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俺がここに来てそろそろ一週間となった。
その間ずっと、奴からジオラマの作り方を学んでいた。
しっかりと叩き込まれたために、今ではどんなイメージの生物でも作ることが出来る。
大きめのビーカーに素材を溶かし込み、コンピュータで遺伝子を書き上げる。
そっと手に取ると、なるべく揺らさないようにジオラマの海に流し込んだ。
それを見届けた彼は、備え付けられていた早送りのようなボタンを押した。
するとあっという間に、狙った通りの生物が海を泳ぎ始めた。
「ふむ、合格だね」
「これで、すべての生命を誕生させることが出来るようになったよ」
「昆虫も、魚も、植物もそして人間も」
「僕が出した課題は既に完璧だ」
既に増殖をはじめ、増えてきているその生物に手で触れる。
すると爆発したのかのように消えた。
こちら側の者が、ジオラマの物に触れるといつもこうなる。
いともたやすく生命を作ることが出来る。
いともたやすく生命を終わらせることが出来る。
「君は君自身が作ったその世界を、好きでいられるのかな?」
「もしそうであったなら、僕は結構幸せなのかもね」
「でも君はつらくなるかもしれない」
彼はそっと手を伸ばす。
「おめでとう、君は無事に僕からの卒業さ」
「神様らしい超能力なんてないのだろうけども、人はそう。」
「既に神様らしい力を手にしていた、そのことを知って貰えたのだと思うよ」
俺はその手へと、ゆっくり近づける。
「人は万能ではない」
「創造者に機械に劣るかもしれない」
「でも」
「創造者も万能ではない」
「機械も万能でもない」
「もう少し人の、いや」
「君自身の可能性を信じようじゃないか」
手と手の距離が、零になった。
いつ触れたのかも分からない。
だが、触れたであろう手の平には、真っ赤な液体がついていた。
陸上に進出しだした生命を、ボタン一つでリセットさせる。
俺は俺の世界を作る。
理由なんてない。
ただの暇つぶし。
だが、奴の願い。
……違うな。
いるのに信じなかった俺への罰。
生物の仕組みは学校で学んだことがあるが、何かの存在を匂わせるほどに効率的だった。
人が人を作ったから、なのかもしれない。
自らの内部の仕組みを徹底的に解明し、作り上げる。
元々あった物を再び構築しただけなのだから、難しくはないのかもしれない。
もう、分からないな。
奴はもういない。
聞きたいことが、いなくなって初めて生まれてくる。
なぁ、お前は俺に何をしてほしかったんだ?
神様の存在を信じさせたかったのか?
人が優れているって教えたかったのか?
このジオラマを俺に託したかったのか?
絡まってきた思考の紐をほどくことをあきらめて、俺はビーカーを手にその部屋を後にした。