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敷地内に植えられた木々は学校と共に長い年月を過ごし、高い背と豊満な葉を誇っていた。それに遮られ、校舎内には木漏れ日のように頼りない月光が射し、仄明るい。
四人にとっては、六年近く通いつめた校舎であった。歩き慣れ、走って怒られたこともある廊下だった。そんな場所を、皆が恐る恐る歩いた。いつもより過敏に、鼻が校舎の臭いを嗅ぎ取る。よく磨かれてはいるものの、古くなった木の床はキィキィと小さく泣く。地に足が着いてないような、心が浮ついたような――まるで悪い夢の中に閉じ込められたような心地を、四人は感じていた。複数の不規則な足音がメロディを奏で、不安を誘う。ここで何か一つ、予期せぬ大きな音でもしようものなら、彼らの心臓は破裂してしまうかもしれない。
廊下の角を曲がって真っ直ぐ行くと、非常ベルが血のような赤い光を放っている。その向こうには、二階に上がる階段があった。
「二個目の七不思議だ」
大輝は喉の渇きを感じながら話した。
「一階、東階段。『増える階段』」
和義はもちろん、美月も愛ですら知っている、全国区の『学校の七不思議』の一つだ。
しかし、緊張状態にあっては笑い飛ばすこともできない。
「みんな、並ぼう」
和義の声に四人は一列になって、「せーの」で昇った。
誰も声には出さず、胸の内で数を数える。
一、二、三、四――
登りきると、踊り場では小窓から射す月光が四人を迎えた。
「どうだった?」
和義が言うと、愛と美月が反応する。「十二」。「十二段」。
「十二」和義はそう言うと、大輝を見た。
「十二段」。大輝が答えると、三人の表情には笑みが浮かぶ。
「だよねぇ」
「なんだよ。何もないじゃんか」
「とかいって。安心してんだろ」
「誰が!」と美月が怒ると、和やかなムードがようやく少し流れた。
それを突っ切るように、大輝が動く。
「行こう」
そう言って、先に二階へと昇ってしまう。
「待てよ!」そう言ってくる和義の声が、耳を通り抜けて行く。
大輝は(勘違いだ……)と、自分に言い聞かせていた。
数え間違えだ。ちゃんと、十二段あった。そう、言い聞かせていた




