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彼らは作戦会議(?)を始める。

「はぁ?なんなのあんた達。邪魔。帰って」


王女は、勢いよくドアを閉めるとそれっきり出てこなくなった。


「よし、帰るぞお前ら」


ハヤテはそう言って踵を返しーー


「ちょ、ちょっと待ってよハヤテ!」


「ぐぇっ!?」


即刻退散したかったハヤテだったがアイリスに首根っこを掴まれ情けない声を出してしまった。


「ゲッホゲホッ、て、てめぇ……」


「ご、ごごごめん!」


危ねぇ死にかけた。


「はぁ、んで、なんだよ」


「諦めていいの!?一生ここから出れないよ!?」


「っつってもあの王女、心開く気なんかねぇだろ」


「そんなのやってみないとわかんないじゃん!」


いや、さすがにあの態度だとやらんなくてもわかるだろ。


「申し訳ございません皆様方」


ハヤテ達のやりとりを見てか、フリーデルが頭を下げる。さすがの俺もまずいと判断した。


「すみません、お仕えする王女様に対して失礼なことを」


「いえ、確かに王女様の態度はあまり褒められたものではございませんから」


あ、認めるのね。と心の中でつぶやく。


「しかし昔は純粋で優しい方でした。笑顔がよく似合う活発な女の子だったのです。あの事件が起こるまでは」


事件とはおそらく、と言わずとも呪いのことだろう。


「かわいそう……」


えらく率直な感想だったが可哀想と言う表現は間違いではないだろう。以前がどんな性格だったかは知らないが少なくとも今のような態度を取るタイプではなかったはずだ。仮にも一国の女王だからな。


やはりあの事件は彼女を変えたのだろう。しかしーー


「確かにかわいそうだ。だがそんなのは関係ない」


その場が凍りつく。当たり前だ。かの一国の女王の身に起きた最悪の事件を関係ないの一言で済ませたのだから。


「ひ、ひどいよ。どうしてそんなこと!」


「まぁまて、落ち着け」


「落ち着けるわけないじゃないの!あなたなんでムグッッ!」


「はぁ、お前は喋るな」


ふがふが騒いでいるアイリスの口を塞ぐ。やはりクイラも納得できない表情で説明を求めてくる。フリーデルに謝罪した直後の言葉としては些か失礼だったというのは自覚しているが、今は置いておく。


「まぁ関係ないとはあくまでも『俺達には』だ。あの女王の境遇に同情する気持ちはよくわかる。だがな、今すべきことはあいつに同情することじゃない。とにかく心を開かせることだ」


「だからそのために説得してーー」


「違う、そうじゃない。大事なのは同情でも同調でもなく全く逆の意見だ」


「逆の意見?」


「そう、端的に言えばあいつが抱いてる幻想をボロボロに打ち砕くんだよ」


意味がわからない、と3人は困惑してるようだった。それはそうだろう、今まで同情して心の内を引き出そうとするものはいたが逆に相手の気持ちを打ち砕く案など誰が思いついただろうか。


「幻想を抱いてる、ってどういうこと?まだ家族を生き返らそうとしてるとでも?」


「あぁ、恐らくな」


「……にわかには信じがたいわね。根拠でもあるの?」


「ある」


自信満々に根拠があると言い張ったハヤテに更に3人は驚いていたが、さっきの女王がハヤテ達を追い出した時に彼だけは見ていたのだ。


「本だ」


「本?」


「あぁ、それも大量のな」


そう、女王の部屋の中に一瞬見えた山積みの本。積まれているだけではなく積みすぎたせいか崩れ落ちているのもあった。ただ置いているだけであれば不自然すぎるのだ。あれは恐らく生き返らせるための方法を調べていたのだろう。


