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ひとりぼっちの戦争

作者: あだち りる

知っているだろうか?

人は何も一人で生きられない訳ではないのだ。

元々、人は孤独に生きる生き物だと僕は思ってる。

何せ人と言う生き物は群れるだけ群れた後は結局仲間割れをする。

大抵が悪口でその関係は終了するだろう。

そして新しい群れを成すのだ。

そんな人間関係の群れ社会で生きろと言う方が無理だろう。

給料でもなきゃやってられない。

月給二十万は欲しい所だ。

だがそんな物はない。

月給はないのだ。

残念だ。

そんな群れ社会を一番築いている所、それは現在僕が在籍している゛高校゛である。

これほど人間の群れ社会を築いている場所はないだろう。

根拠?そんなものはソースが僕だからだ。

実態件だ。

だから僕はこの言葉をいい続けてみようと思う。

人間関係、群れ社会、これらを否定する、と。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

「なぁこの後どこ行く?」


一人のリーダー的に振る舞っている金髪の少年(同年代)は五人の群れを成す者等に言葉を投げる。


「オケでよくない?」


オケ?何それおいしいの?

謎の単語をを放つ茶髪ウェーブの少女。


「カラオケかよ、俺金ねぇ~」


と、左の髪に赤のメッシュがかかってる少年が項垂れる。

オケ=カラオケて…何でも端折ればいいってもんじゃないぞ。

僕の先祖も言っていたぞ。

日本語を大切にしなさいと。

まぁ、カラオケが日本語かは知んないけどさ。


「んじゃ適当にここで駄弁ろうぜ」


「そうしよ!そうしよ!」


茶髪の少年がそう提案すると黒髪ショートの少女が同意する。

てかおい、待てやコラ。

今この三年四組の教室は俺の領土だぞ。

しかもここのせんせいを撃ち取り許可を得ているのだ。

(居残り)


