表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/20

第十九話「サヨウナラ」

突然のタイムリミットの宣告。

いきなり最後の日が決まるとなると、やりたい事というのが思い浮かばない。

そんなわけで、俺は最後の日が来るまで今までとなんら変わりない

過ごし方をしていた。

タイムリミットの事を皆に告げると、最初は誰もが驚いていたが、

日が経つにつれて普通に戻っていった。

今までアリシュレードに居た頃の記憶がふと甦る。

イキナリの魔王宣告に、ゼロやモンタ議長と言った魔族達に、ウィルの正体。

他にも様々な良い思い出があった。


そうこうしている間に、ついに最後の前日になってしまった。

俺は、ゼロにモンタ議長、ウィルとリーシェを広間に呼んでいた。


「いや〜、ついに魔王君も念願の帰宅というわけだね?」

「まぁ、そうなる……な」

「魔王君、君は僕にとって良きライバルだったよ。だから僕の事は

 忘れないでおくれよ?」

「ゼロ……」


すまん、俺はお前をライバルと思った事は無いと言う事は、

心に留めて置こう。



「ホッホッホ、別れは必ずやってくる。しかし、お前さんの場合は

 早すぎるな」

「モンタ議長」

「向こうにいっても頑張れよ?」

「はい。ですがモンタ議長、魔王をクジ引きで決めるのはやめてくださいよ?」

「えっ!? わ、わかっとるわい!」


この人、俺が言わなかったらまたやりかねなかったよな? 今の発言は。


「お兄ちゃん」

「ウィル、お前はこれから頑張れよ? 今まで何も出来なかった分を

 取り返すつもりでな?」

「うん」


さてと、一番どう言えばいいのか迷う人の順番に来た。

この世界に来てからずっと俺の事を支えてきてくれた。

それは感謝の言葉だけでは足りないほどに。

伝えたい事は山ほどある。

だけど、本人を目の前にすれば何を喋ればいいのか言葉が浮かばない。


「リーシェ……」

「王様」


じっと俺を真っ直ぐに見つめてくるリーシェ。

俺もリーシェを見つめる。

互いに言葉が出てこない。

そんな状況を察したのか、ウィルとモンタ議長が互いに目を合わせた。


「さてと、ワシらは退散するとしようかのぅ? ウィルよ?」

「そうだねモンタおじいちゃん。さっ、邪魔者は退散、退散」


と、ウィルとモンタ議長は両脇にゼロを引っ掛ける。

ゼロはへっ? といった感じでモンタ議長とウィルを交互に見る。


「ぼ、ぼかぁまだここにいるよ〜! ちょっ、あー……」


有無を言わさず広間から連れて行かれるゼロ。

バタンと勢い良く広間の扉が閉まる音がする。

こうして、広間には俺とリーシェの二人きりになってしまった。

その状況に、ますます固まる俺達。

だが、いつまでもこうしているわけにはいかない。

俺には時間が無いのだから。


「な、なぁリーシェ」

「は、はい、なんですか? 王様」

「その、最初に出会ってもう一年が経つね?」

「え、ええ」


とりあえず会話を続けないとマズイ。

一度途切れると、また喋るのに時間がかかる事は目に見えている。


「俺、リーシェに出会えてよかった」

「えっ?」

「初めは、元の世界に帰りたいってずっと思ってた。だって、知らない世界で

 誰も頼る人も、知ってる人も居ない。そんな俺をずっと支えてくれたのがリーシェだ。

 リーシェに出会えてなかったら、俺はこの世界で生きていけなかった」

「そ、そんな! 大げさですよ!」

「大げさなんかじゃない、本当なんだ。元の世界に帰れると分かっても、心のどこかで

 この世界に居たいとおもっている自分が居る。リーシェと一緒に居たい、もっと話したい、

 もっと笑い合いたい、もっと……」


ん? なんかこれって、告白に近くないか?

そんな俺の気持ちを余所に、リーシェの顔がみるみる真っ赤に。


「王様、私も王様に出会えてよかったです」

「えっ?」

「正直、不安だったんですこの魔王としての秘書の仕事」

「えっ? ど、どうして?」

「王様の前に何人か補佐をしたんですけど、上手くいかなくて。

 それで本当は王様の秘書は別の人がやる予定だったんですけど」

「けど?」

「王様が人間だと分かると、その人は辞退したんです。それで急遽

 私がやる事になったんです」


知らなかった。

リーシェは確かにちょっとドジというか、破天荒なところはあるが、

それでもしっかりと秘書らしい仕事はきっちりこなしていた。

初めて見せるリーシェの影の部分。


「でも実際出会ってみて、王様はとても素晴らしい人でした。

 私が失敗しても励ましてくれたり、親切にしてくれてとても嬉しかったです」

「リーシェ……」


話しているうちに、俺の全身が半透明になっていく。

時計を見ると、既に残り時間1時間ほどになっていた。

リーシェがおもむろに俺の方に近づいてきた。

そして、王座の隣にちょこんと座る。

俺はそんなリーシェを見て、王座から立ち上がり、リーシェの横に座る。


「もうすぐ時間ですね、王様」

「うん。……あっ、そうだ」


俺はポケットをガサガサと探る。

そして、一つの小さな箱を取り出し、リーシェに手渡す。


「王様、これは?」

「以前、リーシェにクリスマスプレゼントもらっただろ? それのお返しを

 してなかったから、この十日間で何かリーシェにプレゼントをさがしてたんだ

 良かったら、開けてみて」


ガサガサとラッピングされた箱を開けると、中からは

手のひらサイズの小さな箱が出てきた。


「これは……オルゴールですか?」

「そう。もうちょっと指輪とかペンダントとかリーシェに合いそうなものが

 買いたかったんだけど……」


残念ながら俺の資金ではコレが精一杯でした。

そんなしょぼいプレゼントでも、リーシェは嬉しそうな顔をしてくれた。

箱を開くと、陶器製の男女が立って手を繋いだ状態で固まっていた。

そして、横に付属してあるねじをゆっくりとリーシェは回し始める。

カタカタと音を立てながら陶器の男女がゆっくりと回る。

そして広間に心地よく、安らぎの音楽が響き渡る。

俺とリーシェは肩を並べてオルゴールを見つめていた。

一秒が何分にも感じられる。

そんなとき、不意にリーシェが俺の手を握ってきた。

俺はその行動に少々戸惑ったが、俺は無言でリーシェの手を握り返す。

手を繋いだ状態で何も話せずに刻々と時間は過ぎていった。

そして……。


「! 王様!?」


リーシェが突然叫ぶ。

さっきまで繋いでいた手が消えてしまったのだ。

見れば俺の体がほとんど透けてしまっていた。

もう、両の腕はなくなっていた。

これではリーシェに触れることすらできない。

そんな俺にリーシェは。


「!? り、リーシェ!?」

「嫌! 行かないでください!」


必死に俺の体にしがみついてきた。

目にはうっすらと涙を浮かべていた。

その涙を俺は拭うことすらできない。

そんなリーシェの表情を見た俺は。


「リーシェ……好きだ」


自分でもなぜこんな事を言っているのか分からなかった。

十日前には思いを告げずに別れようと決めていたにも関わらず。

そんな俺の言葉にリーシェは目を丸くする。

そして、一瞬、くしゃくしゃの顔になった後。


「私も……好きです! 大好きです! 王様!」


そして、俺達は自然と口付けを交わした。

二人共涙を流しながら交わした口付け。

甘く、切なく、最初で最後のキス。



そして、俺は元の世界に戻っていった……。









評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