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第四話「危機一髪」

訳の分からないリーシェの幼馴染が来てから2ヶ月ほど経った。

俺はリーシェの言われるがまま魔王としての雑務をこなしていた。

上級魔族との会話、部下のしつけ、食材の買出し、庭の枝切り……あれ?

最後の方は俺じゃなくてもいいよな? 

まぁ、とにかく、俺の世界では6月、つまり梅雨の時期だが……



「はぁ……王様、また雨ですね〜」



どうやら、アリシュレードでも梅雨の時期はあるみたいだ。

そういって、リーシェは広間の窓にてるてる坊主を何個も逆さに吊るしていく。

……う〜ん、実際、この雨はリーシェのせいかもしれない。



「そうだね、今日で3日連続だね」

「はぁ〜……」


どうしたのだろうか、最近リーシェの様子がおかしい。

顔も赤いし、もしかしたら風邪なのかもしれない。


「王様〜」


リーシェの目がなにやら潤んでいる。

そうして俺の方に近づいてきて、もたれかかってきた。


「ちょっ!? 大丈夫なのか? リーシェ?」

「王様……私、こう雨が続くと……疼くんです」

「えっ?」


その言葉に俺の心臓は飛び出そうだった。

リーシェの顔はほんのり赤く、色っぽさがでていた。

元々綺麗なのだが、更に磨きが掛かっていた。


「王様、私と……」

「わ……わたしと?」


一秒が何分にも感じる、俺はリーシェの次の言葉を待った。

そして、リーシェは!


「対戦しましょう」

「いや! 駄目だよそんな事、だって俺とリーシェは知りあってまだ?

 ……えっ? 対戦?」

「はい、対戦です」


そういってニッコリと微笑むリーシェ。


「あ〜、でも、リーシェ、顔赤いけど?」

「大丈夫です〜、何か体がうずうずしてて動かしたいんです」


そうして、リーシェはその場で踊りだした。

う〜ん、元気みたいだけど……? 何かおかしいぞ?


「王様〜、もし、王様が私に勝ったら何でも言う事聞いてあげますよ?」

「ええっ!!?」


その発言に目が点。

幾らリーシェは普段陽気とはいえ、そこまで突拍子も無い事を言う人ではない。

でも、もし、もし勝ったら本当に?


「リーシェ、本気で言ってるの?」

「勿論ですよ、ほんきと書いてマジです」

「なら、その勝負! このぼかぁ引き受けたーーーーー!!!」

「!? この声は!?」



俺はすかさず声のする方向を見ると、天井のシャンデリアに逆さになって

宙ぶらりんになっていたゼロがいた。

そして、掛け声と共に広間に降り立った。



「あんた、何時からいたんだ?」

「フッ、愚問だね。ぼかぁ、何時でもどこでも呼ばれたら出てくるのが信条さ」

「いや、呼んでないから」


あとでここのセキュリティを見直したほうが良さそうだ。

思い切って、地雷とか設置しても大丈夫かもしれん。


「ところで、リーシェ。さっきの話は本当かい?」

「勿論。ゼロが勝った時でも同じでいいわよ?」

「!? ちょっ、待ったリーシェ!!」

「おっ〜〜〜け〜〜〜〜い!!! その勝負引き受けた」


まずい! これでもしリーシェが負けたらとんでもない事になってしまう。

な、何とか阻止できないものか!?



「それじゃあ、ボクシングでどうだい?」

「いいわよ」


俺が迷っている間に着々と話が進んでいく。

そして、魔法でリングが瞬時に出来上がってしまう。


「ま、まて! ゼロ!」


急いで俺はゼロの肩を掴む。


「ん〜? なんだい? 魔王君?」

「お前、リーシェに勝ったら何をお願いする気なんだよ?」

「ん〜……まだ考えていないね」


……嘘こけ、お前鼻の下伸びてるぞ。

だが、これでこいつの企みがハッキリした。

何が何でもこいつを対戦させるわけにはいかない!!



「おや? 入り口に見えるのはモンタ議長じゃないのかい?」

「えっ?」



そう言われて振り返ると、確かにそこにはモンタ議長が来ていた。

俺はモンタ議長の方に駆け寄る。


「どうしたんですか? 今日は?」

「ほっほっほ、実はだな、リーシェの様子を見に来たのじゃよ」

「リーシェの?」

「うむ、リーシェはすこし変わった性質の持ち主でな」

「? 変わった性質?」


と、話していると後ろからゴングの鐘がなる。

しまった!? あの野郎! 勝手に試合始めやがった!!


「おや? どうしたのじゃ?」

「何か、リーシェが突然対戦したいとか言い出して、それでリーシェが

 負けたら何でも好きな事して良いとか言って対戦になったんですよ!」

「な、なんじゃと! いかん!!」


俺は走ってリングのほうに駆け寄る。

すると、そこにはリーシェが倒れる姿が……あれ?


