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気分で書きました
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「悪いことをすると、罰が当たるよ」
さんざん親に言われてきた言葉。
それに俺は、こう返す。
「なわけ無いだろ」
俺の反論に、友人は切り返す。
「君は、神様の存在は信じるかい?」
鼻で笑いながら、見下すように伝える。
「見えない物を、信じろって方が無理だろ」
いつもふざけ、笑いあう友人が。
いつになく真剣な顔でいる。
「神様はいない、そう言いたいんだね?」
何だこいつ。
気持ち悪いな……
「昔の人が言ってただろ。」
「神は死んだ、と。」
そうか、と呟き目を伏せる。
「なら、君に」
「僕のとっておきを見せてあげよう」
この時俺は、ただ気持ち悪い奴だな。
としか、思っていなかった。
数いる友人の中でも、変人なこいつ。
変な宗教にでもはまったのか、としか考えていなかった。
だが、実際はそうでは無かった。
こいつはこいつなりの、死後の世界に対する考えがあり。
神に対してのしっかりとした、持論があったのだ。
「これだよ」
ある部屋に、巨大なジオラマが置いてあった。
俺たちの街。
学校や駅、店、道路。
全てが精巧に作られている。
「すごいな……」
思わずため息をついた。
どこも違わない。
俺らの街。
「僕が時間をかけて作ったのさ」
「よく見てごらん」
「これは生きている」
車は走り、人は歩く。
電車は動き、飛行機は飛んでいる。
「君は神様だ」
「このジオラマを、あげよう」
「生かすも、壊すも君次第さ」
奴はそう言って、部屋から出て行った。
残された俺は、そっと覗き込む。
沢山の人が歩き、生活している。
その中に一人、見知った顔を見つけた。
山中……
俺の友人の一人、だ。
そっとつまみ上げようと、手を伸ばす。
指先が触れた瞬間。
壊れてしまった
赤い血だまりが、無残にも広がり。
ぐじょぐじょになった内臓が、砕けた骨と混じり合っていた。
こ、ここまでリアルだとは……
吐き気を感じながら、ティッシュで指先の血をふいた。
つぶれた友人の周囲には人は無く、ジオラマ内のそいつは誰かに見られることなく死んだ。
……俺を除いて
男にしては長い髪の毛が、ビルの壁に触れる。
そこからヒビが入り、あっさりと倒壊した。
あわてて片づけようと手を伸ばすと、飛んでいた飛行機に肩が当たる。
羽が簡単にもがれ、ジオラマ内の大地へと落下した。
無残にも砕け散った、その残骸は小さい炎を出しながら赤い液体が出てきているのが分かる。
これ以上触れるのはまずい。
そう判断し、ジオラマから離れようとした瞬間。
足がわずかに、その土台へと触れた。
俺からしてみれば、小さな揺れ。
しかし。
ミニチュアのこの住民からすれば、大地震でしかない。
ほとんどの建物は倒壊し、道路は割れ、小さな多くの命は消え去った。
「どう?」
扉が開くと、あいつが帰ってきた。
「あぁ、結構壊したね」
「破壊神の素質があるかもね」
ジオラマのほとんどが壊されている状況を見て、その上で冷静に尋ねてくる。
少しも動揺したそぶりは見せない……
「おまえ、ここに連れてきて何が言いたいんだ?」
片膝をついて、逃げ惑う人々を指先でつぶしながら。
奴はこたえる。
「君は、神様がこの世にいない理由がわかったかい?」
いともたやすく壊れる世界。
一応、俺が作ったわけではないが。
それでも、もし俺が作った世界だったら……
「そう、神様は簡単に世界を壊してしまう」
「無理に入ろうとすれば、塵も残らないだろう」
「そして神様は、自らの作った世界を愛している」
「だからこそ、だからこそなんだ」
「神様が見守るしかできないのは」
赤い液体のついた指先を突きつけ、奴は話を続ける。
「見てごらんよ」
「今の僕らは神様だ」
「こうも簡単に失われる命を」
「見てごらんよ」
「君がうっかり起こしてしまった天災で、多くの命が失われた様を!!」
ほとんど平らになったジオラマに目をやる。
様々な場所で、火災が発生している。
「いいかい」
「君は神様なんだ」
「この世界を、生かすも殺すも」
「そして、壊すのも君の自由さ」
言いながら、扉を開ける。
「君が神様を信じなかった罰は、君自身が神様になることだ」
「未来永劫、世界の管理者となれ」
「そして、もし運が良ければ」
「新たな罪人が、君と役目を交代するだろう」
そう言い残し、彼は出て行った。
残されたのは壊れたジオラマ。
あわてて立ち上がり、扉を開ける。
左右に二つづつ、扉のある廊下。
そして正面には、入ってきた入口。
靴を履き、扉を開けようとするが開かない。
「もし運が良ければ」
「新たな罪人が、君と役目を交代するだろう」
奴の残した言葉を思い出しながら、ジオラマの部屋へと戻る。
神様、ねぇ……
壊れた街並みを見ながら、これからどうするかを考えた。