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「君は神様の存在を信じるかい?」


鼻で笑いながら、見下すように伝える。


「見えない物を、信じろって方が無理だろ」


いつもふざけ、笑いあう友人が。

いつになく真剣な顔でいる。


「神様はいない、そう言いたいんだね?」


何だこいつ。

気持ち悪いな……


「昔の人が言ってただろ。」

「神は死んだ、と。」


そうか、と呟き目を伏せる。

ジオラマ内での一角。

彼らのやり取りに、俺はやりきれない思いを感じていた。

もう、何年これを見ていたのだろう。

ここから出ることもままならず。

かと言って、自害も出来ない。

俺に残されたのは、このジオラマと維持する技術だけ。

神様、ねぇ……

神様なんて偉いもんじゃない。

何もできない。

ただ、見ている事しか。

触れれば消える、その世界。

干渉すれば、消えてしまう。

そっと、目を閉じる。

そんな俺に、何が出来たというんだ……

何処かで聞いたようなやり取り。

そっと、それに耳を傾ける。


「いるよ。」

「神様は、いるよ。」


わずかに目を開ける。

小さな公園の一角で、高校生くらいの二人が話している。


「もし君がジオラマの世界を作ったら、その世界をどうする?」

「守りたい、苦労して作ったのならそう、思うよね。」

「神様もおんなじなんだよ。」

「神様が作った僕らの世界、それを守りたいんだ。」


俺は、黙って彼らの話に耳を傾ける。


「そんなに好きな世界なら、出てくればいいじゃん。」


どうでもいいと言うふうに、少年は答えた。


「違うんだ、それじゃダメなんだ。」

「出てきたら世界なんて簡単に壊しちゃう。」

「君だって、ジオラマの世界に足を踏み入れれば簡単に壊してしまうだろう?」


話を聞いていないのか、どこからか拾ってきた棒を振り回し始める。


「守りたい世界なら、災害とかから俺らを守ってくれないのはなんでだ?」


硬い地面に、手にした棒でバツ印を描く。


「別に奇跡を起こすのが神様ではないんだ。」

「誰かを助けるのが神様ではないんだ。」

「ただただ、僕らを見守って……」


「それが、神様なんだと思うよ。」


片膝だけを立てて座り、壁にもたれる。

俺は神様なんて器じゃないよ。

人類が知能を持ち出した瞬間から、おれはずっと手助けをしてやりたかった。

でもそれは叶えられないことだった。

何かに触れればそれは壊れる。

命ある物だろうと、無い物だろうと……

本当、あいつは俺をこんなところに連れてきて何をしたかったのだろうな。

小さく笑い、また目を閉じた。

俺はいつまで、こうしているのかな……

静かな部屋に、小さく響く音。

その音は、玄関の方から聞こえた。

金属が擦れるような音。

何年も聞くことが無かった、鍵が開く音。

ずっとずっと、触れていなかったドアノブに手を伸ばす。

ひんやりとした金属独特の冷たさが、手全体へと広がった。

徐々にこめられる力。

ドアノブが回り切ると同時に、扉は大きく開かれた。

ようやく、ようやく外に出られた。

ジオラマの事が一瞬、頭をよぎった。

だが、真っ白に輝くその先へ。

俺は、一歩を踏み出した。

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