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鬼ごっこと砂時計~アカシ・ソウイチの終わらない世界~  作者: 優しい嘘
1章 アカシ・ソウイチの始まり
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始まりの始まり

こんにちは!優しい嘘と申します。

今回はこの作品を手に取って頂きありがとうございます。

初投稿作品ですので至らない点はあると思いますが、温かい目で読んでいただけると幸いです。

彼はただの傍観者。それ以上でもそれ以下でもない。

彼が眺めているものは鬼。そしてそれと戦う少女。刀を振るう少女に対し、鬼が素手であろうとその素の実力差は圧倒的であり敵うはずもない。

鬼の鋭い爪に攻撃は全て防がれる。体勢を崩された少女に振り下ろされる爪。爪が防御から攻撃へとその役割を変えた瞬間、鬼と少女の間に割り込んだ青年。その彼が爪の餌食となる。爪に貫かれた青年を鬼は一瞥し、その体を放り投げる。肉が弾ける音をたてながら、青年は壁に激突した。


「あっ、死んだ。」


誰かがそう呟いた瞬間、視界は真っ黒に塗りつぶされた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「おーい、生きてるか?」


そう言いながらうつ伏せに倒れる青年を揺り起こそうとする大柄の男が1人。優しい口調とは裏腹に、気絶している青年を持ち上げ揺さぶるというやや乱暴な起こし方だ。


「全然起きないねぇ。人工呼吸いっとく?」


「そうやな。」


周囲からの軽口を本気にして大柄の男はマウストゥーマウスに移行する。そして、


「うわぁぁぁ!!」


唇が重なる直前、赤髪の青年、アカシ・ソウイチにとって最悪の目覚めが訪れた。



数分の深呼吸の後、アカシ・ソウイチは周りの状況を把握する。自分が気絶していたこと、大柄の男はただの善意の行動であったこと。そして、自分同様に年端もいかぬ高校生が全部で7人いること。

把握できたのはその程度、その他のことは何一つ理解できない。例えば、自分たちが今、真っ白なホールにいること。ホール内には物があるどころか塵一つ落ちておらず、ホールの広さに相応しくない様子であり、二つのドアが向かい合う形であるだけだった。


「なぁ、自己紹介でもせぇへんか?」


先ほどアカシにせまった大柄の男が言い出した。

これ以上今の状況を考えても進展しないと思ったのか、全員が彼の元へと集まった。

集まる途中、凛とした表情の少女が小声で呟いた。


「アンタは覚えてないかもしれないけど、ありがとう。」


「えっ?」


面食らったアカシはポカンとした顔で、そう絞り出すのが精一杯だった。



「言い出しっぺやからまずは俺から。俺の名前はモリヤマ・エンや。よろしく頼むわ!」


緑のジャージに、オールバックの先ほどの大柄の男がそう名乗る。目つきは鋭く、コワモテの部類に入るであろうが、実際は人当たりが良い好青年のようだ。


「次はオレっスかね。」


モリヤマの右隣に座った男が立ち上がった。

眩いほどの金髪で、ネックレス、ピアス、指輪、アクセサリーと名のつく物はほとんど身に付け、顔も整った、いわゆるイケメンである。


「オレはキジマ・シンゴ。趣味はギターっス。」


「見た目通りの趣味なんですねぇ。」


「ちょっ!オレがチャラいとでも言いたいんすか?」


「私はヤマブキ・サツキですぅ。どうぞよろしくねぇ。」


「無視っ!?」


キジマを無視し、間の抜けた自己紹介をしたのはみかん色のワンピースを着て、眼鏡をかけた美少女であった。ウェーブがかかった髪の毛や、おしとやかな座り方、まさにお嬢様といった感じだ。

右回りという場の雰囲気に乗り、赤髪の青年が立ち上がる。その顔には緊張を浮かべている。


「オレの名前はアカシ・ソウイチだ。えーと、一応運動神経には自信があります。……よろしく。」


「さては、アカシちゃん、自己紹介慣れしてないっスね!」


「キジマ君うるさいよぉ。」


「ヤマブキちゃんはオレに辛辣じゃないっスか!?」


そんな2人を意に介せず立ち上がったのは先ほどアカシにお礼を呟いた少女である。


「スズヤ・アイヒ。……よろしくね。」


紺色の髪を肩の上におろし、シンプルな服装の凛とした表情が似合う少女。彼女にアカシは既視感を覚えた。


「どこかで会ったことあったかなぁ?」


先刻のお礼といいそう思うのは当然だが、アカシの記憶の中には、スズヤ・アイヒが存在しない。彼女の言う通り、アカシが忘れているのだろうか。お礼の謎は深まるばかりである。


「よしっ!じゃあ俺の番だな!」


アカシが、半ば強引に既視感を振り払い、声をあげた人物に注意を向ける。逆立った髪に桃色のメッシュを入れ、ジャケットを肩に羽織った男。雰囲気的にはこの中で一番年上のようだ。


「俺はモモタ・テンマだ!今は状況を飲み込めねぇかもしれねぇけど、俺がいれば大丈夫だ!オメェらを助けてやるからよぉ!」


「モモタちゃん、かーっこいいー!」


「頼りになりそうやで。アニキって呼ばさしてもらうわ!」


「はァ……。まさに3バカトリオ結成ですねぇ。」


「それはひでぇだろ!アカシもそう思うよなぁ!」


「えぇ!オレに聞くの!?」


初対面とは思えない5人。それに割ってはいる7人目の人物。


「最後はボクだね。」


そう言いながら長髪の青年が立ち上がる。


「シムラ・キリヒコ。人はボクを生命の観測者と呼ぶ。」


白のコートにズボン、靴まで真っ白だが紫のスカーフを巻いた彼に向けられたのは、例えるならば捨て犬に向けられる視線とほぼ同様のものであった。


「なんか……シムラちゃん残念っスね。」


「なんとでも言うがいいさ。」


シムラが言い終わったのとほぼ同時に、けたたましい音が鳴り響く。


「な、なんや!?」


「うるせぇぞ!!」


アカシたち7人は身構える。すると、


「キミ達は桃太郎。鬼を倒してね。」


「はぁ?」


どこからとも無く、意味不明の内容を告げる声が聞こえてくる。それにアカシ、モリヤマ、モモタが間抜けな声を漏らした。


「キミ達は桃太郎。鬼を倒してね。」


同じ声が聞こえてくる。2度聞いても意味は分からない。

いつの間にか、何も無かった筈のホールに刀が立てかけられている。


「走って!!」


刀を手に取ったスズヤがそう言いながらドアの方へ駆け抜ける。瞬間、ホール内に衝撃音が響く。音の正体は、壁を貫く拳。そう、壁が壊されたのだ。壊れた壁から出てくる怪物。


「鬼だ……。」


そう形容するしかないバケモノが現れたのだった。

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