第十五話「決行!N作戦(前編)
--事件は突然起こった。
俺は広間にコタツを置いてぬくぬくと過ごしていた。
他にはゼロがコタツの中に入って寝転んでいた。
「ゼロ、お前何かやる事ないのか?」
「リーシェに会いにきたんだけど、いないから
ここで待たせてもらってるのさ」
「はいはい」
などと、他愛も無い話をしていた。
ゴロンと俺は寝転がる。
そこに何を思ったのか、コタツによじ登る元気なチビッ子。
そして、ウガーと叫びながら。
「長井直伝! フライングボディアターック!」
「ぐほっ!?」
寝転がっている俺に向かって飛び込んできた。
って、長井って誰だよ!
「お兄ちゃん、コタツでゴロゴロよくないよ?」
「いたたた、今のウィルの攻撃で腰が……」
「えーっ、運動不足だよお兄ちゃん」
「仕方ないだろ? 今お兄ちゃんは腰痛で動けなくなったんだから」
無論、嘘である。
「腰痛? じゃあ、温泉に入れば治るって聞いた事あるよ!」
「温泉?」
「温泉かい?」
温泉という言葉に二人の男が反応。
よからぬ企みを考え付く。
そして、それはゼロも同じようだ。
「あいたたたた」
「えっ? どうしたのおにいちゃん」
「腰が急に痛み出した」
「わお、それは大変だ魔王君。すぐに温泉に入らないと」
「おお、それはGOODアイディーアだ、ゼロ」
「すぐに宿の手配をするよ、持つべきものはやはり友だからね」
「できれば、露天風呂がいいな。そんでもって、皆で行きたいよな」
「ははは、そんな無礼千万のわがままも、今日だけは何故か聞いてあげよう。
いい所知っているんだ」
互いにニヤリと笑う俺とゼロ。
そして、俺達の三文芝居に口をぽかーんと開けたままのウィル。
こうして、俺達は温泉へと向かう事になった。
「うわー」
感嘆の声をあげるリーシェ。
俺達の目の前には、自然に囲まれた宿があった。
決して大きくは無いが、立派な風格を漂わせる和風の宿だ。
「ハッハー、ここの名物は露天風呂なんだよ。皆、ゆっくり
していくといいよ」
ワイワイとはしゃぐリーシェ達に対して、俺はゼロの横に
歩きながら隣接する。
「ゼロ、例の件はクリアしているのか?」
「当然だよ魔王君。僕を誰だとおもっているんだい? 作戦会議は
部屋に入ってからだよ」
「ふっ、さすがだな」
ハッハッハと笑っていると、俺達の悪さの匂いを嗅ぎつけたのか
俺達に忍び寄るチビッ子警官。
「ねぇねぇ、何企んでるのお兄ちゃんたち?」
「いや? 俺達はなーんにも企んでないよ? なあゼロ?」
「勿論だよ。まぁ、強いて言うなら温泉に入る事だけかな?」
「嘘。お兄ちゃんとゼロがそんな仲良くしてるの初めてみるもん」
「ふっ、何を言っているんだウィル。俺達は何時も仲良しだぜ?」
「僕と魔王君はブラザーさ」
肩を組んで仲の良さをアピール。
なっ? と顔を向かい合わせる。
「……むぅ、いいもんだ」
プイと顔を背けて宿に入っていくウィル。
すまないなウィル。お前にはこんな悪の道に入ってほしくないんだ。
宿に入ると、女将さんの案内で部屋割りを教えられる。
その結果。
「お兄ちゃん! どうして離ればなれなの!?」
「まぁ、仕方ないんじゃないかな? ゼロが決めてしまったから」
「申し訳ないね、ウィル君」
俺とゼロ。そして一言も発していないがモンタ議長もいる。
そして、間をおいて離れの部屋にリーシェとウィル。
「また後でな、ウィル」
それだけ言って、俺達は部屋の中へと入っていく。
中は和室の造りで3人が寝れるほどの畳の数に、中央に茶色の長テーブル。
そして、俺達はすかさず長テーブルに集結する。
「いよいよ、この時がきたのじゃな?」
「ええ、モンタ議長」
ごくりと生唾を飲み込む俺達。
ゼロが長テーブルの上に宿の周りの地図を広げる。
「では! これより「NOZOKI」作戦の詳細を報告する!」
うおー! と、叫ぶ馬鹿三人組。
NOZOKI作戦とは! 単純に風呂場のぞき。
「ゼロ、それでどうするんだ?」
「ふふふ、ここの宿の露天風呂は外にでて3分ほど歩いた所に
広い天然風呂がある。周りには柵があり、見る事は不可能」
「なんじゃと? それでは話が違うではないか?」
「まぁ待ちたまえモンタ議長。僕がそんなミスを犯すわけないだろ?」
ゼロはある一点を指差す。
「ここは? 山みたいだけど?」
「そう、露天風呂の裏山。この山のあるポイントでは露天風呂が
丸見えなのさ!」
おおー! と声を上げる俺とモンタ議長。
「しかも、露天風呂側からは湯気と草むらで 全く見えないという優れもの!
