第九話「秋といえば?」
俺がアリシュレードに来てから六ヶ月が経ち、俺の世界では10月に。
ああ、そういえば秋の季節だな。
木の葉が色鮮やかに色づき、肌寒い風が秋を感じさせる。
このアリシュレードにも同じように秋は存在していた。
秋といえば色んな美味しいものの季節。
俺は期待に胸を膨らませていた……が。
「では王様、問い10の答えをどうぞ」
「……さ、三番?」
「ブッブー! 正解は一番です。……はぁ、これじゃあ何時晩御飯食べれるか
分かりませんね」
リーシェはハァと、ため息をつく。
「うう……腹減った……」
俺は今リーシェと共に城の図書館にいた。
アリシュレードにも秋といったら、『食欲の秋』のようなものがある。
それが『勉強の秋』!!
リーシェに無理やり図書館に連れて来られて、問題が解けるまで晩飯抜きという
鬼コーチぶり。
か、勘弁して、俺、向こうでも成績悪かったのに。
「さぁ! どんどんいきますよ!」
俺の目の前の机に教科書のタワーができていく。
いかん……眠くなってきた。自己防衛本能が。
眠くなりそうな俺にすかさず持っていたペンを投げつけるリーシェ。
「イタッ!!」
「王様、そんなことでどうするんですか! 王様は
一番この世界で偉いんですよ?」
「ううっ、できれば何か簡単なものにしてほしいんだけど」
「……ハァ、王様何か得意分野とかありますか?」
「うーん、歴史かな?」
「歴史……ですか」
リーシェは教科書のタワーを調べていく。
そして、一冊の本をとりだした。
「じゃあ、王様に関係する歴史で」
「俺に?」
「はい、題して「今までの魔王様ってどんな人達?」です」
「魔王……」
そういえば前にそういう本を図書館で見たような気がする。
「さて、王様の前に数々の魔王様が居られましたが、一番凄い魔王様は
やはり、「ルシフェル様」ですね」
「どんな奴なの?」
「私も見たことが有りませんよ、だって、ルシフェル様は今から
3万年前にこの「アリシュレード」を作った方で、その後すぐに
亡くなったそうですから……」
「3万年……」
地球の歴史に比べればまだまだ浅いんだな、アリシュレードって。
「ルシフェル様は唯一純粋な魔族なのですよ?」
「えっ? リーシェたちは?」
「私たちはアリシュレードが作られてから生まれた者達ですから、
純粋とはいきませんよ」
「じゃあ、ルシフェルって何処から来たのとか分からないの?」
「はい」
うーん、気になるけど調べようが無いな。
ルシフェルって、一体どんな奴なんだ?
「そして、ルシフェル様の後を受け継いだのが『ベルゼルフ様』
ベルゼルフ様は、アリシュレードで生まれた魔族を一つにまとめた
偉大な方なんですよ?」
「あんまり凄そうには見えないけど?」
「何を言ってるんですか、1億もの魔族を束ねれたのはベルゼルフ様だからこそ
ですよ? これにより、魔族同士での争いは終ったのです」
「へ〜」
「そして、最後に4代魔王『バリス様』この方は人間と魔族との調和を
目指したお方です」
偉い! 話が分かる魔王もいるもんだ。
俺が今聞いた中で一番偉い魔王じゃないか。
「この方は人間と魔族が一緒に暮らせる様に様々な規制、罰などを
書き記し、ついに人間と魔族の調停にまで持ち込みました」
「おお!! ……あれ? でも、今いがみあってるよね?」
「……はい。実はこの調停の最後に人間側から不意打ちを受けて調停は決裂。
そして、バリス様もその時の傷が原因でお亡くなりになったと言われています」
「そっか、だから人間を今も憎んでるんだ」
「……はい」
……結構深刻だった。
てっきり、魔族が人間のところに勝手に攻め込んできてひんしゅく買って
仲が悪いとかそういうものと決め付けていた。
「あっ、でも王様を憎んでるわけじゃないんですよ?」
「……うん、ありがとうリーシェ」
「い、いえ……」
俺は椅子に思いっきりもたれかかり、天井を見上げる。
そして、今までしてきた事を振り返ってみる。
そう、俺は魔王としてこんなにがんばって……無いな。うん。
歴代魔王の話聞いてると、なんて小さい自分が居る事か。
「よし!」
自分の顔を一回叩いて気合を入れる。
そして、目の前の教科書に目を通し始める。
「王様?」
「リーシェ、問題出してくれ。俺もそんな魔王になれるようにがんばる!」
「……はい!」
俺達はまた、勉強を再開させる。
そうだ、俺も魔王になったんだから何か立派な事をやってみせる。
そう、心に決めた。……しかし。
気合をいれたからと言って、頭が良くなるわけではない。
この後も延々とリーシェの勉強会が終わる事は無かった。
「王様! まだ解けないんですか!?」
「ぬおおおおぉぉおお……」
いかん……また自己防衛本能(眠気)が……。
「王様、次はナイフがいいですか? 包丁がいいですか?」
「えっと……それって、投げるんだよね?」
「勿論です」
も、もう勉強は勘弁して……。