この世界の過去はややこしい。
アラインに戻る。そう高らかに宣言したアイリス。
「確かにここにいるわけにはいかねぇとは行ったけど、わざわざあの大蛇がいるかもしれねぇ街にこんなにすぐ戻ることはねぇだろ」
「確かにそうだけど、やっぱりアラインがどうなってるかこの目でみたいの。私が今まで育ってきた街だから」
「っつってもなぁ……」
「盛り上がってるとこ悪いけど、今この街にいる時点でアラインはおろか、他の街にもいけないわよ」
「え?」
「……それってさっき言ってたシュタイン城ってのが関係してんのか?」
「何か知ってるの?」
「いいや、『ここ』のことを聞いた時に真っ先にシュタイン城のことを口にしたから何か関係あるのかと思ってな」
ハヤテは、それに、と続ける。
「あんたがシュタイン城かって聞いてきた時に一瞬表情が変わったからな」
一瞬の変化で心情を読み取られたクイラは少し、いやかなり驚いている様子だった。
「……あんたに嘘とかつけなさそうね」
「別に、いつも学校で1人だったから周りの人間を観察してたらたまたま人の心情を読み取るのが得意になっただけだ」
「その『ガッコウ』ってのがなんなのかはよくわかんないけど、普通できることじゃないわよ」
クイラはクスッと笑った。その笑顔は綺麗だったがすぐに寂しそうな表情に戻っていった。
「シュタイン城はね、代々ギルハート家が受け継いでいたのーー」
それからクイラはシュタインの歴史について話し始めた。
ーー約1600年前、四龍が世界を統一していた頃、10人の王が四龍によって選ばれた。それぞれ王は国の統一を命じられ、彼らはマホを使いそれぞれの地を治めた。その中の1人がシュタイン統一を行なったアルフェイド・レイ・ギルハートである。そして彼はウルドを除く暴走した四龍のうちの一体、ノアを封印し、のちに三賢人と呼ばれた。1600年経った今では国はいくつも増え、今では50を超える王がいる。
それから1600年近く子孫を残しながらシュタインを治めてきたギルハート家だったが、王となった子孫は全員男だった。しかし3年ほど前に前任の王が病死し、急遽王となったのが1人娘のサリア・レイ・ギルハートだった。サリアは就任した時弱冠14歳だった。3年前の話なので今ではハヤテと同じ17歳である。そして就任して一年が経った頃、近隣の国々で戦争が起き、その戦争は一年足らずで収束したがシュタインも壊滅的なダメージを受けた。そして戦争にサリアの母と祖父と祖母が巻き込まれ死亡し、身寄りがなくなり喪失感に打ちひしがれたサリアはある時幻術士と名乗る男に呪われしマホ『ザキ』と呼ばれる呪術を教わり死者蘇生を試みる。
しかしそのザキは発動したサリアに呪いをかけ、更にザキを解かない限りシュタインから出ることができない呪いまでかけたのだ。
解く方法はサリア自身が人に心を開くこと。そのため呪いの解除に懸賞金をかけサリアの心を開くために国中の人間を集めた。しかし2年たった今でも心は開かれず呪いはかけられたままだという。
「ま、そういうわけで出れないのよシュタインからは」
「そういうわけ、ってんじゃあどうすりゃいいんだよ」
「呪いを解くしかない、ってこと?」
「まぁ、そうなるわね」
「まじかよ……」
予想通り、とはいえこの事態に陥ってしまっては頭を抱えるしかない。
「ちなみに、その姫?の説得っつうか呪いの解除には誰か乗り出してんのか?」
「誰かどころか国中の人達が来たわよ」
「だったらこのまま呪いを解いてくれる人が現れるのを待てば……」
「ばっかお前、2年も経ってるんだぞ?もうこの国のやつらは粗方姫の説得に乗り出しただろ。それでも未だ解けねぇってことは相当難しいってことだ」
「ハヤテの言う通りね。国中をあげて心を開かせようとしたけど無理だったわ。だからもう諦めてしまった人の方が多いの。この国にいるだけだったら別に生活に支障もきたさないからわざわざ説得しようとする人がほとんどいなくなってしまったわ」
「そ、それじゃあどうすれば……」
「……さぁな」
つうかなんだよ人に心を開くって。術者もメルヘンチックだなおい。
「国中の人達が無理だったことを私達ができるかなぁ」
「え?なにお前やる気なの?」
「当たり前じゃん!私アラインに戻りたいし」
「……まぁ、確かにそうだな」
俺も元の世界に戻りたくねぇわけじゃねぇからな。ゲームも漫画もこの世界にはないっぽいし。なにしろ死にたくないし。というのは心の中でとどめておいた。
「まずはシュタイン城に案内するわよ」
「おう、頼む」
俺とアイリスとクイラは決戦の地(?)であるシュタイン城へと向かって行った。
ーーーーーー
クイラの家の奥にある森を抜けるとシュタイン城が見えてくる。シンデレラ城かよ、というのが第一印象。民家はハヤテ達が住む家とは形が違っていたがシュタイン城はまさしく「城」だった。
「す、すごいね」
「城っていうだけあるな」
「えぇ、このシュタイン城は世界で1番大きい城だって言われてる」
「入れるのか?こんな城に」
「えぇ、用件を伝えれば執事が案内してくれるそうよ」
「そう、ってクイラは来たことないのか?」
「……えぇまぁ」
それ以上詮索することはしなかった。最初にシュタイン城のことを話した時と同じような表情をしていたから。
「まぁまずは中に入るか」
「うんっ、そうだね!」
アイリスはシュタイン城に入れるのにワクワクしているのかテンションが異様に高くなっているのがすぐわかる。確かにこんな城早々入れるものじゃねぇもんな普通。反応がかわい……大袈裟なのは置いといてやろう。
「てかどうやって入るんだ?」
「この呼び鈴よ」
門の横についてあった呼び鈴を鳴らすと「チリンチリン」と辺り一帯に鈴のような音色が響き渡る。すると門の更に奥の扉が開き、中から出て来たのは執事と思しき人物だった。この世界にもあったのか燕尾服。そしてガチガチのポマードで固めた白髪混じりの髪型。そして執事の象徴と言っても過言ではない綿手袋。年齢は50代と言ったところか。その執事は門を開けーー
「ようこそいらっしゃいました。私、執事のフリーデルと申します」
フリーデルと名乗った執事は硬い表情を崩さないまま姿勢も崩さない。さすが城の執事。
「あ、あの!王女様に会いに来ました!」
アイリスが用件を伝えるとフリーデルの硬い表情が更にこわばった、気がした。
「かしこまりました。ご案内します」
そういってあっさりと中に入ることはできた。しかしここからが本番である。中に入ったハヤテ達は異常に長い階段を登り、ある一室の扉の前に到着した。そしてフリーデルは「コンコン」と扉を叩き、
「王女様、お客様がお見えになりました」
そして5秒も経たないうちに扉が開きーー
「はぁ?なんなの?あんた達。邪魔。帰って」
クソ生意気そうな王女様が出て来ましたとさ。