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異世界の神様は鬼畜である。

ハヤテは少女に手を取られて走り出した、しかし


「君!先行ってて!」


「なっ、おい!」


彼女は街へと戻っていく。

大蛇は大暴れし、すでに街は破壊し尽くされていた。ハヤテは少女の行く末を見ながら立ち尽くす。


ーーどうする、戻るべきか。けど戻ったら、


彼女は下敷きになった人たちの救出を試みていた。


ーーっ!めんどくせぇ!


ハヤテは走りだし、彼女の元へ向かう。こんな時に見限って走り出さない自分を恨みつつも、見捨てて罪悪感に苛まれるよりはマシだと自分に言い聞かせた。


「おい!ーーっ?!」


その瞬間ハヤテは目を疑った。


不意に彼女が手を上げたと思うと瓦礫が宙に浮いたのだ。浮き上がった瓦礫の下から下敷きになっていたであろう人たちの姿が露わになる。


ーー魔法、か。


それ以外には考えられなかった。瓦礫が宙に浮くなど普通ではあり得ない。それにこの状況で見せられたら疑いようがないだろう。

そして瓦礫は下敷きになった人たちを救出するのに邪魔になるものだけが浮いていた。もしかすると浮かせられる瓦礫には限界があるのかもしれない、そう思った時、


「ーーっ!?」


少し見上げると大蛇の8つある顔の1つが彼女の方を向いていた。


ーーまずい。


そう直感したハヤテは今だ下敷きになった人たちの救出作業をしている彼女に飛びかかった。その時大蛇の顔が甲高い声をあげて彼女がまさに今いた場所へと突っ込んでいき、瓦礫が一気に吹き飛び砂埃を巻き上げながら大蛇の顔がゆっくりと地面から離れていく。救出中の彼らも同じくバラバラに飛ばされた。


ハヤテは再び大蛇の方を見た。


ーー嘘だろ。


大蛇の8つある全ての頭がこちらに向いていた。もう次は避けようがない。大蛇の眼光がハヤテの心臓を貫くように刺さる。心臓の鼓動が早くなり、逃げろ。そう脳が命令しているが肝心の体が動かない。


大蛇が再び甲高い声をあげる。そして全ての頭がハヤテに牙を向けながら突っ込んできた。


「はは、無理だろ」


自嘲気味に笑ったハヤテは諦めたように呟いた。


しかし、その時ハヤテの目の前に魔法陣が現れ、このわけのわからない状況を飲み込む間も無くハヤテはその光に包みこまれていく。失われゆく意識の中で声が聞こえてきた。


「ちょっ、何してるんだヨ!」


「あ、間違えたっち」


誰かと誰かの話し声。その会話に耳を傾けながら、眠気にも似た喪失感に身を委ねたハヤテは意識を失った。


ーーーーーー


ふと目の前に広がったのは真っ青な湖、そして青々とした緑だった。青々とした緑ってどっちなんだよって話だがこの場合後者である緑だ。


水と木。正確に言えば青く澄み、それでいて奥深く底が見えない湖。そしてその周りを取り囲むようにして延々と続く木々、森である。


「夢、なのか?」


謎の異世界に飛ばされる前に見た、夢であって夢でないあの謎の光景を目にした後ではこれを夢と決めつけるのはいささか早すぎると判断した。というよりもあの魔法陣で飛ばされた場所だと考えるのが妥当だろう。


「てか、大蛇といい魔法陣的なやつといい今の状況といいなんなんだよまじで……」


自分に置かれた理不尽すぎる状況に倦怠感のような感覚を覚えた。そもそも巻き込まれる理由がないのだ。自分はただの高校生で別にこれといって特別な環境で育ったわけではない。まぁ友達が1人もいないというある意味特別な環境なのかもしれないが。


「そういえばあいつは?」


あいつーー赤髪の少女が見当たらない。一緒に飛ばされたと思ったがまさか取り残されたのか?じゃあ大蛇もまだあそこに……?

