第9話 食糧Getだぜぃ
朝が来た。異世界二日目の朝。いや、初のお泊り。
哲治は、窓から入り込む朝日で目が覚めた。
お腹に掛けていたグラウンドコートを羽織って、欠伸とともに伸びをする。
物置の硬い床で寝ていたため、体中が痛い。
左手を確認すると、巻いたテーピングが薄っすら血で滲んでいた。
巻き直そうかと考えたが、自分の血を見ることが“狂暴化”のトリガーだったら…。巻き直すことは諦めた。
顔を洗いたいが、水がない。
スポーツドリンクで、うがいをするように一口飲んで、シャベルとおしぼりを持って、外へ出ていく。
大きな用事を済ませ戻る。母さん、ごめん。“おてて”ではないところを拭きました。
4人の小人たちも起きていた。
おにぎりを半分に割り、半分を更に四等分して、それぞれに渡す。
スポーツドリンクの入ったペットボトルの蓋をコップ代わりに、お茶を注いでやる。
王女様は、スポーツドリンクを、“悪魔の水”と呼んでいた。
◆◆◆
昨日、トイレを提供した後、王女はかなりご機嫌斜めだったが、スポーツドリンクを飲ませると、何故か踊り出した。
もっと、欲しいと言って飲んでいたが、急にブルーシートの裏に走って行くと、俺が寝るまで戻ってこなかった。
昨夜もスマホを取り出し、電源を入れ確認したが、“圏外”のままだった。当たり前だが。
画面を見ていると、ルヴァンが話しかけてきた。
「それは、明かりの魔道具か?」
哲治は、ルヴァンを見て答える。
「いや、まあ明かりも灯せるが、通信の道具だ。この機械で、離れた場所にいる人と、会話ができる。文章のやり取りも可能だ。それに、写真や動画も撮れる。実際やってみよう」
と言って、カメラを起動し、ルヴァン達を写す。
撮った写真を見せると、三人は驚き
「瞬時に精巧な絵画が描けるのか!」
「離れた人と、会話ができる…それは、画期的だ…」
などと、ルヴァンとクルーガが、議論を始めてしまった。
哲治は、スマホの電源を切る。月明かりが窓から差し込んでいた。
グラウンドコートを布団代わりにして、寝転んだ。
ちなみに、小人たちの布団は、俺の野球のユニフォームだった。
上着は女性陣、下が男性陣だ。男二人は裾から入り、寝袋状態で寝ていた。…やはり魔術師、頭がいい。
◆◆◆
ピピンの話だと、砦からここまで、馬車で半日かかるとのことだ。
“昼まで”と脅しをかけたから、大丈夫だとは思うが、おにぎりもお茶も、“悪魔の水”も、もう無い。
脚立とシャベルを持って、外に出る。
瓦礫と、死体を片付けるためだ。
そのままにしておけば、腐敗して臭いを発生させる可能性がある。
それに釣られて、動物や変なものが来るかもしれない。
それに、埋葬することで懺悔の気持ちと、埋めることで隠してしまいたいという気持ちがあった。
まずは脚立を伸ばし、物置の屋根を確認する。
思ったよりも、瓦礫は乗っていなかった。
そのままでいいだろうと、脚立を降り、穴を掘りに行く。
“大きな用事”で、穴を掘った時に思ったが、土が柔らかいわけでもないのに、サクサク掘れる。
もしかしたら、“強靭化”の魔法とやらが、物置の道具にも掛かっているんじゃないかと、邪推する。
家庭菜園用のビニール手袋をして、瓦礫などを穴に入れていく。
いっぱいになったら、土で埋め、新しい穴を掘っていく。
三個目の穴を掘ろうかと思った時、遠くに動くものが見えた。
食糧が来たのか、敵対しに来たのか、未だ判断できない。
物置に戻り、野球のユニフォームへ着替える。
小人たちは何事かと騒いでいる。
「東から何か来ている。食糧なら良いが、攻撃の意思があった場合、反撃する」
そう告げると、ルヴァン以外は不安そうな顔をしていた。
ルヴァンは、何故か憑き物が落ちたように、清々しい顔をしている。…意味不明。
スパイクに履き替えた後、キャッチャー道具が入ったバッグから、プロテクター、レガース、ヘルメットを取り出し装着する。バッティンググローブ(新品)を手にはめる。
武器になりそうな物…金属バット、ノコギリ、シャベル、鍬、鎌、ゴルフクラブ。
魔術師クルーガに聞いたが、戦闘魔術師は、火の玉や火炎、水の玉や放水、石礫を混ぜた風の魔法を放ってくるらしい。
盾になりそうな物を探すが、見当たらない。と、棚を見る。これ使えないかなー。と棚を持つと、持ち上がった。
「外れるんか~い」
外してみたが、持ち手がない。
少し細くて、体全体は隠せないが、無いよりはましだろう。
満足していると、下から声がかかる。ルヴァンだ。
「テツジ殿。戦闘ではなく、食糧の提供だった場合、明日の取引に追加してほしい物がある。羊皮紙数枚と、ペンとインクが欲しいのだ。頼んでくれないか?」
哲治は、ルヴァンの目を見て聞く
