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第一話「王様」

ここはとある会場。

そこでは、足の踏み場もないほどの黒い塊ができていた。

目の前の壇上では一人の女性がマイクを持って立っていた。


「はーい、皆さん〜! 注目!」


女性は大きく手をぶんぶんと振る。

その後、コホンと咳払いを一つした女性は。


「では、皆さんの待ち望んだ結果発表を行います〜」


黒い塊から大きな歓声が上がる。


「では、今回選ばれた方の名前を挙げさせて頂きます」


女性は手に持っていた一枚の紙切れを広げる。

辺りが静まり返る……


「今回選ばれた方は……鈴木すずきしゅうさんです!」


女性がそう発言すると、周りは沈黙。


「って……誰?」




--時は20××年、時を同じくして、場所はとある学校へと舞台を移す。

中では、休み時間を満喫している生徒の姿があった。


「でね、昨日のテレビな」

「まじかよ!?」


ギャハハハと笑い声が響く中で、教室の片隅で一人、ポツンと本を読んでいる男性がいた。


「何読んでるんだよ、修」


一人の男性が、本を読んでいる男性に気軽に話しかける。

本を読んでいた男性は、フゥとため息をついた後、本をたたむ。


「なんだよ? なんか用か、和志」

「なんか用かって……お前、休憩中も本読んで疲れないのか?」

「別に、家帰ってもやる事は本読むか、寝るかのどっちかだからな」


修はあ〜あと、ため息をつく。


「修、お前、部活とか入ったらどうだ?」

「パス。かったるいし、すぐに辞めちまうよ」

「あのなお前、俺たち高校生だぜ? 今青春を楽しまないと損だぜ?」

「俺の青春はもう終わってるよ」

「はやっ! おまえ、夢とか無いのか!?」

「夢ねぇ〜」


俺の名前は「鈴木すずき しゅう」現在高校1年生。

目の前に居るのは小学校からの腐れ縁の「山本やまもと和志かずし

俺は、小さい時から何をやっても駄目な奴だった。

運動も、勉強もまるで駄目。

人より優れたところなどまるで無かった。

人生ずるずると退屈な日々を過ごす毎日。

こうして、俺は平凡な人生を過ごしていったとさ、めでたし、めでたし。


「いやいや、終わらせるなよ」


隣で突っ込む一志。


「そういえば、小さい時に「将来の夢」とか言う作文なかったか?」

「あ〜、そういえば、そういうの有ったな」

「修は将来の夢何だったんだよ?」

「えっ!? い、いや……そ、そういえば一志は何だったんだよ?」

「俺? 俺は、今も同じくサッカー選手だ」


フフンと、自慢げに語る自称エースストライカー。

しかし、この高校のサッカー部は万年一回戦落ちなのである。


「それで、修は何だったんだよ?」

「いや実は、忘れちまった」


否。実ははっきりと覚えている。

俺の子供の時の将来の夢、それは……「王様になる事」

はっきり言って、我ながらアホだな。

この日本と言う国に王権制度はない。

つまり、一生叶う筈が無い夢なのだ。

小さい頃、その事で皆から笑われたのを今でもはっきりと覚えている。

話していると、休み時間の終了を告げるチャイムが鳴り響く


「おっと、もうこんな時間か。それじゃあな」


急いで自分の席へと戻っていく一志。


--何事も無く全ての授業が終了した。

俺は当然の事ながらやる事が無いので、授業が終わると真っ直ぐ家路につく。


「ただいま〜」

「あら、お帰り」


家に帰ると、母親が出迎えてくれた。


「夕飯ならもうすぐできるから」

「わかった」


俺は鞄を置きに、二階にある自分の部屋へと上がる。

部屋に入ると、周りには本がぎっしりと、棚に詰まっていた。


「そろそろ、整理しないと入らないな」


俺は、鞄を置くと、直ぐに一階の居間に向かった。

そこには、既に夕飯の用意が済まされていた。


「もうすぐ、お父さんも帰ってくるから一緒に食べましょう」

「はいはい」


その後直ぐに、親父も帰ってきた。

俺は家族と一緒に夕飯を済ませて、その後風呂に入る。

風呂から出ると、直ぐに自分の部屋に入る。こうして俺の一日は過ぎていく。

俺はベッドにごろんと横になり、時計を見るとまだ夜の9時だった。


「まだ早いけど……もう寝るか」


俺は部屋の電気を消すと、深い眠りについた。

毎日、毎日、なんか刺激が足りないな〜などと、僅かながら寝る前に思った。



「……きて」


んっ……何か声が聞こえてくる。

それに、何かいい香りがしてきた。


「おきて……さま」


声が段々はっきり聞こえてくる。

非常に甘く、色っぽい声だ。


「起きてください、王様」

「えっ?」


その言葉に目がぱっちりと覚める。

すると、俺の傍らには俺と同じぐらいの歳と思われる美女が立っていた。

背中の辺りまである黄金のように輝く金色の長い髪。

スラッとした姿勢はモデルを連想させる。



「やっと起きてくださいましたね、王様」

「お、王様? 王様って、俺?」

「他に誰が居ますか?」



な、何がどうなって俺が王様に? ってか、この人、どうやって俺の部屋に……ん?

