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3.惑溺

 

 寒くて仕方なかった。怖くて仕方なかった。呼んでも応えない、誰も答えてなどくれない。

 どれほど時が流れたか、心の底まで凍え切って、ずっと佇んでいた暗闇に優しい光の洪水が瞼の裏で爆ぜていく。



 ここは…


 豪奢な天井が見える、どうやら城の室内らしい。年に一度立ち入るかどうかの、6歳まで暮らしていた私室の寝台だと気付いて起きようとすれば指先ひとつ動かせない。


 どう…して…


 思考も儘ならず瞬きを繰り返えし、体の上に組まれ乗せられた両手に熱と重さを感じて見やれば、武骨な男の手とそしてその先にキラキラした頭頂を確認し驚愕した。


「ふっ…」


 叫ぼうとすれば、喉元が詰まっているみたいに声が出ない。


 なっななっなに?なに?なんで⁈


 寝台に臥せる手をしっかりと掴みながらも、その傍らの椅子で蹲っている様子に意識は見当らない。混乱の極みに達していると、掃き出しの窓口からコンコンと音がして見れば、ベランダいっぱいにしがみ付き翼はためかせた友がいた。


 りっリントぉ〜


 咄嗟に思念を送ればうれしげに


「ダリルやっと起きたー、ん?起きれる?」


 どうやら動けそうにもない友の為に、外側から窓枠を引っ張り、巨躰を器用にそっとくぐらせて近くに擦り寄れば、ゆっくりと背中に鼻先を差し込み、上体を起こして横に連なる枕を突っ込んだ。


「これでどお?」


 ありがと


 サイドテーブルに備えられた水差しを爪に引っ掛けて友人の口元に静かに持って行くと


「飲む?」


 頷き慎重に傾けられた水を飲めば


「ありがとう」


 と、声が出た。


「こっちはまだ起きそうにないね」

「こ、この人なんでここに寝てるの?」


 起してしまうのが不安で繋がれた手を離せないまま、助けと答えを求めて友を見る。


「えっと、我、森守りの義務あったから消火活動してる間、こいつがダリル運んだんだよ。こいつ良いヤツ」

「そ、そうなの?」

「あと、ダリルは魔力使い過ぎでボロボロ、人の体弱いでしょ?骨も筋も神経もズタズタ、血もほとんど残ってなかったダリルむちゃし過ぎ」


 ちょっと怒ってるよと極彩色の瞳を眇める。


「ご、ごめんなさい」

「もうしちゃダメだよ」

「はい、きよつけます」


 しょんぼりする姫君の肩口に児竜はすりすりと鼻先を寄せて、友人の回復を喜び漆黒に輝く滑らかな尻尾をふりふり揺らした。


「んで、ズタボロなダリルをぜーんぶ繫いでキレーイに治したのこいつ、こいつエライ」

「そ、そうなんだ?」

「そだよ、3日間繋ぎっぱなし」

「はえっ?みっ3日?そんなにたってるの!」

「そだよ、人はそんなにチカラ使えないよね?こいつも人じゃないのかな?」


 児竜は少しキョトキョト観察して、額を男の頭に軽くごっつんこすれど目覚める気配はない


「食べてみていい?」

「たっ食べちゃダメ!リントお腹壊しちゃうよ」

「じゃあ、齧っていい?」

「うーん、どうだろう?ちょっとだけなら?」

「わかったぁ」


 あ〜んと開けられた頭上に蔓延る物騒な空気に、凄まじい危機を察して男は咄嗟に身を引き覚醒する。


「そっそれ死にますから!」


 ひと息に壁際まで飛びすされば、目を回しへたり込む。


「取り敢えずお礼の言葉くらいは頂ける筈だと自負していたのですが…」

「あ、貴方が治してくださったそうですね、ありがとうございます」

「一応は命の恩人なのですが…」


 溜息を吐き悩ましげに憂う金色の瞳に、ばつが悪くなり目を反らし、プクッとふくれて言い逃れに走る。


「リントが齧ってみたいって」

「頭噛まれたらたぶん砕けます、頼みますからペットは飼い主がキチッと躾けて下さい」

「ぺっペットだとぉーっ!」


 男の言葉に怒りを現し瞬く間に翼で首を抑え込む。


「永劫巡る暗黒森の継承者である我を愛玩動物だとっ⁉︎」


 ふざけるな、と憤怒を体に漲らせ、大きく息を吸い込む。


「リント⁉︎お部屋が丸焦げにっ」


 友人の制止もそっち退けで、地獄の業火を吐こうすれば、不完全燃焼の黒い煙りがひとつぷすっと出るばかり


「!なんで?我、故障しちゃったよ⁈」


 矜持高きドラゴンブレスのあるまじき不発に、仰天して涙目になる友を、抱きしめる為慌てて跳ね起き、そのしなやかで清廉な背後に庇い立て、力の限り男を睨みつける。


「どうしてですか?森での現象といい、今といい、神の摂理を超え過ぎている」


 リントヴィウムといて、封じられた魔力を全開にしたとしても勝てる気がしない、未だかつて体感した状況に無い恐慌に落とされた。


「落着いて下さい、敵対するつもりはありません」


 誰も彼も、一瞬で誑かされる荘厳な微笑を浮かべ、細心の注意を払い接近し慎重に姫君の手を取り、恭しく跪き騎士の礼をとる。


「私の名はアシュアランス・ギフト・ルートルヴィヒ、自らの花嫁をお迎えしに来ただけですよ」


 何かの間違えだと本気で祈りたい、この辺境国含む十二国を治める、中央公国現国王の名を告げられたこの事態を。















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