「よく見てたのね」


「観察眼にだけは自信がある」


すごーい、と目を輝かせこっちを見てくるアイリス。お前さっきまでめちゃくちゃ怒ってたじゃねぇか。単純すぎて将来騙されないか心配だぞ……。


「それじゃあこれからどうするの?」


俺はあえて全員の顔を見回して言い放った。


「帰る」


するとまたもやその場が凍りつく。今度ばかりはフリーデルも目を見開いて唖然としていた。


「か、帰るってどうして!?」


「当たり前だろ、今王女に家族は生き返らないって言ったところで状況を悪くするだけだ」


「それじゃあどうするのよ」


「さあな、これから考える」


今度は凍りつくわけでもなくアイリスとクイラはジト目でハヤテを見つめている。


「そんなすぐに策なんて出ねぇよ。戻ってじっくり考えるしかない」


「……確かにそうね。さすがに今思いつくことなんてあまりないだろうし。一旦は作戦会議、といきましょうか」


クイラは物分りが良く、すぐに納得してくれた。アイリスも渋々といった様子で首を縦に振っていた。それからハヤテ達はシュタイン城を後にした。


一応手はある。しかしそれを実行するにはあまりにも時間がかかりすぎてしまうのだ。


悶々とした気持ちを抑えながらクイラの家に戻り、早速話し合いが始まったーー


「お腹空いた!」


開口一番に空腹を訴えたのは、もちろんアイリス。


「お前なぁ」


「腹が減ってはマホは打てぬ、ってね!」


なんだその『腹が減っては戦はできぬ』的言い回しは。


その後クイラの作ってくれたハンバーグ的な肉の塊(めっちゃ美味い)を食べ、ようやく作戦会議に至った。


「それじゃあ第一回作戦会議ー!」


「これが二回も三回もあったら諦めるわ」


「つれないなー!」とぶうたれているアイリスを横目に、クイラの方を見ると真剣な表情でテーブルのただ一点を見つめていた。


「……なぁ、これから3人で出掛けないか?」


「どこに?」


「どこでもいい。強いて言うならなるべく人が多いところ、かな」


「なんで?」


「後で話す」


アイリスは納得できない表情でハヤテの方を見る。しかしそれをクイラが遮った。


「まぁハヤテの言うことなんだし何か意味でもあるんじゃない?」


この数時間で俺のことを随分と理解してくれたようだ。

アイリスも渋々といった様子で黙ってハヤテについていくことにした。クイラの家は山の中にあり、人が集まる街には20分近くもかかる。街の名はシュタイン城が近いという理由で【シュタイン城下町】この国の中でもかなり大きいこの街は随分と賑わっており、3人は特に目指す店もなくブラブラと歩いていた。


「あ、あれ可愛い!」


アイリスはシュタイン装飾品などを見て楽しんでいた。

俺も目的を見失わない程度にこの町のものを物色する。俺のいた世界にはないものがたくさんあり、かなり興味をそそられた。


「そこの暗そうな兄ちゃん!寄っといで!」


不意に隣の屋台にいたガタイのいい店主に声をかけられた。暗そうは余計だが店頭に並んでいる中二心をくすぐる様な剣やナイフに興味をそそられた。

剣やナイフと言っても様々である。短刀を始めとする使い勝手の良い小型のものからどこで使うのかと思う様な大剣もあった。その中でも俺の目ひいたのは黒々とした刃をもつ所謂太刀というやつだろうか。


「兄ちゃん、その剣はなぁ抜けんのや」


「……?抜けない、というのは?」


「そのまんまや。錆びついてるんかわからんけど鞘から抜けんのやわ」


こちらでいう大阪弁で喋る店主は困ったような苦笑いを浮かべていた。


「何人か買うてくれたもんもおるんやけどなぁ、そのたんびに返品に来るんや。んでおかしな事言うて帰んねん」


「おかしな事?」


「この剣が喋りかけてきた、と」


「喋る?」


「おう、しかも寝てる間に喋りかけて来るらしいわ」


ふと疑問が頭をよぎった。


「どうして寝てるのに剣の声ってわかるんですか?」


「うーん、その辺はようわからんのや」


肝心な部分がわからないようでは信憑性にかける。しかし複数がそのような体験をしているというなら本当の話なのだろうか。


「この剣は持ち主になんて言葉をかけるんですか?」


「『お前じゃない』やって。返品に来た全員が聞いとるわ」


「……そもそもこの剣をどこで?」


「これでも昔旅しとったんや。その時立ち寄ったアラグイア砂漠の途中にある店で買うてん」


特に変わった場所にあったわけでもないらしい。


黒く錆びついたその太刀を手に取ってみる。


「これ、いくらですか?」


「兄ちゃん、買うんかい?」


「……えぇ」


なぜだかわからないが店の右端に静かに佇んでいるこの太刀に心惹かれるものがあったのだ。


「それはやるわ兄ちゃん」


「え?いいんですか?」


「元々売りもんにできるようなもんじゃないし、兄ちゃんなら大事に扱ってくれるような気がしたからな」


白い歯を出して大きく笑う店主。売り物をいただくというのは少々気がひけるが、そもそもお金を持っていなかったことを思い出し店主の好意に甘えることにした。




俺はこの剣との出会いがこの異世界生活の行方を大きく左右することなど知る由もなかった。

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