「…」


一人、無言の少女がその群れにいた。

黒髪、その群れの中で唯一制服をキッチリ、校則通りの服装だ。

眼鏡をかけていて三つ編みだ。

この群れの仲間と言うのには違和感がありすぎた。


「ねぇ、間淵まぶち


「ッ!」


金髪の少女が、間淵、と言う名前を呼ぶと眼鏡をかけている少女が肩をビクンと動かす。

たぶん眼鏡少女の苗字だろう。

ちなみに僕の苗字は淵田ふちたと言う。

お互い同じ゛淵゛同士、仲良くしようじゃないか。

まぁ関わることはないと思うが、僕はソロプレイ派だしな。


「ちょっとさ飲みもん買ってきてくんない?」


先程の金髪の少女はニコやかに笑いながらそう言う。

まぁ群れにいる以上友のために飲み物を買うのは必要な条件だろう。

大切なお金を預かる身としてはな。


だが、淵田の想像とは違う会話の内容が聞こえた。


「えっと…お、お金は…?」


間淵はおどおどしながら聞く。


「え、私達友達でしょ?払ってくれるよね?」


「う、うん…」


淵田、間淵、その他五名。

教室にいたのはこの七人だ。

その少なさのせいか金髪の声と間淵の、うん、と頷く声はよく響いた。


なるほど。

こりゃあ胸糞悪いですな。

間淵の顔を見れば誰にだってわかる。

間淵の目は明らかに諦めてる目だ。

手助け…はしないさ。

僕は善人ではないしな。

それに僕は出来るだけ人とは関わりたくない。

正直、周りの奴等なんてどうでもいいさ。


間淵は黙って五人分の飲み物を買いに行き、僕はそれを黙ってみていた。

そして、無事、僕は試練(数学のプリント)を終えた。

失敗したなぁ…無駄にエネルギーを消費してしまった。

僕は物事を全て省エネで済ませたいのだ。

日本の国民は皆省エネを目指すべきだ。

ビバ省エネ。

そんな省エネを称えながら帰っていると、本屋で見覚えのある顔を見つけた。


稲津気いなづき 千里ちさと

短編集と書いてある。

その短編集を片手に持って読んでいたのは間淵だった。


「…絵になるな」


俺は自然とそう口が動いた。

読書をしている彼女は絵になる。

だが、普段の彼女は、ただ地味な女の子、と言う印象しかないのだ。

だけど、どうだろう、本を片手に持つ彼女は魔法がかかったかのように可憐である。

まるでおとぎ話のシンデレラ見たいだな。

などと僕がジーっと彼女を見ていると突然「ぷっ!」と、笑い口を抑える。

何とも可愛い仕草なのだろう。

すると彼女は、やってしまった、と言う顔でキョロキョロと周りを見始めた。


僕も僕で気づいた。

僕が彼女をさっきから、ジーっと、見てた事に。

そして、彼女はこちらの視線に気付き、お互いに目を合わせてしまった。


「やば…」


ついそう呟いてしまった。

彼女をするとみるみる顔が赤くなって行く。

アニメキャラかお前は。

そして開いてた本を両手で掴み、しゃがみ、顔を本で覆い隠した。

だが少しはみ出てる口元だけで赤面してることがわかった。

彼女は行動で示してるのだ。

「恥ずかしい…」と。

もしかしたら頭の中は既に恥ずかしさで占拠されてるかも知れない。

ん~…正直このまま帰るのはちょっと可哀想な気がしてきた。

スルーほど傷付く行為はないと母が言っていたが…うむ、今なら理解出来るかも知れん。

だが何て話し掛ければ…「ん?」僕が腕を組ながら考えていると「…」間淵がこちらをチラチラと見てきていた。

間淵の頭の中は恐らくこんな感じだろうか、何で話し掛けて来ないのかな?、そこでチラ見を何度か挑戦をするも僕は気づかず、ずっと続けていると言う事だろう。

その証拠に足がプルプルと震えている。

まるで生まれたての羊のようだ。

ずっとしゃがんでてキツくなったんだろう。

仕方ない。

何か適当に話して見るか。

そして俺は接触を試みた。


「えっと…間淵…?」


「…」


これはかなり恥ずかしいご様子。

んまぁ話した事もない奴にいきなり話し掛けられれば僕でも動揺はするだろう。

けど今は状況が状況なので別だと思うのだが…無言は来るものがある。


「その本、そんなに面白いのか?」


ふと思って口にしたのがこれだった。

そして間淵は先程までキュッと閉じてた口を開き「うん…」と頷き、笑った。


「ッ…!へ、へぇ…」


この表情に少々ドキリしたのは認めよう。

だがこの程度で恋などと言うクエストを受ける気は更々ないがな。

けど…いつも笑みを見せない間淵が急に笑うような本か。

少し気になるかも知れん。

こんなシンプルな表紙でコメディ要素があるのか。

こう見えても、僕は読書は好きだ。

孤独に生きる者への癒しの聖書だからな。

ちなみに、この、稲津気千里、と言う作者も知っている。

だが、彼女の作品は大抵が悲劇の物語なのだ。

コメディ要素があったとは思えないが…。

うむ、段々読みたくなってきた。

僕も買うか。


僕は間淵がしゃがみこんでる前の、稲津気千里の短編集の本をとった。

僕はただの好奇心のつもりだった。


「買う…の…?」


と、これが間淵と初めて話した瞬間である。

さっきまではただ頷くだけだったのに。

僕は少し面食らったような顔になってたかもしれない、だがすぐにいつも通りの、ダルい顔に戻して答える。


「まぁな、あの稲津気千里の作品でコメディ要素があるの何て知らないから読んでみたいって思った、だけだ」


「え…コメディ要素…ないよ?」


「…えっと、じゃあ何でさっき笑ってた…?」


「それは…その…展開にと言いますか…ざまぁみろと言いますか…」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

