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第十四話「正月の遊び」

「あけましておめでと〜」


ワーイとはしゃぎながら新年の挨拶を交わすウィル。

あの後、ウィルをお城で世話する事にした。

服はパジャマでは良くないから、とりあえずパーカーみたいな白い服と

白の長ズボンを着用してもらった。

俺はとりあえずウィルに、元のアリシュレードに戻すように指示。

それと、記憶操作も駄目だよと指示。

そして、すっかりビル工事は止んだ。

こうして元通りのアリシュレードになったと思っていたが……。


「ウィル、アリシュレードに正月あるのか?」

「用心深いな〜、有ったの。万事結果オーライ。わかる?」


などと、意味不明にはぐらかされる。

まぁ、こういうのは別にあってもいいか。

今広間には、ゼロにモンタ議長。そして、リーシェ、ウィルに俺。

いつものメンバーが勢揃いというわけだ。

まぁ……このメンバーが揃うといつも何か起こるから怖いんだけどね。



「お姉ちゃんの作った料理美味しい!」

「ありがとう、ウィル」

「また絶妙な味加減だね、この煮豆といい、卵といい。

 ぼかぁ、今一番幸せだよ!」

「ほっほっほ、また料理の腕をあげよったの」


皆がリーシェの作ったおせち料理に箸をのばす。

一番驚くのはウィルだな。

たった一日で皆の輪に溶け込むこの順応の早さ。おそるべしチビッ子(3万歳)


「王様はどうですか? 料理の味は?」

「えっ? ああっ、最高! うん、文句なし」

「ありがとうございます」


ニコッと微笑むリーシェ。

思わず照れてしまう自分が居た。

おせち料理を堪能した俺達はこれから何をするのか話し合っていた。


「やっぱりお参りかい?」

「いやいや、やはり書初めなんぞいかがかのう」

「えー、遊びたい! 遊びたい!」


誰かに合わせようという大人はいないのか?

互いに意見を主張する子供達。



「王様、何か無いですか?」

「えっ?」

「そういえばお兄ちゃん意見出してない!」



皆の視線が俺に注目する。

ここは一つ、威厳を見せる時がきたようだ。


「寝るって言うのは?」

「「却下」」


はい、すみません、私が悪うございました。

皆さんは寝正月に興味なし。


「じゃあ、羽根つきとかは?」

「羽根つき?」

「そう。正月の遊びで、板で羽を交互に突き合う遊び」


手で羽子板の長さを教える。

すると。


「あっ! 王様、私それ知ってます」

「えっ? 本当?」

「はい。裏の庭に専用コートがありますからやってみませんか?」

「へぇ、僕も見学してみたいねぇ〜」

「お兄ちゃんやろう! やろう!」


いや、今の文の中で非常におかしい部分があるけど?

ここは突っ込むべきなのか?

しかし、とりあえず俺はリーシェの案内する羽つき専用コートに移動した。





今日は絶好の晴れ。

運動するにはもってこいの環境。

俺達は専用のユニフォームに着替えてコートに降り立つ。

目の前には芝生のコートに白線がしかれていた。

周りにはフェンスが張られている。

敷地を分ける為に中央に横一直線の低い網が敷かれていた。

そして、網のすぐ近くに、高くそびえる特等席が備えられていた。

ここら辺で見ている方はお気づきであろうか?

どう考えても、羽つきとは全く無縁の競技である事は。



「王様、どうです? この専用コートは?」


リーシェがサンバイザーをつけて、専用ユニフォームに着替えていた。


「リーシェ、一つ言ってもいい?」

「はい? なんですか?」

「コレは羽つきじゃなくて、『テニス』だよ」

「えっ!? で、でも同じぐらいの板ですよ?」


まぁ、確かにテニスラケットは同じようなものだけど、

正月じゃなくてもいいよね? テニスは。

違うと分かりがっくりとうなだれるリーシェ。


「まぁ、これはコレでやってみてもいいんじゃないかな?」


なぁ? と、皆に意見を求める。

皆さんも良いよーとこころよく賛成してくれた。




それからジャンケンの結果、初めに俺とリーシェが対決。

そして、審判には……。


「お兄ちゃん! どうして僕が審判なの!?」


超不満そうに審判の席に着くウィル。

じたばたと駄々をこねていた。


「仕方ないだろ? 他の二人が審判できないんだから」

「ぶ〜!」

「それじゃあ王様、いきますよ?」


サーブ権はリーシェに譲った。

ふふふ、誰が知ろう、俺は『テニスの王女』というテニス漫画を

全巻読破したテニス野郎だという事を!