そんな嫌な妄想が膨らんでいく。

その時、


「ーー?」


聞こえてきたのは唄、いや、鼻唄だった。透き通るような女の声。なぜかハヤテには聞き覚えがあった。


「あいつの声……?」


そう、その声の正体は紛れもなくあの赤髪の少女。しかし辺りを見回すがどこにも彼女の姿は見当たらない。けれど確かに彼女の声だった。


不意に眠気のようなものが襲ってくる。意識が朦朧とし、必死に現実世界に縋るように抵抗した。その時湖が光り出しその光が集まって一つの形になっていくのが分かる。人だった。しかも赤髪の。しかし顔を正確に確認することができない。


ーーおい、


あの少女だと思い声をかけようとしたが意識が引っ張られ言葉が出ない。

そしてハヤテは本日3度目となる意識の喪失をに身を委ねることにした。


ーーーーーー

次に目を覚ました時、ザラザラとした感触が頬を刺している。少しの肌寒さと強い風が頬を撫でる、というよりも軽く殴ってくるような感覚だった。


周りを見渡しても何もない、はずだった。

隣で自分と同じような体制で寝ている彼女を除けば。


ーーまさか、死んでねぇよな。


嫌な妄想が頭によぎる。悪い癖だ。

脈を確かめると規則正しく動いているようだった。さすがに目の前で人が死ぬなんてことは幾ら彼でも耐えられるかは微妙なところだ。


「おい、起きろ!」


そうなんども呼びかけたが目を覚ます気配はない。よく見れば身体中傷だらけで服もボロボロになっている。今起こしたところで彼女が普通に歩けるかはわからない。

しかし問題はそれだけでは無かった。


「どっちに歩けばいいんだよ……」


延々と続く砂漠地帯。最初は先ほどまでと同じような夢に似た世界かと思っていたが、意識の喪失や主要キャラ的なのが出てくるわけでもない。

ラブコメの神様は意地悪な展開を用意する、なんていうが異世界の神様は鬼畜しかいないのだろうか……

またも詰みを経験したと思ったハヤテだったがはるか前方が光っているのが確認できた。


ーー賭けるしかないな。


根拠はないがそこに向かうべきだと直感した。


そしてハヤテは赤髪の少女を背負い歩き出した。


ーーーーーー

一体どれぐらい歩いたのだろうか。感覚が麻痺して今まで何も気にならなかった。


背中で眠る少女ーー薄紅色の髪の毛に白い肌。何と言っても彼女の整った顔立ち。美女、というよりも美少女という言葉が世界で1番似合うといっても過言ではない美貌の持ち主であった。



ーーめんどくせぇんだよ。



そんな美少女を背負ってるにも関わらずハヤテはただただ面倒だという感情だけが頭を支配していた。


それならばその少女を置いていけばいいはず、しかしそれはハヤテの性分とも言える部分であり、置いていくことなど頭の隅にもなかったのだ。


だがハヤテの体力は限界に近づいていた。心身ともにボロボロでもう歩く力も残っていないはずだった。


それでもハヤテは歩き続けた。歩き続けることが曲がりなりにもハヤテの恐怖心を和らげる唯一の方法であったから。



その時地面が揺れ、地響きをさせた。



ーー何かが来る。



そう直感したハヤテだったが、恐怖を前にして足を動かす力が残っていなかった。

そしてハヤテの数十メートル先の地面が盛り上がりそこからツノの生えた魚、ではなく巨大ザメのようなものが現れた。



「ギャルァァァァァァァァ!!!!!」



ーーあー、詰んだ。



ハヤテはサメの雄叫びを前に本日何度目かわからない《詰み》を悟った。


そしてサメは2人に襲いかかる。

その時、



「ギャルルルルル!!!!」



先ほどとは違う悲痛な叫びが響き渡った。

閉じていた目を開け前を見ると、



3つの塊が落ちていた。



否、サメが三等分されていたのだ。



「し、死んだの、か?」



しばらく様子を見ていたが先ほどまでの獰猛さは消え失せあたりには静寂が広がっているだけだった。


おそらく死んでいるのだろう。

そう思った瞬間ハヤテは膝から崩れ落ちた。



ーーもう、動けねぇ。



このまま死ぬのだろうか。そう思った瞬間、


ハヤテの前に誰かが居た。


最後の力を振り絞りその人物の顔を見る。


女だった。


はっきりとは見えなかったものの、ハヤテの背中にもたれかかる美少女と勝るにも劣らない美貌だった。


最後の力を出しきったハヤテは霞ゆく意識の中で信じられない光景を目にした。



地面が一気に遠のく。飛んでいるのだと認識するのには十分すぎる判断材料であった。


そしてヒイラギ・ハヤテは意識を失った。

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