第十一話「聖夜の真実(前編)
最近、アリシュレードで異変が起きている。
ビルの開発、ダムの建設など色んな事業が進んでいっている。
俺が来た当初は街は露店などが多かったが、今や店舗をどっしりと構える
店が多くなってきていた。
大が小を潰す。
以前のアリシュレードならこんな事は無かった。
皆何かに取り付かれたかのように仕事をするようになっていた。
そんなアリシュレードに俺は不安を感じていた……。
そして、その不安はこの日に的中した。
「王様〜そっち持っててください〜」
「えっと、これでいい?」
「はい、OKです」
俺達は広間の飾りつけに追われていた。
いくつもの丸テーブルを置き、その上に豪華な食事を用意する。
壁にはキラキラと光る紐を飾っていく。
今日はリーシェが言うにはパーティがあるらしいが……。
「なぁ、リーシェ」
「はい? なんですか?」
「今日は誰かの誕生日か何か?」
「いえ、ちがいますよ」
「? じゃあ何?」
「今日は『クリスマス』なんです」
「えっ!!?」
「どうかしました? 王様?」
「ほ、本当にクリスマスなの?」
「はい、そうですけど?」
今まで似ているものはあったけれど、同じなのは一度も無かった。
こっちでのクリスマスってどういう意味なんだろ?
「なぁ、リーシェ」
「はい?」
「ちなみに、クリスマスってどんな意味?」
「えっとですね、この日にイエス=キリストが誕生してそれを
祝う祭りと聞いてますね」
「えっ?」
「? 王様?」
嘘だろ? 今回に限ってなんで意味まで一緒なんだ?
この世界にイエス=キリストが存在したのか?
それとも同姓同名が居た?
「王様! 早く手伝ってください! 間に合いませんよ?」
「えっ? あっ、ああ!」
それからは余りの忙しさに考える暇が無かった。
そして、夜になり、沢山の魔族たちが城に集まる。
マイクを取って司会進行をするリーシェ。
『それではごゆっくりとパーティのほうをお楽しみください』
リーシェの一言で会場は大いに盛り上がる。
それを俺は王座に座って眺めていた。
「王様、どうですか? このドレス」
「うん、似合ってるよ」
リーシェは赤いドレスを身に纏い、俺の前で一回転する。
ドレスが花弁のように舞う。
「あっ、王様これ……どうぞ!」
リーシェは突然後ろから両手の平ぐらいの箱を俺に渡してきた。
ラメが混じったピンク色のリボンが赤い箱を包んでいた。
これはもしや、クリスマスプレゼント?
「開けてみて良い?」
「はい」
俺は綺麗に包装された箱を開けると、そこにはピンク色の手袋が出てきた。
「これってもしかして、手作り?」
「は、はい。王様の手に合うかどうかわかんないですけど」
俺はすぐに付けてみると、ありゃ? ブカブカだ。
以前は俺が寝てるときにサイズ測ったのに今回はしてないみたいだ。
側ではリーシェが俺の返事を今か今かと待っていた。
「うん、ぴったりだよ」
「ほ、本当ですか?」
「ありがとうリーシェ、大切にするよ」
「は、はい!」
そうなると、俺もお返しがしたいけど。
参ったな、今日がクリスマスと分かっていたのならプレゼントを
用意してたんだけど何も無い。
「ごめん、リーシェ。今はプレゼント無いけど明日お返しするよ」
「い、いえ! 私は大丈夫です」
「もし、何か欲しいものがあったら言ってよ」
「欲しい……ものですか?」
「うん、何でもいいよ?」
「その……です」
リーシェがその言葉を聞いて、何やら小声で何か言っている。
「うん? 何リーシェ?」
「……す」
「えっ? 何?」
「や、やっぱりいいです!!」
「あっ! リーシェ!!」
顔を真っ赤にしてどこかに走っていった。
なんだったんだろ?
それとすれ違いにゼロが俺のほうに近寄ってきた。
「やぁ、魔王君。さっきリーシェが顔を真っ赤にしてどこか行ってたけど?
どうしたんだい?」
「いや、俺にもさっぱり」
「ふーん……」
「そういえば、ゼロ」
「なんだい? 魔王君」
「最近、ビルの開発とか進んでるけどどうかしたのか?」
その事を聞くと、ゼロの表情が曇る。
なんだ? こんなシリアスなキャラだったか?
