OFF会
オフ会というのは、ネトゲの人らとリアル世界で出会う会合のことで、オンラインに対してオフラインの会というところからオフ会ということだそうだ。
そんなオフ会へ、俺は初めて参加することになった。
ちょうど近場で集まるということなので、適当に食事会でご飯食べて、楽しく話をしてからそのまま帰ろうと考えていた。
「ではー、ダメオギルドのみなさんと出会えたことを祝してー、かんぱーい」
一人一人が麦茶やウーロン茶やジュースを入れたコップを持って、ギルド長の音頭で一気に天空高く掲げる。
未成年者がいると言うこともあり、お酒類は飲まないことになっていた。
別に俺は酒を基から飲まないから構わないが、飲みたそうにしている人らも、何人かいた。
このダメオギルドは、総勢12人からなっている小さなギルドで、ネトゲの中では最少人数のギルドでもあった。
名前からしてダメなギルドではあるように感じるが、その一方で、人が少ないからこそのつながりがあった。
ギルド長は、大学4年生で、今年は院に進むと言って張り切っていた。
俺からすれば、とうに通り過ぎた道ではあったが、だからこそのアドバイスもできた。
「そういえば、なんでダメオギルドなんて名前にしたんですかー?」
ウーロン茶を飲んでいる女性が、ギルド長に聞く。
「だんだん、めでたいことが、おきてほしいという感じで名付けたんですよ。それらの頭文字で、ダメオ」
こじつけなような気もしたが、俺は持っていたリンゴジュースを一気に飲み干し、近くにあった唐揚げを食べた。
「でねー、それでねー、アレがアレになってアレで、アレとアレがアレになって」
なんとなく、周りの会話に耳を傾けていると、一人寂しくご飯を食べている感じになった。
「なんか、来た意味ないですかね」
すぐ横の女性から、声をかけられる。
「どうなんでしょうね。オフ会と言うのも初めてだから、なんか緊張しちゃうんですよ」
「あら、そんな緊張なんかしなくてもいいんですよ」
ほほ笑みながら、俺へ寄ってくる。
「オフ会ですからね、オンの時には分からないことでも聞けばいいんですよ」
「何でも聞いていいんですかね」
「まあ、できれば聞いてほしくないこともありますからね。そのあたりは、プライバシーに配慮したうえで、よろしくお願いしますよ」
ニコッと微笑みかけられて、俺は、緊張の糸が切れたような感じがした。
「そういや、お名前聞いてなかったですね」
「ああ。ギルドでは、スター騎士と言う名前で籍を置いてます」
「あのスター騎士さんですか」
スター騎士とは、ギルドの中でギルド長についで古くからいる人で、いろんな依頼が直接来るほどの有名人でもある。
「いや、ごめんなさい。俺、男だとばかり思っていました…」
「あら、立派な女性ですよ。よく間違えられますけどね」
ネトゲの中でのチャットでは、男っぽい口調をしていたから、ずっと男だとばかり思っていた。
「俺は、ジャン券っていいます」
「ああ、新人さんね」
俺が入ったのは、つい1か月ほど前。
マダオギルドは、ネトゲが始まった当初からあるから、5年は経過している。
「このゲーム自体を始めたのが1カ月なので、まだレベルもそこまで高くないですけどね」
「ゆっくりとなれたらいいのよ。時間はあるんですからね」
彼女の言葉が、なんとなく、心の隙間に当てはまった。
食事会が終わると、俺一人が駅へ行かず、他のメンバーが駅へと向かっていた。
その中で、スター騎士さんだけが、俺に少しだけ近づいて耳打ちした。
「何かあれば、メールしてね。チャットでも相談に乗るから」
その口調で、なぜか背筋に寒気がした。