「何のために?」
ルヴァンは、哲治の目を見て言う
「魔法陣を描く。返還魔法陣の基礎も考えたいが、わしらが生活する上で、少しでも快適化を図りたい。所謂、生活魔法陣を描きたいのだ」
「分かった。他の人は?」
と、他の三人を見まわす。
「お手洗いと、ベッド!」
王女が、叫んだ。
「着替えも欲しいわ!」
「姫様の御櫛と、できれば湯浴みの一式を」
侍女のマーリンが、遠慮がちに言う。
「クルーガは?」
「私も、ルヴァン閣下と同じように、羊皮紙とペンとインクが頂きたい」
哲治は、頭の中で反芻しながら、トイレは有るだろ、却下だな。と、非情な判断を行う。
釣り用の折りたたみ椅子を持って、外へ出る。
瓦礫が、ある程度片付いた場所に椅子を置き、戦国武将のように、どっかりと座る。
右手に4番アイアン、左手に棚の盾、目にはちょっとオシャレな親父のサングラス。
馬に乗る甲冑を着た小人たち、馬車が、はっきりと見える位置に来た。
哲治から見て、30mほど離れた場所に、やって来た一団が止まる。
ざっと確認すると、馬車3台、騎馬が10人。
その内の1人が馬から降り、徒歩で近付いてくる。
鎧はまとっているが、兜は着けていない。
槍のような長物も持っていないようだ。
手が届きそうな距離まで近づき、哲治の顔を見上げる。
髭面の男。
哲治は、その男に顔を向け、サングラスで隠れた目線は、後方の部隊を見る。
動きは、特にない。
この男を囮に、遠距離攻撃をしてくるわけではないようだ。
髭面の男は、大きな声で
「アストレイア王国、第八師団、第2大隊、隊長ライナー・バルツと申す。貴殿は、異世界より召喚された“テツジ殿”で、お間違いないか?」
哲治は頷く、それを見て続ける
「貴殿の要望通り、食糧と飲み水を運んでまいった。近づかせてもよろしいか?」
侍みたいな物言いだな。と、思いつつ哲治は
「うむ。あい分かった、近こうよ…」うつった~!顔が熱い。
ゴホン。
「食料は何だ?」
「パン100個、干し肉、スープ25ℓ」
「よし、馬車のみ近づけろ。幌は外して、な」
ライナーは一瞬、怪訝な顔をするが、すぐに振り返り叫ぶ
「馬車は幌を外し、こちらへ来い。騎兵はそのまま待機!」
幌を外すところを注視していた。
馬車に人が隠れている様子はない。
また、大砲など武器らしきものも見当たらなかった。
しかし、木箱が積んである。
大人が入れる大きさではなさそうだ。
それを見て、哲治はライナーに気付かれないよう、息を吐く。
馬車3台が、ライナーの立っている場所まで来ると
「リリアーナ王女殿下は、御無事か?」
と聞いてくる。
「ああ。今のところは、生きている」
悪役感満載で答える
「元気なお姿を確認したい!」
王女を連れてこようかと、一瞬考えたが
「確認してどうする?助け出すか?」
「いや。テツジ殿が信に値すると、この目で見て、王国へ報告したい」
飼育ケースに入れて連れてくる。手で掴んで連れてくる。物置の扉を開いて見せる。どれも良くない。前者二つは、王女を粗雑に扱っていると印象付けそうだし、物置の中を見せるのは、現段階では愚の骨頂だ。
「ライナー隊長さん。俺は、この国に信用とか要らないよ。俺の要求が飲めないなら、自分で、食糧も水も手に入れるだけだから。ピピン君に聞いてないかな~。それに、この周りの状況、昨日の朝まではどんなんだったか、知らないのかな~」
ライナーという兵士は、周囲を見回す。
何も言わない。
「王女様は、無事だ。それ以上も、それ以下もない」
冷たく、哲治は言い放つ
「俺を利用しようとか、排除しようとか、考えない方がいいと思うよ。自分で言うのも何だけど、大きいって言うのは脅威でしょ。それに」
そう言って、哲治は物置を指さす
「あの物置…建物には、異世界の殺戮兵器が、ごまんと置いてある。俺が暴れたら、隣の国も、どう動くか…意味分かるよね?」
ニヤリと笑い、続ける。
「じゃ、馬車ごと置いて帰っていいよ。あーそうだそうだ、明日また、食料と水、よろしくね。それと、ルヴァンさんから、“紙数枚”と“ペン”と“インク”頼まれたから、それもお願い。あと王女様から、“ベッド4人分”と“湯浴み一式”…あと、“櫛”だったかな、頼まれたから持ってきて…ベッドは早い方がいいな。いったん戻って、すぐ持ってきてよ」
そう言って、哲治は追い払うように手を振る。
ライナーは、馬車の御者に言葉を掛け、馬車に繋いだ馬を外し、御者と一緒に一団へ戻っていく。
馬に乗ると、馬首を返し東へ走って行った。
哲治はそれを見て、大きく息を吐きだす。
やっちゃったかな~。魔物領のこと国って言い間違えたし。強気は、まずかったかな~。怒ったかな~。
巨人の気は、小さかった。