最近見せ場が無いから、ここでいい所見せるチャンス!


リーシェが高々とボールを上げる。

ボールを見つめる顔は緊張しているのか、何処と無く

ぎこちなかった。


「えいっ」


可愛い声を出して、ボールを打ち出す。

パコンという愛らしい音が……しなかった。

むしろ、快音。

鋭利な空気を裂く音が聞こえ、ラインギリギリにワンバウンド。

呆然と見つめる俺の横をあざ笑うかの様に通り過ぎる。

地面に着く音と、フェンスにボールが当たった音が同時に聞こえる程の

速さで撃たれたサーブ。

地面には、焦げ付いた印が刻まれていた。

その結果、俺が最初に発した言葉は。


「はい?」


これしかない。

何も見えなかった。

何時通り過ぎたのか分からないボール。

俺は地面とフェンスを交互に見つめる。


「0(ラブ)−15(フィフティーン)」


そして、何事も無かったかのように容赦なく点数をつける審判。

いや、ちょっと待ってよ、これテニス?

フェンスの金網歪んでるんですが?


「お兄ちゃん、ルールでわかんないところあるんだけど?」

「えっ? 何?」

「プレイヤーが死んだ場合、殺した側の勝ちなの?」



さらっと言いにくい事を言うチビッ子審判員。

今日の晩御飯何? みたいなノリだった。



「勝ちじゃ有りません。というより、起こったら駄目。絶対」



起こりそうで怖いからハッキリ断言。

なにやらリーシェのほうを見ると、墨を用意していた。

そして、俺の方に近づいて。


「じゃあ、王様落としたので顔に墨入れますよ?」

「えっ!? ここだけ羽つきのルールな訳!?」

「そりゃあ、だって、正月ですもん」


容赦なく俺に墨を入れるリーシェ。

左目に大きく丸を書かれる。


「じゃあ次いきますよ? 王様」

「どんどん来て」


だって、どうしようも無い。半ばヤケクソ。

あんなの普通に受けたらどうなる事やら。

リーシェの一方的なゲーム。俺はただの一歩も動けず。

容赦なく墨が顔を埋め尽くす。


ラストゲームになってリーシェに異変が起きる。

俺の顔はもう見る影もない。

鼻毛かかれるし、ほっぺに渦巻き模様。

目蓋の上に眼を書かれる。

フェンスの向こうで、椅子に座ってみてるゼロとモンタ議長も必死に笑いを

こらえていた。


「ま……魔王君、い、言ってはなんだが君の顔は

 魔王というより阿呆あほうだね」


クックックと笑い声を押し殺して笑うゼロ。

くっ、どうか神様、奴に天誅を与えてやってくれ!


リーシェがプルプル震えながら最後のサーブを繰り出そうと

していた。

しかし、そこで突然。


「プッ、あははははは。駄目、もう限界です王様」


笑いながらサーブを撃ちだすリーシェ。

その殺人サーブはあらぬ方向に。

俺の横を大幅に通り過ぎ、ノーバウンドでなんと

フェンスの向こうにいるゼロの顔面に直撃した。


椅子に座りながら当たった勢いで、

縦に四回転半ひねりを披露するゼロ。

皆その光景に拍手。

無論、この後着地はど派手に失敗。

ヒギャーとか叫び声をあげながらポーンと椅子から投げ出された。

天誅だよ、ゼロ。


「まぁ、とにかくこれでリーシェにも墨が入るな」

「えっ」


俺は墨を持ってリーシェに近づく。

リーシェの顔に、容赦なく鼻毛を書き入れる。

そのギャップに俺は耐えられず。


「ぷっ……あはははははは」


思いっきり笑ってしまった。

腹を抱えながら悶えていると、リーシェも鏡で自分の顔を見て笑い出す。


「いや、こりゃ傑作だ」

「ですね」

「お兄ちゃん! 次、僕の番だよ!」

「ああ、わかってるわかってる」


こうして、墨を入れる羽つきならぬ羽テニスは続いた。

皆、顔面墨だらけ。


「いやぁ、楽しかった」

「そうですね」

「お兄ちゃん、全身墨だらけじゃない」

「仕方ないだろ? 顔面に入れるところが無いから他のところに入れるしか」

「ホッホッホ、笑う門に福来る。良い正月の幕開けじゃのう」


皆で笑いながら城へと戻っていった。

あれ? なんか忘れてるような……。


この1時間後、ゼロの存在に気づき病院へと搬送した。

お参りならぬ、お見舞いになってしまった。




































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