女の人で気がつかなかったが、周りを見回すと、俺の部屋ではなかった。

俺が寝ていたベットは、倍ぐらい大きくふかふかなベットに。

天井には豪華なシャンデリア、周りには微妙なインテリアが。髑髏とか飾ってるけど。


「あ、あなたは一体?」

「申し遅れました、私の名前は「リーシェルトルード・パトリオット・ディス・

 パール・デモントアルモーディス」と申します」



覚え切れません。そんなフランス料理のような名前。


「あ、あの……えっと……」

「以後、リーシェで構いません」

「すいません、助かります。どうして、俺はここに?」

「鈴木様は「王」になられたからです」

「……王?」

「はい」

「俺が? 王様に?」

「はい」


な……なんてこったー!! 一夜にして日本は王権制度になり、いつの間にか俺が王様に任命されたのですか!?

いやいや、そんな事は有り得ない。

となると、実は俺は何処かの王国の王家の血筋を受け継いでいて、その国の諜報員が俺を

連れ戻したという事も……あー! 訳がわからん!


「……? どうしたのですか? 頬をつねりになされて?」

「いや、夢じゃないのかなと思って」


痛い。と言う事は……夢じゃない。

俺は……俺は……王様になってしまった!


「俺、本当に王様に?」

「はい。そして、私はあなたの秘書です」

「秘書!?」


秘書……ああ……なんていい響きなんだ。

しかもこんな可愛い子が秘書だなんて感無量。


「王様、朝食ができております」


そう、リーシェが言うと、扉の向こうから豪華な食事を運んでくる。

この際、もうなんで王様になったのとかどうでも良いや。王様万歳。

俺は頭の思考を良い方向に考える事にすると、豪華な朝食を食べる。


「王様、本日のスケジュールの確認をさせて頂きます」

「スケジュール?」


リーシェがそう言うと、ポケットからメモ帳を取り出す。

そして、パラパラとページをめくる。


「本日は、王様のめでたい就任一日目です」

「うんうん」

「ですので、今日は挨拶回りに行くことにしました」

「なるほど、なるほど」

「まずは、王様の威厳を見せ付けるため、愚かな人間共の街を片っ端から叩き潰します」

「なるほど、なるほ……?」


ん? 今何かさらっととんでもないこと言わなかったか?


「あの、今なんて……?」

「? 挨拶回りに行くと」

「いえ、その後」

「愚かな人間共の街を容赦なく完膚なきまで叩き潰すですか?」

「そう! それ!」


っていうか、スケール大きくなってますよリーシェさん。


「? なにかおかしいですか?」

「おかしい。っていうか、それ挨拶って言わない」

「ん〜……じゃあ、片っ端から女子供をさらうのですか?」

「……本気ですか?」

「はい(はーと)」


そんな恐ろしい発言しといてニッコリと微笑むリーシェ。

ふふふ、そんなあなたはもう恐ろしいを通り越して素敵です。


「あの、俺王様なんですよね?」

「はい」

「じゃあ、なんでそんな極悪人みたいな事を?」

「えっ? だって鈴木様は、魔王様ですよ?」

















「……あの、もう一度今の発言を聞かせて下さい」

「魔、王様です」

「ええええええええええぇえぇぇぇ!!?」


魔王という言葉がエコーになって頭に響く。

朝の浮かれ気分が一気に吹き飛ぶ。

王は王でも「魔」王様だったなんて、えらい違いますよ!?

