13:されどもやはり、帰りたい
ある日の森の中。クマさんに出会いそうな今日この頃。
花園の賢者(他称)である俺は、俺が森を出る原因を作った他二人と共に森の中を進んでいた。
転生した初日以来ではあるため、様変わりしたなぁ、などといった感想はなく、ただただこの森どこまで続くんだろうか、とか歩くの疲れた、といった愚痴しか出てこない。ここ数年、花園から出たこともなかったこともあり、これだけ長い距離を歩くのは前世を除けば初めての経験だった。
いつまでも変わり映えのしない景色に辟易としつつも森を進む。俺の魔法でどうやったら楽に移動できるのかと考えていたそんな時。Pさんの後ろを歩いていたクェルがあっ、と俺の方を思い出したかのように振り返った。
「賢者殿のことについては噂程度にしか知らなかったんだが、魔法の腕はいかほどなのだ?」
どうやら、俺の魔法使いとしての腕を聞いているようだ。
まぁ、決闘に出てもらうのに弱けりゃ意味がないのは当然なんだが、そんなことも知らずに協力を求めるのもどうなのか、という話だ。
あとあれだ。呼び名に違和感があって気持ち悪い。なんだ、賢者殿って。
「その呼び方は止めてくれ。俺のことは薫でいい」
「わかった。では、カオル殿、と呼ばせてもらおう」
「殿もいらないんだが………まぁいいか。で、俺の実力がどうなのかって話だよな?」
俺のその言葉に、クェルはこくりと頷いて見せる。
「正直な話、あんまりわかってないんだよな………俺ってば森から出たことないから、普通の魔法使いってのを知らないんだよ」
「え!? それって大丈夫なの!?」
そこで反応したのは俺とクェルの前を歩いていたPさんだった。
Pさんは慌てたような様子でこちらを振り向く………のだが、俺と目が合うとうっ、という声を漏らして顔を背けてしまった。
耳が赤いのを見るに、顔を赤くしているのだろう。理由の方はさっぱりであるが。
あれか、あんな思いをしてまで偉そうに協力してやるとか言ってきた男が、実は弱いんじゃないかと思って怒っているのだろうか。
「なぁ、あれはどうしたんだ?」
「………分かっていってるのか?」
何故か質問に質問で返された。
何故だ。
「話を戻そう。賢者……っと、すまない。カオル殿の使う魔法の属性は何か、教えてもらってもいいだろうか?」
呆れたような視線を向けていたクェルであったが、それもすぐ止めると話を俺の事について戻した。
が、しかし、こっちはこの世界に来たのもここ数年の話であり、更にその数年もほとんど人と関わることがない森の中で過ごしてきた男である。
要するに、世間知らずなのである。それも、致命的なほどの。
家に籠って養ってもらう立場の俺である。致命的、とは少々言い過ぎだ表現だ、などと今までは言えたのだが、今回の件でそうとも言えなくなったのも事実だ。これからは自発的にそう言った情報を集めなければならない面倒くさい。
「あー……悪いんだが、そこんところの常識ってやつ?あんまり知らないから教えて欲しいんだよ。魔法には何の属性があるんだ?」
俺のその言葉に二人は驚きを隠せないようで、信じられないものを見る目で俺を見ていた。
いや、まぁ確かにその気持ちはわかるんだが、そこまで反応されるとこちらもどう反応していいのかわからなくなる。
「ほら、あれだ。俺ってば生まれた時からこの森に住んでてな。世間がどうとか知らないんだよ」
転生したので俺が言ってることに間違いはない。
二人からどうやって生きてきたんだ、と問われたが、そこはジャイアントアントとじいさんが世話してくれた、と話して誤魔化した。
クェルはじいさんのことを考えて黙り混み、Pさんはジャイアントアントが人間を……とか呟いて黙り混む。
まぁそんなことはどうでもいい。
とにかく、二人から聞いた話ではあるのだが、この世界の魔法というのは基本的に四つあるそうだ。
火、水、土、風。これらを基本の四属性と呼んでいるらしい。
ごく稀にこれらの四属性に分類されない魔法の使い手も現れるそうだが、それらの属性はまとめて特殊属性と呼ぶらしい。多分、俺の花魔法はこれに当たるのだろう。
そして、極めつけに神の加護とやらを受けた勇者が使えるようになるのが光。邪神の加護とやらを受けた魔王が使えるのが闇。
勇者とか魔王とかいるのかぁー、とか思いつつ話を聞く。今までなら面倒で途中から上の空になっていたであろうが誰でも知っていることらしいので頑張ってる。あれだ、ゲームのチュートリアルみたいだな、と考えれば何とかなる。
あとは、魔法使いはというのはその数がえらく少ないらしい。なんとその数全人口の数パーセント。そして驚くなかれ。この数は魔法が使えるという人の人数の割合だ。これが実戦レベルで使える、という条件になってくると更に少なくなるのだ。
よって魔法使いというのは大変貴重な存在であり、強力な戦力でもあるため、腕利きの魔法使いというのはもうすでに貴族に囲われていることが常識なのだとか。
冒険者は? と聞いては見たが冒険者として登録している魔法使いもいることはいるらしい。ただ、そういった者のほとんどは魔法使いとしての力は弱く、貴族の子飼いである魔法使いとの差は歴然。
なるほどね。だから、領内の魔法使いの冒険者を頼らなかったわけか。
「ん? そっちの話だと、身内以外の魔法使いが代理で決闘をするんだよな?」
「ああ。そういう条件だった」
「それって、子飼いにしてる魔法使いも入るのか?」
「もちろんだ。この場合、所属する兵も領主の所有する戦力だからな」
「だったら、相手の魔法使いってのは大したことがないんじゃないのか?」
今の話が事実であるのならば、その相手の貴族も外様の魔法使いを雇う必要がある。で、外様の魔法使いというのは基本的に貴族の雇われよりも弱い。
なら、そこらのやつ雇えば勝てるんじゃね? 俺、必要ないんじゃね?
