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「おい、お前」
「お前だよ、聞こえるか?」
壊滅したジオラマ内の人々に呼びかける。
意思疎通はできるのか、できないのか。
それを試してみたのだが、誰も反応していない。
やはり、無理か……
あきらめかけた、その時。
「おぉ、神様」
「聞こえます、聞こえますとも!」
そう叫ぶ怪しい服を着た、中年男性。
喪服、とは違うな……
どこぞの宗教家、か。
「おっさん、俺の声が聞こえるんだな?」
「はい、聞こえますとも」
男は跪きながら、手を組み答えた。
「今俺は、どこかに閉じ込められているんだ」
「どうにか、助けてくれないか?」
どこかマンションの様な、そんな一室に。
アイツに連れてこられ今に至る。
その事を伝えた。
「分かりました」
「どうにか、どうにかお待ちください」
「すぐにお助けいたします」
男は慌てたように走り、残っていた施設に飛び込んだ。
避難所。
そこには多くの避難民が集まって来ていた。
「お前たち、聞け」
「たった今、神の言葉を賜った」
「神は今、どこかに閉じ込められており自由になりたいと仰った」
「自由になった暁には、願いをなんでもかなえてくれるそうだ」
ちょっと待て。
話を誇張するな。
あくまで、俺は助けを求めただけだ。
だが……
「宗教の勧誘か……」
「なんでも願いを叶える……」
「だったら、地震を止めてくれればよかったのに!!」
と、相手にしていない?
あきれたように彼を見る者たち。
すがるように彼を見る者たち。
そして、俺に対して怒りをぶちまける者たち……
まぁ、いいか。
壁にもたれ、床に座る。
すると、再び扉が開いた。
「ジオラマの中に助けを求めたんだね」
「でも、彼らにはどうすることもできないさ」
「はい喉が渇いたでしょ、飲み物」
そう言って手にしていたペットボトルを差し出す。
「君に質問をしよう」
「神様が人を作ったのだと思う?」
「人が神様を作ったのだと思う?」
無言がしばらく続いた。
ジオラマからの声が、鬱陶しく響く。
「神様が人を作った、とは神話によくある話さ」
「でもね、神話を作ったのは結局は人、さ」
「そういう意味では、人が神様を作ったとも言える」
なるほど、ね……
「君は、機械が人よりも優れていると思うかい?」
奴は立ち上がり、見下すように言った。
「そりゃ、そうだろ」
「記憶力、計算力、正確性、耐久力」
「すべてにおいて優れているだろう?」
そうか、とつぶやきながらも話を続ける。
「なら、人は神様より優れていると思うのかい?」
人が、神様より……
「優れているとは、思えないな」
理由はないが、優れているとは感じない。
「なるほど」
「自らを作った者よりも劣り」
「自らが作った物よりも劣る」
「という訳か」
一呼吸おいてから、奴は続ける。
「神様の限界を知らず」
「人の限界を知らず」
「物の限界を知らずして」
「どうしてそれが言えようか」
「君はジオラマの彼と、なんでも願いを叶えると約束したのだろう?」
「それが君にできるのかい?」
「ジオラマの彼にとっては君は神様だ」
「だが、その神様になんでも願いを叶える力があるのかどうなのか」
「君自身が一番よく知っているだろう?」
ッハとした。
神様の限界。
少なくとも俺が神様であるのなら、人の限界のそれとなんら変わらない。
「まぁ、約束を守るも破るも君次第」
「だけどね」
手にしていたペットボトルが、音を立てて開いた。