冷静に、冷静になれ。まずは状況を把握しろ。

事件が起きた時はいつも冷静になれとテレビで言っていた。


「あの、ここどこなんですか?」


今頃になって気づいた俺。

少なくとも、日本じゃないだろう。


「ここは、「アリシュレード」と呼ばれる世界です」

「あ……ありしゅれーど?」

「はい。本来鈴木様が居られる世界とは異なる次元にある世界です」


今の一言は俺の常識の範囲を既にブッチギリで超えていった。

日本どころか、ここは地球じゃないですよと言う死の宣告。


「? どうしたのですか? 頬をおつねになされて」

「いや、夢じゃないのかなと思って」


うん。痛くない。あれ? 目から水が……おかしいな。



「あの、俺帰りたいんですが」

「無理です」


極上の笑みを浮かべて0コンマの域で返答してきたこの悪魔。


「鈴木様は魔王に選ばれたため、少なくとも、1年間は魔王としての

 勤めをしていただかないと帰れません」

「……大体予想できるんですが、魔王としての勤めって?」

「愚かなる人間共を恐怖と絶望の淵に叩き落し、私たち悪魔の指揮を執って頂きます」



あの、俺もその愚かなる人間なんですが。



「それでは、仕事に行きましょう魔王様」

「えっ? いや、ちょっと待って!」


リーシェはそういうと、俺の腕を掴む。

すると、突然、空の上にワープしたのだ。


「うわったった!? お、落ちる!!」

「大丈夫です、魔王様。私の魔力によって落ちる事はありません」


リーシェの言うとおり、俺がどんな体勢になっても高度を保ったままだった。


「下をご覧下さい」

「えっ?」


そう言われて、下を見ると、街が眼下に広がっていた。

人が賑やかに動いているのがよく分かる。


「今からあの街を滅ぼしましょう」

「ちょ!? ちょっと待って!」

「?」


このままじゃあ本当に街を滅ぼさなければならなくなる。

何か上手く収める方法は……そうだ!


「リーシェ、街の人と話せないかな?」

「えっ?」

「ほら、その……威厳をみせつけるには話した方がより効果的

 じゃないかな?」

「なるほど〜、そうですね、さすがは魔王様」


良かった、上手く騙せたみたいだ。

街の人も俺が滅ぼす気がないと意思を示せばきっと解ってくれるはず。

俺たちは徐々に高度を落としていく。

人々の顔がはっきり分かるぐらいの高度までなった時だった。


「聞け! 愚かなる人間共!」

「へっ?」


突然、リーシェが大きな声を上げる。

街の人達はその声に思わず上を見上げる。


「本来なら貴様ら愚民共には決して見ることができない魔王様が、直々に

 貴様らに死の宣告をしてやるとおっしゃった」


えぇぇ!? いや、言ってない! 言ってない!

そんな俺の思いとは裏腹に、リーシェの一人演説は続く。


「光栄に思うがいい! 貴様らは死ぬ前に魔王様のお声を聞くことが

 できるのだからな!」


そういうと、リーシェは俺の方に振り向いて。


「さっ、王様どうぞ。前座はバッチリです」


そういってウインクをするリーシェ。

下の街からは大勢の人達が俺に向けてあつ〜い視線が向けられていた。

俺は、コホンと咳払いを一つした後。


「え〜と、皆さんこんにちは。一応魔王です」


そういうと、街から俺に向けて色々なものが飛んでくる。

やだな〜、俺はまだ何もしてないのに……


「すごいです! 話しかけただけで人間共の恨みを買っているなんて」


後ろの方ではしゃぐリーシェ。

……あんたのせいですよ、あんたの。


どうやってこの場を収めようかと考えていると……


「じゃあ、そろそろ?」


リーシェがひょいと俺の方に近づいてきた。

その両手には、ハンマーやら剣やら持っていた。

やだな〜もう、この子殺る気満々ですね。はい。

このままじゃ、地獄絵図ができるのも時間の問題


「リーシェ」

「はい?」

「帰ろう」

「えっ?」

「今日はもうこれで充分じゃないかな?」

「充分って……まだ何もしてませんよ?」


ぶーぶーと楽しみを取られた子供のように言うリーシェ。

俺はもう充分心に傷を負いましたがね。刃物とか飛んできてるし。


「リーシェ!」

「!? は、はい!?」

「王様からの命令です! 今日はこれでお終い!」

「えっ、で、でも」

「でもじゃない! 今日はこれにてお終い!」

「は、はい!」


そうして、何事も無く俺たちは元いた場所に帰ってきた。


「ぷは〜」


俺は緊張の余り思いっきりため息をついた。


「魔王様」

「えっ?」


リーシェは俺の方をじっと見つめていた。

やばい、さっき何もしなかったから怒っているのかな?

せめて家一軒ぐらい破壊させてあげたほうが良かったかな?


「感動しました!」

「は、はい!?」


突然涙目になって顔を近づけてくるリーシェ。


「魔王様は今までの魔王様とは違い、じっくりと真綿を締めるようにじわじわと、

 恐怖のどん底に落とすタイプだったんですね!」

「は!?」

「そうですね、最近の魔王様と言ったら力ずくのゴリラのような方ばっかりでしたから

 久しぶりに魔王様らしい方にお仕えできて感無量です」


何やら自己完結しているリーシェ。

とりあえず、結果オーライ?


「そ、そうなんだよ! わかってくれたみたいだねリーシェ」

「はい! さすがは人の身でありながら魔王に選ばれたお方ですね!」


よっ、この大悪党なんて声をかけてくるリーシェ。

俺、こんな事1年もしないといけないのか?

まぁ、なんだ。なるようになるかな?



「では、魔王様。後残り120軒の街が残っていますので」

「却下」


 








































































































楽しく読んでいただけたら良いとおもっています。

楽しければ全てOKな感じで。

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