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第三話「変な幼馴染」

俺は今、広間の王座に座ってひとりポツンとうなだれていた。

その原因は、昨日の俺が魔王として選ばれた理由だった。


「……くじ引きはないだろ」


独り言を言って、はぁ〜、と大きくため息をつく。

しかも、1億分の1を引くってどういう運だよ?

そんな理由で選ばれた俺はどうすればいいんだ?と、頭を抱えていると。



「ハ〜ハッハハハ!!」

「!? な、なんだ!?」


どこからともなく不気味な笑い声が聞こえてくる。

俺は周りを見渡すと、部屋の入り口の上の窓の所に誰かが立っていた。

髪は肩の辺りまでありストレート、髪の色は紫。

頭には小さい角が二本生えており、体はスマートで身長は大体180ぐらいだ。


「君かね? 人間で魔王に選ばれた奴というのは?」

「だ、誰だ! あんた!」

「フフン、誰かだと? ぼかぁ魔族一のハンサムボーイにして一番の

 金持ち! その名は……トウッ!!」


掛け声と共に男は窓から飛び降りる。

見事な宙返りを披露していたその時。



「王様〜! 今日は偶然にも10mほどの巨大魚が取れたので

 お昼は思い切って鍋にしてみました〜」


と、リーシェが勢いよく入り口を開いて鍋を持ってくる。

10mもの巨大魚を入れた鍋が広間に入ってくる。

勿論、鍋はぐつぐつに煮えたぎっている。


それは見事なタイミングだった。

まるで見計らったかのように宙返りを披露していた男はその鍋に

ダイブしたのだ。

派手な着水音が広間に響き渡り、瞬間。



「ぎぇえええ%&$'"@!?###」


声にならない断末魔が広間に響く。

鍋から飛びでてきた男はのた打ち回る。



「あ、あれ? もしかして? ゼロじゃない?」

「リーシェ知ってるの?」

「はい、私の幼馴染のゼロです。一応これでも魔族の中でも

 5本の指に入る大金持ちなんです」


 

リーシェの「一応これでも」の部分に思わず頷く。

ゼロと呼ばれる男は体を痙攣させながらかろうじて生きている様子。

リーシェが呼んだ衛生兵に担架で運ばれていった。

あれだけの火傷は致命傷であろう。

僅かな出番で退場とは哀れな。



--30分後

男はあれだけの怪我を30分で回復させて俺たちの前に立っていた。



「いやぁ〜、待たせたね、僕の名前は」

「ゼロでした?」

「!? な、何故その事を!? ハッ! そうか……僕ほどの男を

 既にマークしていたのか、さすがは魔王に任命されるだけはあるな」


そういって、キザな男はハハハと笑い出す。

いや、さっきリーシェから聞いたし。

それと、魔王に任命されたのはほとんど事故みたいなものだし。




「ゼロ、今日はどうしてこの城に?」

「!? り、リーシェ! ああっ、なぜ君がこんなモヤシのような

 ひよっこのメイドになってしまったんだい?」


メイドじゃない、秘書だから。


「なぜって……決まりですから」

「本来なら僕が魔王に任命されて、君と甘〜い二人きりの生活の筈だった。

 だが、なぜかこのもやしっ子が魔王になるという手違いが! ……分からない

 何がどうなってこんな事が起こってしまったんだ〜い!?」


議長が、適当な名前を書いて、くじ引きをおこなったからこうなって

しまったんですよ。



「……決闘だ」

「……へっ?」

「ぼかぁ、君に決闘を申し込む! そして、勝ったら僕が魔王になる!」



随分唐突だな、この展開。

だが、決闘はマズイ。なにしろ向こうは魔族で、俺は人間。

いうなれば戦車と三輪車の戦いだ。


「……良かろう、その勝負の見届け人はこのモンタがしてやろう」


何時の間にかモンタ議長が入り口から入ってきていた。


「あんた何時の間に入ってきたんだよ?」

「なぁに、細かい事は気にするでない」

「というか、決闘で魔王決めるとか駄目ってモンタ議長、あんた言って

 無かったか?」


俺の突っ込みにモンタ議長は体をビクッと震わせる。

汗が滝のように流れていく。

……こいつ、まさか忘れてたとか言わないよな?



「では、決闘を始めるぞい!!」

「おい! アンタ絶対忘れてただろ!!」


モンタ議長が勝手に決闘を開始してしまった。

てか、決闘ってやっぱり殴り合いか!?


「では決闘のルールはこのリーシェが説明させていただきます。

 リーシェ特製のアップルパイを30分の間で多く食べた方が勝ち

 というシンプルなものです。勝った方が念願の魔王になれる

 権利が得られまーす」



広間に長テーブルが置かれ、リーシェがアップルパイを運んでくる。

殴り合いでなかったのは幸いなんだが、この勝負で勝っても俺に

なんの得もないのだが。



「では、スタート!」


リーシェの合図と共に俺はアップルパイを一切れ口に運ぶ。

味のほうは申し分なく、これなら多少はいける。

問題はゼロのほうなのだが、奴はなぜか食べようとしなかった。

俺の方を見てフフンと笑うだけだった。

まさか、ハンデとでもいうのか!?


「くそっ!」


おれは構わず一切れ、また一切れと口に運ぶ。

残り時間も半分をきったがゼロは動かない。

幾らなんでもおかしい。


「あんた、なんで食べようとしないんだ?」


おれは気になり問いかけてみた。

すると。


「ふふん、ぼかぁね、実は……り、りんごアレルギーなんだよ」

「…………ぇ?」





その瞬間、俺の勝ちが決まった。




ゼロは負けるとトボトボと帰っていった。



「いやぁ〜歴史に残る名勝負じゃった」



ほほほ、と笑うモンタ議長。

名勝負っうか、迷勝負だったよな?


「よかったですね王様」

「ん? あ、あぁ……」


結構複雑な心境だ。

おれは負けた方が良かったような気がしてならない。


「ところでリーシェ」

「はい? なんですか?」

「あいつのりんごアレルギーって知ってたの?」

「はい。ですからあの勝負にしたんですよ」


ははは、どうやら、負ける事は無かったみたいだ。


「リーシェはゼロが王様のほうが良かったんじゃないの?」

「どうしてですか?」

「いや、幼馴染って聞いたし、人間より魔族のほうが魔王らしいし、

 こんなくじ引きで決まった王様なんかより」

「どんな理由であれ、私にとって王様はあなたですから」


そういって満面の笑顔を見せるリーシェ。

うっ……そ、そういわれると何か嬉しいような。

今日だけは少しだけ王様になってよかったような感じがした。








 










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