心の中で変える理由ができたなぁ、とか考えていた俺であったのだが、そうは問屋が卸さなかったらしい。
クェルは俺の言葉に首を振った。
「言っただろう。ほとんどは、と。魔法使いにも変わり者の例外はいるんだ」
「例外?」
「ああ。フルフート家は前々から準備でもしていたんだろう。彼らが代理として立てたのは【炎狼】のコール。傭兵の魔法使いだ」
たぶん、今はさほど重要じゃないのだろうが、その【炎狼】ってのは二つ名的なものなのでしょうか。
恥ずかしくないのかとか思ったが、世界が違えば考え方も違うのだろう。要は感性の問題だ。俺はごめんだね。
「大丈夫よ! こっちは【花園の賢者】が味方についてくれたわ!」
まさかのもうそれっぽいものがついてた件について。
こちらを見ないままいったPさんの言葉に戦慄する。
「…で? ……そのコールってやつは強いのか?」
「ああ。噂によれば、強者との戦いを望んで傭兵となった変わり者だ。だが、戦場に現れれば、大量の焼死体を作るといわれるほどの男。油断はしないほうがいいだろう」
油断も何も、俺、これからそんなテロリストみたいな奴を相手にしなきゃならないんでしょうか。
てか、話を聞いて思ったが、明らかにその相手って炎使うじゃん。相性最悪じゃん。効果抜群だよ?
考えれば考えるほど憂鬱になってくる今日この頃。もう決闘なんざ無視して逃げたほうがいいんじゃないでしょうか。
と、そこまで考えたところで不意に背後から視線を感じた。
そして同時に背筋に氷を入れられたような感覚。
これあれですわ。じいさんですわ。そういや森って全部がじいさんのテリトリーだったっけか。
「…面倒臭ぇ……」
「まぁそう嘆かないでくれ。け…カオル殿もあのような森を包むほどの結界を張るほどの魔法使いだ。油断さえしなければ負けることはないはずだ」
「そうそう! なんたってあなたは、わ、私のだ、だだん…………な……」
「え、何? その結界ってのは」
俺のその言葉に、二人の動きが停止する。
「…え?」
「…え?」
「いや、え、って言われても…身に覚えがないんだが?」
いや本当に。マジで。
止まったままの二人。わけがわからない俺。
しばらくそのままであった二人だが、先に気を取り戻したクェルが慌てた様子で俺に問う。
「そ、その、カオル殿。カオル殿の魔法の属性を聞いてもいいか?」
「まぁ、そういう話だったしな」
俺はそう言うと、指輪の中にしまっていた杖を念じて取り出した。
別になくても咲かせることはできるのだが、なかったらなかったで変に思われるかもしれない。ので、面倒だが我慢して使うのだ。
クェルの言葉に、説明するよりも見せたほうが楽だと考えた俺は『咲け』とその場で一本の花を咲かせてみた。とりあえずチューリップを一輪。
「まぁこんな風に、花を咲かせるのが俺の魔法だ。所謂、特殊属性ってやつだな」
「ほ、他にはないのか?」
「他って言っても、これの派生みたいなもんだからな。基本は『花を咲かせる』って考えてもいいぞ」
そこまで言うと、クェルは「花…炎相手に、花…」と呟きながらフラフラっとした足取りでPさんの方へと歩んでいった。
Pさんは死んだ目で空を眺めていた。