僕達は場所を変え、公園に来ていた。

えっと、まとめるとだ。

やはりこの稲津気千里の短編集は悲劇、まぁつまり鬱になる作品ばっかだった。

そして気になる間淵が笑った部分。

これを一から説明しよう。

まず、稲津気千里の短編。


「ひとりぼっちの戦争。」


と言う作品だ。

あらすじは、いじめられていた主人公のいじめっ子への復讐劇。

それがとにかく酷いもので、やはり鬱にさせられる。

主人公はまず、いじめっ子達の両親を殺した。

それもかなり無惨に。

そして主人公はいじめっ子らを更に追い詰めた。

その追い詰め方、それは罪を被せる。

と言う物だった。

自分の親を自分で殺した。

この状況に耐えかねたいじめっ子らは最後に、首をつって死んだ。

そして主人公は笑い、叫び、嘆き、最後には、自殺した。

包丁で自らの心臓を抉ったのだ。

最後に残ったのは、喪失感だけだった。

と、最後の一文に書いてあった。


そして間淵が、ふと笑いを溢した部分は絶望するいじめっ子達の喪失感と絶望感だったと言う。


短編と言うだけあって短かった。

すぐに読み終えた。

そしてこのストーリー、まったくと言っていい、笑える部分なんて何一つない。

ただ、ただ鬱になるだけだ。

そして僕は自然と口が動く。


「間淵、お前って結構な悪人な」


「え!?な、なんで?」


間淵は公園のベンチから突然立ち上がり、明きからかな動揺を見せる。


「善人がこんなシーンでふとした瞬間に笑うか?いんや、笑わない、お前は悪人確定だ」


「なんでそうなるのかな…?」


と、間淵はそう言いながらそっとベンチにお尻を戻した。


「いいだろう、説明してやる」


淵田は、指を立て、口を開いた。


「まずこの世には三種類の人間がいる」


「三種類…?二種類じゃなくて?」


「そうだ、まぁこれは僕の考えだがな、ただの自己満回答だが、いいか?」


「いいよ、続けて」


間淵はこの話にかなり興味を示したようだ。

何か餌で釣ってる気分になるな。


「じゃあまず、一般的な二種類の人間は、善人と悪人だ」


「そうだね…それがスタンダードだと思う」


何か間淵、さっきと態度違くね?

