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異世界は詰みで溢れている。

あぁ、夢か。


ハヤテは直感でそう感じた。


そこに広がったのは《闇》《暗黒》《虚無》《虚空》どれも当てはまるような一面黒闇が広がる世界だった。


何もない、はずだった。


突如やつが現れるまでは。


なぜ気付かなかったのだろうか。


【気づいたらそこにいた】


そんな当たり障りのない表現しかできなかった。


《やつ》は全てが金で埋め尽くされている。


そしてあまりにも巨大だった。


それは我々の知る限り《鳥》と呼ばれるものであったのだが、それを《鳥》だとはどうしても思えなかったのだ。


見るもの全ての心の内を見透かすような瞳。ハヤテはこの瞳に恐怖や不安などではない何かを覚えた。

しかしその感情を理解しようとすればするほど自分の中の何かが崩れていきそうだった。


そして《やつ》は全長50メートルはあろうかという翼を広げハヤテを包み込む。



ーーずっと、君を見ている。



誰の声かわからない、ただ神秘的で透き通るような声が頭の中を駆け巡った。


その瞬間ハヤテの意識は闇に飲まれていった。


「ーーっ!?」


突如目を覚まして辺りを見回す。

眠っていたはずなのにハヤテは《街》の中に立っていた。

まだ状況を掴めていない頭を懸命に働かせる。


そして、


「……まさか、な」


ここがどこなのかはわからないが、あたりはどう見ても日本ではない。

そして自分の置かれた状況を理解するのに5分もかからなかった。かと言って別におかしな事に巻き込まれることに慣れているわけではない。

しかしここが『異世界』だと判断するのに別段時間を要する必要はなかったのだ。

イタズラにしては懲りすぎている。さらにこの感覚は夢ではない。流石にこれをイタズラや夢だと思うのは異世界召喚よりも無理があるような気がした。



見慣れない風景。というよりも自分がいたはずの現代のものとは似ても似つかない建物。イタリア風、はたまたフランス風ともいえないどこか奇妙な造り。


何しろ周りにいる人間、と思しき者達が自分の知っている人間ではないのだ。


尖った耳、色とりどりの顔色、顔色と同じ色をした髪の毛。何と言っても大きさがピンからキリまである。

身長2メートルを優に超えるような人間から1メートルにも満たないような小さな人間までいた。

服装も現代のものとは程遠い、道着もしくはローブのような服装であった。

しかしそれでも自分と同じような人間と全く同じ顔をしたのも多くいる。


他民族、もしくは多種族といったところか。


ある程度自分の状況を把握し、ハヤテは一息吐いた。



ーーめんどくせぇ。



ハヤテが最初に感じたのは恐怖でも好奇心でもなく煩雑に似た感情だった。

どうして自分がこんな事に巻き込まれたのか、その理由に関しては全く心当たりがない。しかしこの状況生み出した『やつ』には心当たりがある。


「さて、どうしたものか」


最初から手詰まりというのも厄介である。

つまるところ自分から行動に出なければならなくなったのだ。人との交流を好まないハヤテにとってはかなりの難題であった。


そもそも自分の言葉は通じるのか。そこが1番の不安要素でもあった。

生憎、誰の手助けもなしにこの異世界を生き抜いていけるほどのサバイバル精神は持ち合わせていない。

そこは異世界召喚という理不尽な状況に放り出されたせめてもの救いに賭けることにした。


「あの、すみません」


ハヤテは自分と同じ人間と思しき人に声をかけた。


「なんでしょう?」


ハヤテの思惑通り言葉は通じるようだった。

ただ、声をかけた相手は怪訝そうな表情でこちらを見ている。それもそうだろう。少年と同じような『スウェット』や『運動靴』を履いている人はどこにも見当たらない。

人を服装で警戒するのはどこの世界でも同じらしい。

しかし自分が警戒されている理由はそれだけでない、そんな気がした。


「ここって、どこですか?」


「ーー?アラインですけど?」


ここでハヤテは大きな問題点に気づく。

そもそもこの世界の住人に今いる場所を聞いたところで自分に理解できるはずがないのだ。

ならば地図など道を示してくれるものはないだろうか。

そう思い町を歩き案内板のようなものを見つけた。しかしそこに書いてあったのは象形文字にも似た不可解な文字であった。


「異世界召喚されたんだから文字ぐらい勝手に読めるようになっとけよ……」


異世界RPGお馴染みの【なぜか読める文字】というのはいささか期待しすぎたようだ。



ーー完全に詰みゲーじゃねぇかこれ。



そう思った矢先、遠くから聞こえた爆発音とともにハヤテの不安はかき消され、



瞬く間に恐怖へと変貌した。



ーー詰んだな。



現れたのは《蛇》でもなく《竜》でもない、全長100メートル近くある長い胴体、鋭い爪を持つ手、巨大な翼。

そして何と言っても8つもある頭が恐怖を何倍にも増幅させた。


ーー《ヤマタノオロチ》


咄嗟に浮かんだのは歴史書『日本書紀』および『古事記』に記されている《八岐大蛇》《八俣遠呂智》だった。


その昔、足名椎命と手名椎命の娘8人のうち年に1人ずつ7人を喰らい、最後の1人櫛名田比売を喰らおうとした時、須佐之男命に十拳剣で討ち取られたとされる伝説の大蛇だ。



ーーなんでこんな時に歴史の復習なんかしてんだよ。



こんな状況でも冷静でいられる自分に多少の苛立ちを覚えたものの、今回は救われたようだ。



逃げ惑う人々の叫び声がまるでレクイエムのようにこだましていた。その時



「なにぼーっとしてるの!早く逃げて!」



不意にハヤテは少女に手を掴まれ走り出した。

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