「ぶるわはぁあああ!!?」


無かった。

むしろ、信じられない光景が広がっていた。

リーシェは的確にジャブを打ち、ガードを揺さぶり、すかさずボディーブロー。

ラッシュ、ラッシュ、ラッシュの止まらないリーシェの攻撃。

ゼロは最早サンドバック状態。


「や、やはり! 手遅れじゃったか!?」


後ろから駆けつけたモンタ議長が驚いた表情をしていた。


「? どういうことですか?」

「リーシェは雨が連日続くと、ハイテンションになる体質なのじゃ」

「は、ハイテンションになるんですか?」

「そうじゃ、リーシェの場合、その時の運動速度、反射神経は普段の5倍にも上がり

 アドレナリンが常に分泌している状態になるのじゃよ!」

「えっと……それってすごいんですか?」

「以前この状態になった時があってな」

「どうなったんですか?」

「……食後の運動とか言って街2個滅ぼしよったわ」

「ぇええええ!!? 何とか止める方法は!?」

「時間がたてば治るはずじゃが……」


俺はリングのほうに目をやると、それは酷い有様だった。

ゼロの顔面は見る影も無いほど腫れ上がり、立っているのがやっと。

一方、リーシェの方はリングを縦横無尽に駆け回るほどの余裕。


「ちょ……タ……イム」


ゼロの声も虚しく、リーシェはとどめに刺しに来た。

瞬時にゼロの懐に潜り込み、そこから顎に問答無用のアッパーカット。

ゼロは綺麗に上空へと舞い上がり場外へ。

リングの上ではバク転を決めるリーシェの姿が。

おれとモンタ議長はゼロのほうに駆け寄る。


「お、おい! しっかりしろゼロ!」

「ま、魔王君……ぼかぁ、甘かったよ」

「何言ってるんだ! まだやれるだろ?」

「き……きみは、僕を応援してくれるのかい?」

「何言ってるんだ、当たり前だろ?」


だって早く立ってくれないと次の餌食は俺になって

しまうじゃないか。



「フフッ……(ガクッ)」


あ、気絶した。

ちっ、使えないやつめ。


「つぎは王様ですか?」


リーシェの言葉に背筋が凍る。

振り返ると、殺人鬼は軽やかにリングから舞い降りる。

……フフフ、俗に言う死亡フラグって奴か。

俺は脳味噌をフル回転させて必死に逃れる術を考えた。

考えうる選択肢は……



1、モンタを身代わりにする。

2、モンタを身代わりにする。

3、モンタを身代わりにする。




「ここはやはり無難に3番かな」

「ま、まてぃ! 選択死が全て一緒ではないか!」

「まぁ、こんなものしか考え付かなかったので」


後、選択肢じゃなくて選択死になってますよ?



「じゃあ次はモンタ議長ですか?」

「いやいや! わ、わしはパスじゃよ、パス!」

「モンタ議長恥ずかしい過去を言われてもいいんですか?」

「わ、わしの恥ずかしい過去?」

「はい」

「ほっほっほ、残念じゃが、わしは常に潔白でな。そんな

 恥ずかしい過去などあるわけが……」

「……パブ『ランジェリー』」


リーシェのその一言にモンタ議長が杖を落とす。

なにやら尋常じゃない汗の量が。

……あんた潔白言ってたのに、既に黒なの丸分かりじゃないか。



「良かろう、リーシェよ、お主には少し現実を教えてやらねばなるまい」


リーシェの一言でモンタ議長はヤル気に。

そして、勝負方法は……


「じゃんけんじゃ」


……何と言うか、一気に熱冷めたな。

他に方法あるのでは?


「ちょっと、モンタ議長、他になかったんですか?」

「仕方あるまい、普通に戦えば100%死ぬぞ? じゃんけんなら死ぬまい」


俺たちは小声でひそひそと話し合う。

確かに、じゃんけんなら死なないだろう。


「ゆくぞ、リーシェ!」

「はーい」

「最初は……グー!」


した瞬間、リーシェはグーでモンタ議長を殴っていた。

モンタ議長の体は凄い勢いで壁にぶち当たった。

そのまま糸が切れた人形の様に倒れた。

リーシェは冗談で殴ったと思われるが、威力はシャレになってない。

……訂正、じゃんけんでも死ねるな。これ。

リーシェは俺の方に顔を向ける。


「じゃあ……次は王様ですね?」


何時もの優しい口調が今は恐怖を駆り立てる。

参ったな、これはホラー映画より怖い。

じりじりと、にじみよってくるリーシェ。

相手はじゃんけんで殺しにかかるキラーマシーン・・・どうしよう。

実際、何やっても殺されるんじゃないのか?


「さぁ……早く、対戦しましょう?」


ヒィイイイ!! 怖い! 怖すぎる!

な、何か考えて……そうだ!


「わ、わかった! リーシェ、対戦だ」

「はい〜」

「リーシェ、対戦方法は……」

「方法は?」

「お互い同時に寝て、先に寝たほうが勝ちというルールでどうだ?」

「いいですよ〜」


よっし! これは勝負なのか? と疑問はあるがリーシェは承諾した。

そして、広間で離れて横になる二人。


「じゃあ、スタート!」


おれの掛け声で勝負は始まった。

それから、3分位経っただろうか……おれはリーシェのほうに近寄った。


「……よし、寝てるみたいだ」


先に寝ても後から寝ても勝敗は分からない。

何というベストな勝負を考えたのだろうか俺は。


「ふー、これで一軒落着」


だが、その油断が命取りだった。


「うーん……」

「えっ? うわぁっ!!?」


リーシェは近くにいた俺に抱きついてきたのだ。

リーシェの顔が直ぐ目の前にある。


(こ……この状態はヤバイ! ヤバ過ぎる)


リーシェを起こせば、地獄が待っている。

リーシェを起こさずとも、この状態のままいるのは、ある意味地獄。


(だ、だれか助けて〜!!)



この1時間後にこの状態を目撃したゼロによって助け出された。

その後、ゼロに質問攻めされたのは言うまでもない。























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