ここまでいければパラダイスさ」
「では、作戦決行時間は何時にするんじゃ?」
「そうですね、風呂は男女交代制で、風呂は8時から9時が女性用。
つまり、7時にはこの山のふもとまで行きたいですね」
綿密に計画を練る俺達。
その姿は真剣そのもの。
「では、作戦決行時間は19:00だね?」
「ああ」
「それがベストじゃな」
納得して頷く俺達。
さぁて、時間が待ち遠しいな。
「ん?」
「どうした? ゼロ?」
「いや、何か視線を感じてね」
「視線?」
「そうだね、例えば……『ふふふ、お兄ちゃん達、そんな事考えてたんだ。
僕を仲間はずれにするのは良くないよねー? いけないよねー?
やっぱり、天誅が必要だね。うん、決めた。スペシャルハードなお仕置き
を考えたから覚悟しておいてね?』みたいな視線だったな」
なんですかその、どす黒いオーラ出しまくりの視線は。
何かスゴイ心当たりがあるんだが。
その後夕食を皆で食べ、俺達は作戦を決行した。
皆固まって動くと怪しまれる為、別々に行動して
合流する事に。
「あーあ、こちら魔王。ゼロ聞こえるか?」
『OK、トランシーバーの感度は良好だよ』
『こっちもOKじゃよ』
そして、俺達は山のふもとの合流ポイントに到着した。
迷彩服に首からは双眼鏡を装備。
どこぞの軍隊のような格好だった。
「いいかい? ここから最短で40分もあればポイントに到達できる
抜け駆けは無しだよ?」
ゼロの言葉に一同が頷く。
そして、急ごうとしたが……。
「なぁ、ゼロ」
「ん? どうしたんだい魔王君?」
「あれなんだ?」
俺が指差す方向に、切り株の上にドーンとテレビとビデオデッキが置いてあった。
いかにも再生してくださいという雰囲気出しまくり。
念のため、スイッチを入れる。
『やっほー! お兄ちゃん元気?』
「う! ウィル!?」
そこには紛れもなくウィルの姿が。
旅館のどこかで撮ったと思われる室内映像だった。
『僕には、お兄ちゃん達がノゾキにいくのはもうバレてます』
「げっ」
『でも安心して、お姉ちゃんには伝えてないから』
ニッコリと微笑むウィル。
俺は思わずテレビに抱きついた。
ウィル、お前は本当に良い子だ!
『その代わり』
「ん?」
『この山周辺に罠を仕掛けさせてもらいました』
「な! なにー!?」
『別にお兄ちゃん達が僕を仲間はずれにした事を
恨んでるわけじゃないんだよ?
ただ、やっぱりコレくらいのハードル無いとね?』
ね? じゃねぇ! 何してるんだウィル!
ノゾキの時点でハードルはあるんだから要らないの!
『まぁ、単純に死ぬぐらいの量の罠仕掛けたから。がんばって』
そういってブツンと切れた。
最後にトンでもない言葉残して。
ウィルは嘘は言わない子だからな〜、良い事も悪い事も。
「駄目だなコリャ。ゼロ、今回は諦めよう」
あーあ、と振り返って帰ろうとした時。
「待ちたまえ! 魔王君!」
背中越しにゼロが唐突に叫ぶ。
思わず足が止まる。
「君は、目の前のディナーを残して帰るような失礼な奴だったのかい?」
「はぁ? どういうことだ?」
「考えてみたまえ。今回みたいな事が一体何回あると思う?
もしかしたら今日が最後かもしれないんだよ?」
「だけど、ウィルが罠を仕掛けてるんだぞ?」
俺の言葉に、フッとクールに笑うゼロ。
ゼロは背中にあったリュックサックを広げる。
そこからは、暗視ゴーグルに銃など、戦場一式セットがあった。
今から一体どこに行く気だよ? といわんばかりの豪華セット。
「ゼロ、まさか」
「フッ、想定の範囲内さ」
お前の想定はどれ位なんだよ。
のぞきにいくのにライフルとかって。
「お主、まさかのぞきに行くのに武器も持ってこなかったのか?」
などと、あるまじき発言をおっしゃるモンタ議長。
持ってくるわけ無いだろ!
「魔王君、僕達は仲間だろ? この障害を乗り越え、楽園を手にする
為に君の力が必要なんだ」
「ぜ……ゼロ」
なんだこのやけに頼りになるゼロは?
今までこんな事があっただろうか? いや、無いな。
アホ二人の姿が光り輝いて見える。
俺達はガッチリと円陣を組む。
「いいのか? もしかしたら死ぬかもしれないんだぞ?」
「フッ、魔王君。覚悟の上さ」
「わしらはもはや一心同体じゃ」
今、この時より俺達に真の友情が芽生えた(一時的な)
「すまない、俺は今まで君たちを『毎日城にきて、こいつらやる事無いのかよ?
冗談抜きで追い出したい』としか思っていなかった」
「そんな事、僕達の友情の前では関係ないさ」
「そのとおりじゃ」
そして、腕時計を前に出して時間を合わせる。
「3、2、1……作戦開始だ!」
こうして、俺達は夢の楽園を求めて
死の匂い漂う夜の山へと入っていった。