さっきはびくびく怯えてる感じだったのに今は何かイキイキしてる。

笑ってはいないがそんな感じがする。

ま、まぁいいか。


僕は話を続ける。


「そして、三種類目は゛人゛だ」


「人…?」


「そう、人だ。この三種類はこう言う意味を持つ。

善人、他人の喜びを自分の者だと思える人の事。

悪人、他人の不幸は自らのの喜びだと思える人の事。

そして、最後、人とは、無関心な奴の事を言う、人は否定はしない、ただのそいつの言葉を肯定するだけだ、人はそこにいるだけのバクテリア見たいなもんだ」


「確かに…善人でも悪人でもないね…でも、例えば悪い行動をその、人、が見過ごした場合はそれは悪人になるんじゃないかな?」


「いんや、ならないさ、まぁもし罪悪感の一つでも覚えりゃあなるかも知れんが」


「つまりは…」


僕は続けるように間淵が言おうとした台詞を言う。


「何の感情も持たない、動くだけの、なにもしない、ただのバクテリアって訳さ」


と、僕はつまんなそうにその言葉を並べた。

間淵はその言葉に何故か目を丸くしていた。

まぁ確かにこんな考えを持っているのは僕だけかも知れない。


「そんな人が実在するの?」


突然と投げれられた言葉。

当たり前の疑問に、僕は当たり前のように答える。


「いるさ、だって僕だから」


そう、人、それは僕だ。

僕の事だ。


「淵田君が人~?」


「何だよ」


何故か間淵はニヤニヤしながら俺の方に視線を向ける。

こやつ…こんなウザイ表情が出来たとは。


「だって淵田君はもう私に話しかけた時点で、私を気にかけた時点で、もう人じゃないと思うけどね、」


間淵はニッコリと笑いながらそう言う。


「じゃあ僕は人じゃなかったら何だってんだよ」


「ん~…私が考えるに、淵田君は、善人、なんじゃないかな?」


「…」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

僕は間淵と別れた後、家に帰っていた。

僕はベッドで横になる。


「僕が善人って…あの女は何処に目がついてるんだか」


僕はお前を見捨てたじゃないか。

見てないフリをして机にずっとしがみついてたじゃないか。

何の罪悪感もなく、お前と言う人間を、悪人を、切り捨てたじゃないか。


僕は、人、じゃない…か。

もしそうだとしても、僕は善人にはなれないよ。

人でも善人でもなければ、僕もお前と一緒だよ、間淵。

間淵、僕はお前の考えがわからない。

今日のお前と教室でのお前はもはや別人じゃないか。

猫を被っていたのか。

善人なんてこの世にはやはりいないのかも知れないな。

もしいたとして、そいつは絶対、損をする奴だ。

優しさなんてもん、この世界では意味をなさないに決まってる。


その日は、いつの間にか眠りについていた。

翌日。

学校の教室で、僕は昨日買った、稲津気千里の短編集を読み進めていた。

稲津気千里、彼女、いや、彼なのかわからないが、いわゆる天才と言うやつだ。

この文才能力は天から与えられた物と言って良いほどに圧倒される。


現在、僕が読んでいるのは、ひとりぼっちの戦争、だ。

何故また読んでいるかと言うと、もしかしたら間淵の気持ちになれるかも知れない。

そう思ったからだ。

けど、いくら読んでも読んでも、笑える部分なんてなに一つない。

とにかく鬱になる内容だ。

この自習時間を使ってまで読んでも理解出来る気がしない。


今は自習時間、先生も不在。

教室はほとんどが話してる。

これぞ群れ社会だな…。

そして、最も目立ってるグループはやはり、間淵がいるグループだった。

間淵はやはりその中でもただ黙ってるだけ。

何であんなグループに間淵がいるのか、疑問でしかないな。

間淵、考えれば考えほどわからない奴だ。


「おい間淵、今お前なんつった?」


その声は急に聞こえた。

そして、教室は一瞬で凍り付いた。

なんせその声は結構な音量だったからだ。

なんだ?群れ社会が崩れる音がしたぞ。

僕は好奇心に任せて耳を傾けた。

人の不幸は蜜の味と言うだろう?それだよ。

だけど、さっきの名前、聞き間違えじゃなければだけど…。


淵田は、さっき茶髪の女が呼んだ名前に聞き覚えがあった。


「私は…パシリじゃ…ないよ…?」


やはり、その声は間淵だ。


「あぁ?あんたさ、ちょっと調子乗ってない?あんたと友達になった意味わかる?買いに行けって言ってるの」


「だから、私はパシリじゃないよ!」


間淵は茶髪の女に抵抗するように言葉を投げた。

大体状況は理解出来る。

だが、この状況は間淵が招いた事だ。

俺には関係ない。


「間淵、いい加減にしろよ、てめぇ見てぇなつまんねぇ奴と友達になってやってんだぞ?」


「こんなの友達じゃないよ…ただのパシリじゃん!」


関係…ない。

そう思った瞬間、あの言葉が頭に過った。


『私が考えるに、淵田君は、善人、なんじゃないかな?』


なんでこの言葉が突然。

そんな事を思った瞬間、自分と言う存在を再確認した。

僕は善人でもない、悪人でもない、人。

だけど間淵は違うと言った。

なら僕はなんた?僕は誰なんだ。

この状況に、もし僕が手助けをすれば、僕と言う確認が再確認できるんじゃないか?

今更…善人になった所で…いや、違う、違うだろ。

善人になる?悪人でも人でもない?

