窺える。
しかし、ふむ。
やはりというか何というか、本当に冒険者と思われる奴らばかりだ。中には女の冒険者の姿もちらほらと見える。
「お? なんだ、新入りか?」
そんな感じで、ギルドの中を物色していると、入り口付近に立っていた男が俺に声をかけてきた。
見るとなかなか厳つい大男。背中の大剣と相まって、少しばかり萎縮してしまう。
「どうも、こんにちは。新入り、というか知り合いの勧めでギルド証を作りに来たカオルっていいます。冒険者にっていうよりも身分証作りに来たって感じですかね」
「あぁ、なるほどな。…でも大丈夫か? 一定期間依頼を受けないと資格は取り上げになるぞ?」
その言葉に、まじか、と心の中で呟いた。
登録したら終わりじゃないのかよ。依頼こなさなきゃだめとか聞いてない。
…最悪、資格停止でもいいか。面倒だし。
「それはそれは。こんな新人のためにわざわざありがとうございます」
「なに、礼なんざいらんさ。それに、だ。杖持ってるってことは魔法使いなんだろ? 希少な魔法使いと仲良くなっときたいのは、冒険者なら当然だぜ?」
周り見てみろよ、と男に言われて視線をやれば、いつの間にかギルドの冒険者たちの視線は俺達に向けられていたようだった。
珍しい者を見る目だったり、興味津津といった目だったり、今にもこちらに向かってきそうな奴だったり。
見られている、と認識してしまうとあまりいい気分にはならんな。
「…なんだかなぁ」
「ま、仕方ないと諦めろよ。勧誘とかもあるかもだしな。ちなみに、俺はアルゴテってんだ。まだパーティとか決めてないなら、うちのパーティが歓迎するぜ?」
「ハハッ、わざわざありがとうございます。でも、一応、というか決まってたりするんですよね。今日もその人たちに着いてきましたし」
そういうと、アルゴテはそりゃ残念だ! と笑いながら言う。
そんな中、俺はその雇い主とその従者を探してギルドの中を見渡していたんだが…どうやらその必要はなさそうだ。
「遅かったじゃない!」
件の人物はそういって俺とアルゴテの前に立った。
やけにはっきりとした声の金髪碧眼の魔法少女、Pさんである。
その後ろからクェルが着いてきているが、今は従者として控えているようで何も話さない。
とりあえず、こいつが先に行ったから起きた面倒事だったんだが、帰ってもいいんだろうか?(半ギレ)