「それがね、僕にも分からないんだ」
「はぁ!? 分からない!?」
「ああ。僕はあんなに意味のない建設は断固として反対したい。
だけど、僕の親と会社員は何かに取り付かれたように建設を続けてる」
「でも、お前が反対したら……」
「そう、そこなんだよ魔王君」
「?」
「僕も始めは反対するんだが、いつの間にか建設を進めるようになっている」
「ど、どういう事だ?」
「だから僕も分からないんだよ、やりたくないのに、やりたくなってる?
そんな感じだ」
ゼロは長いため息をつく。
その顔は何処と無く元気が無い。
よほどこたえているみたいだな。
「じゃあ、魔王君、また来るよ」
「あ、ああ」
ゼロは会場のほうへと戻っていく。
その後、俺も会場へ向かい、他の魔族と会話する。
しばらくして、会場の熱気をさけるかのように外へと出る。
外は鳥肌が立つほど寒かった。
「うぅ〜、やっぱり中に居たほうが……あれ?」
向こうの方で誰か居る。
俺が近づいてみると……。
そこには、闇に映える金色の髪をした子供が立っていた。
「こんばんは、お兄ちゃん」
「ウィル」
いつものように俺にひまわりのような明るい笑顔を俺に見せる。
「あっ、でも今日はお兄ちゃんの世界ではメリークリスマス……だった?」
「えっ? あっ、ああ」
「じゃあ、メリクリ! メリークリスマス! お兄ちゃん」
ワーイと無邪気にはしゃぐウィル。
俺の周りをグルグルと回る金髪の妖精さん。
「ウィル、その格好で寒くないのか?」
「えっ?」
今も水色パジャマで居るウィル。
俺でもこんな寒空の中パジャマで居たら死んでしまう。
「ほら、これでも着てろ」
「あっ……うん」
俺は上に羽織っていたマントをウィルに渡す。
まぁ、大して変わらないと思うけど、それでも無いよりは
マシだろう。
「ウィル、ここは寒い。中に入ろう」
「あっ、待って、お兄ちゃん」
「? どうした?」
「お兄ちゃん、今この世界はどう?」
「どうって、何が?」
俺はウィルの言った意味が分からなかった。
俺の言葉にウィルは頬を膨らませる。
「最近、お兄ちゃんの世界に似てきたでしょ?」
「そういわれてみれば……」
「お兄ちゃん前に言ってたでしょ?」
「えっ?」
「お兄ちゃんはこの世界の人間じゃないから帰るって」
「あー、そういえば」
「だからね、お兄ちゃんの世界に似てきたら帰らないんじゃないかなって。
どう? お兄ちゃんこっちの世界に居てくれるようになった?」
ウィルは期待に満ちた目で俺の方を見る。
だけど、俺の答えは既に決まっている。
「駄目だよ、ウィル。前に言ったように俺は帰らないといけない」
その言葉でウィルの顔が曇る。
そして、ウィルはうつむいてしまう。
「なんで、なんでなのお兄ちゃん?」
「ゴメンな、ウィル」
「こんなに……こんなに兄ちゃんの世界とソックリにしたって言うのに」
「? う、ウィル?」
ウィルが顔を上げた時、そこには以前のようなひまわりの笑顔は無かった。
その代わり、親の仇を見るような目と、冷徹な笑みがそこにあった。
「そっか、ソックリじゃだめなんだ」
「おい、ウィル?」
「お兄ちゃん、僕、決めた。この世界壊すよ」
「なっ!?」
「兄ちゃんのいないこの世界なんかあっても無くても一緒だもん」
冗談だろ? と、ウィルに俺は尋ねたかったが、ウィルの目を見て
そんな事はとても言えなかった。
この眼は明らかに本気だ。
ウィルはふらふらと周辺を歩き出した。
「お兄ちゃんは、僕にそんな事出来ないと思ってるでしょ?」
「……ああ」
「残念でした。出来ちゃうんだ、コレが」
俺とある程度距離を離したウィルは俺の方に振り返る。
そして、ある事実を俺に話した。
「僕の名前はウィル。『ウィル=アリシュレード』僕はこの世界そのものなんだ」
「なっ…………なんだってー!!!?」