違う、違う違う!!そうじゃないんだ。


僕は僕なんだ。

人が人と言う存在にしかなれないように、僕は僕でしかないんだ。

我ながら馬鹿見たいな答えだと思う…なら、こんな馬鹿回答のついでに、馬鹿見たいな事してもばちは…当たらないよな。


「間淵…てめぇいい加減にしろよおお!」


「ッ!」


茶髪の女はそう叫ぶと、手を後ろに引く。

間淵はそれに対して歯を噛み締めている。

そしてそのまま前へと持ってきて、パチン!と、その平手打ちはとてもいい音がなった。


「へ…?」


だが何故か、間淵の頬には痛みがなかった。

間淵はゆっくりと目を開ける。

そこにいたのは、淵田だった。


「たく…最近の女子高生はどうなってるんですかねぇ…平手打ちで口から血が出るて、どんだけ力入れてんの?手加減知らないの?」


と、淵田はダルそうに言った。


「淵田君…何で…」


間淵は目を丸くして当たり前の疑問を投げた。


「そうだなぁ、馬鹿見たいな回答が出たついで、ですよ、ついで」


「…は…はは…やっぱり淵田君は、善人だよ」


間淵は、涙の笑みを溢しながら言った。

そして、そんな、会話の後に、茶髪口を開く。


「お前誰だよ?さっさとどけや、私はそいつに話があるだよ」


と、虎の目をして言う。


「おっと怖い怖い、クラスのボス猿がお怒りだ」


「は?今なんつった?」


「あれれ~?耳が遠いのかな?クラスのボス猿が、他人の迷惑を考えないクソ猿、と言いましたが何か?」


間淵のその口調は完璧に煽っている。

その煽りに食い付かないほど今の茶髪は冷静ではない。


「てめぇ殺すぞ?」


「殺す?怖いな~怖すぎるよ~あ!クラスの皆~僕が死んだときは君らが承認だからね~?このボス猿が、人殺しにジョブチェンジするまでの、な」


淵田は小馬鹿にしたような口調からとても低い声に変える。

これでも相当な脅しになるだろう。


「なんなんだよてめぇ!てめぇには関係ねぇだろ!」


「あるね、だって見てみろよ、クラスの連中の目をよ」


淵田がそう言うと、茶髪は周りに視線を向ける。


「ッ!!」


クラスの目線、それを一言で言うならば、殺意、だろう。


「俺はクラスの連中に変わってボス猿のてめぇの相手をしてんだよ?おわかり?」


「…」


茶髪は黙り混む、歯を噛み締めて。

そして淵田はそのまま、言葉を続けた。


「お前は、自分の事しかどうせ考えてない悪人だ、このクラスの連中だってそうだ、誰一人この状況を止めようとしなかった、この世に善人なんて存在しないって言う証拠だ、いいか、この世にいる人間は二種類だけだ、それは、悪人と゛自分゛だ」


これが、淵田が導きだした答えだ。

この世には三種類の人間などいない。

やはりいるのは二種類だけだ。


「…」


淵田がそう言うと、クラス全員黙った。

こんな状況で、今口を動かせるのなんて、淵田だけだ。

そして、淵田は静かに口を動かした。


「俺も…人の事言えないけどな…」


「…」


その台詞を優位つ聞き取れたのは間淵だけだった。


「間淵、帰るぞ」


淵田はそう言うと間淵の手を引く。


「え?でも授業が…」


「いいから、このままじゃ僕、恥ずか死ぬだろうが」


淵田は顔を赤くして言う。


「ははは!淵田君らしいね!」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ̄ ̄ ̄

僕と間淵は、教室を抜け出した。

特に行くところも決めずに歩いていた。


「なぁ間淵、僕はやっぱり、善人じゃないよ」


淵田がそう口を動かした。


「あんなかっこよく助けといてまだ言うの?」


間淵はニヤニヤしながら答える。


「あれは助けてない」


「え?」


淵田が訳のわからないことを言った。


「あれは、お前を一度見捨てた、埋め合わせって感じだな、だから助けてない、だから僕は善人じゃない」


「…じゃあ淵田君は一体何なの?」


間淵は不満そうな顔を淵田に向ける。


「…僕は僕だよ」


この答えは馬鹿げている。

もはや答えにもなっていない。

そんな事はわかっている。

だけど、淵田は決めた、もう決めたからいいんだ。


「そっか…淵田君は淵田君…うん!それでいいと思うよ」


僕は、新しい自分を、見付ける。

自然と、淵田の口元は、笑っていた。


「てか、間淵お前猫被ってた訳じゃなかったんだな」


「な!?そんな風に思ってたの!?」


「だって今と教室での態度全然違うし」


「それはただのコミュ障だよ!」


「え!?嘘!?それで?」


「酷い!」


そんな会話をしつつ、僕と間淵は家へと向かって帰っていた。

そして、別れ道。


「それじゃあ、間淵、また」


「うん、また!」


そして、僕は振り返ることなく、歩いた。

その時だった。


「淵田くーん!」


後ろからそう呼ぶ声が聞こえた。


「ッ…!」


後ろを振り返ると、そこには手を振っている間淵の姿があった。


「ありがとおー!!いい忘れてたからー!」


間淵は、ニッコリと笑いながら言って。

そんな間淵の笑顔を見てかわからない。

僕は、笑いながら、駆けながら、帰った。

明日の自分はどんな自分になっているだろう。

そんな事を、思いながら。

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