狂気
優しい嘘です。
3章も頑張って行きます。
1度目、2度目同様、モリヤマの提案で自己紹介を始める。過去2回とほとんど変わらず、変わったと言ってもアカシ、モモタの内容だけだ。
「なんか……シムラちゃん残念っスね。」
「なんとでも言うがいいさ。」
この2人の会話が引き金かのように、けたたましい音が鳴り響く。
「な、なんや!?」
いつも通りモリヤマが素っ頓狂な声をあげる。
「キミ達は桃太郎。鬼を倒してね。」
1回目のアナウンス。そして、
「キミ達は桃太郎。鬼を倒してね。」
「「走れ!!」」
出現した刀を手に取り、2人が叫ぶ。これからの段取りは決めてある。
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自己紹介が始まる少し前に遡る。
「じゃあ、どうやって全員で生き残るか、考えねぇとな。」
モモタが腕を組む。
「どうやら、2回目のアナウンスが終わったあとに刀が現れることはもうわかったんだ。」
「やるじゃねぇか!流石3回目だけあるな!」
「ああ。」
アカシが苦虫を噛み潰したような顔をする。
「……そんなこと言っても嬉しくはねぇわな。すまねぇ。」
「気にしないでくれ。次にシムラがはやぁい鬼を倒すことは確定事項だ。」
この2回、はやぁい鬼を無残に殺したシムラ。負けることは考えられない。
「じゃあデケェ鬼と、黒い鬼をどうするかだな。」
「でかい方はオレに任せてくれ。そして、黒い鬼だがアイツは出会ったらゲームオーバーだ。目が合うと、体が恐怖に縛り付けられたみたいに動かなくなる。」
モモタが考え込む。
「じゃあオレはみんながソイツと遭遇しねぇように、なんとかやってみるぜ。」
「ああ、任せた。」
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そして、現在。アカシはつよぉい鬼を誘導し、前回と同じ広場へ誘い出すことに成功していた。
「お前のことは知り尽くした。」
3回目ゆえに鬼の動きを見切っていた。自らを運動神経が優れていると称するだけある、その機敏な動きで鬼の爪、剛腕を躱す。躱しながら攻撃のチャンスを探す。
鬼も生物なのだから感情を持つ。アカシに攻撃を躱される度に苛立っているのが見て取れた。
苛立ちと共に、攻撃は単調になる。単調になればアカシが躱しやすくなる。アカシが躱せば、鬼は苛立つ。そのような連鎖だった。
遂に痺れを切らし、鬼が大きく振りかぶった。
「今だ!」
この瞬間を待っていたアカシは、すんでの所で拳を躱し、鬼の懐へと滑り込んだ。そして、鬼の右の膝の筋を切り裂いた。
「ぐォォ!」
悶える声と共に膝から崩れ落ちる鬼。片膝になったぶん、先程までのように激しい攻撃はないだろう。
鬼の動きの制限、これができれば死人はだいぶ減るだろう。以前のアカシならここで満足し、仲間との合流を目指しただろう。しかし、今のアカシはそれだけでは満足できない。
「ここで……殺す!」
鬼の背後から左の膝の筋も切り裂く。そして、両腕を斬り飛ばす。
「小さな傷は再生できたみたいだが、ここまでになると時間がかかるみたいだな?」
「まだ、終わらない……。」
前回同様、新たに二本の腕が生えた。しかし、すぐさまアカシが両断する。
「思った通りだ。ピンチにならなきゃ腕は生えてこないみたいだなぁ。」
攻撃手段と移動手段を失った鬼を前に勝利を確信し、悠然と鬼の正面に佇む。
鬼の顔には、焦りと若干の恐れが浮かんでいた。
「怖いよなぁ?他人に命の行く末を握られてるみたいで。」
薄ら笑いを浮かべていたアカシ。しかし、急に表情が一変した。
「お前らに殺されたみんなは!あの黒い鬼を目の前にしたオレは!こんな気分だった!!今度はお前の番だ。覚悟しろよ……」
鬼の右目、左目を躊躇なく順に潰す。
「が、ぐぁぁぁぁ!!」
「……うるさい。」
開いた鬼の口に刀を入れ、掻き回す。おびただしい量の血と、内蔵が掻き回される聞くに耐えない音が響く。
声帯もグチャグチャになったのか、声にならない声をあげる鬼。あまりの苦痛に涙さえ流していた。
「鬼の目にも涙……か。ふはっ。」
軽く吹き出した。
「これがオレ達が受けた苦痛だ!意味のわからない状況に巻き込まれ!目の前で仲間を殺された!お前にだ!」
鬼をいたぶる手は止めない。
「まだ、殺してやらない。」
再生した箇所からもう1度破壊する。鬼が再生すればアカシが破壊する。再生と破壊の繰り返しだった。
ー 狂ってる。
シムラに投げかけた言葉。その時はそれが自分に帰ってくるとは思いもしていなかっただろう。
今のアカシは狂っていた。シムラ以上に。
恐怖に心を押しつぶされ、自身の弱さに怒りを覚え、自己を否定し、心が壊れた。人格を失った。以前のアカシは内には残っていなかった。
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長い時間、鬼をいたぶっていたのだろう。気がついた時には、既に鬼は絶命していた。鬼の返り血でアカシは文字通り真っ赤に染まっていた。
「生まれ変わった気分だ……」
この鬼を倒すために幾度も仲間が犠牲になった、犠牲にした。ただ、今回は1人も死ななかった。アカシが1人で倒した。恨みを晴らした。これだけの事を成し遂げればそのような気分になっても不思議なことはないだろう。
「一応、シムラの方も確認しておくか。」
最初のホールに向かって走り出すアカシ。確認せずともシムラが鬼を倒していることはわかっている。今頃、先ほどのアカシ同様鬼をいたぶり、楽しんでいるであろう。
そうすれば、後は黒鬼を倒すだけで全員が生き残り、本当の脱出方法をゆっくり考えることができる。そのために、シムラが鬼を倒していることは必須事項だ。ただ、それは過去2回成し遂げられていたことだ。
それを確認したかった。約束された未来が現実になっているのかを。
だが、約束された未来など存在しないことを思い知らされる。
ホールに入った瞬間、目が合った『ソイツ』が口を開いた。
「貴方も参加者の方ですね?」
予期していなかった新たな鬼であった。
まだまだ続きます!