第89話 もうひとつの帰る場所
元の世界へ帰れなかった哲治です。
あの『さよなら』から、5年の月日が流れています。
巨人化も解除されて、こちらの世界の方々と同じサイズになりました。
巨人化は、魔法の影響だったようです。
物置が壊れて以来、屋根のある場所で寝られるようになったことは良いことです。
……魔法無効化。
意思疎通の魔法まで無くなってしまい、スムーズに会話ができるようになるまで、2年かかりました。
あれからのこと、語りましょう。
帰還魔法陣から、なぜか、リリアーナの自室へ転移。
泣きじゃくりながら、抱きついてくる王女さま。
侍女たちが慌てて部屋に入って来ます。
皆、お約束かの如く、一旦固まった後に近づいて来ました。
この時点で、言葉が通じないことが分かりました。
あれよあれよと国王に謁見。
言葉は分かりませんが、国王と宰相、皇太子に大爆笑されました。
それから王城で生活をしていたのですが、20日ほど経った頃にルイーゼ辺境伯が迎えに来て辺境伯領へ行くことになりました。
辺境伯領に着くと、書類にサインを求められ、訳が分からないままサインしました。
読み書きができるようになって知ったのですが、サインした書類は、ルイーゼ辺境伯の養子になる承諾書だったようです。
辺境伯領で言葉を教えてもらって、一年ほどで簡単な会話ができるようになり、それからルイーゼ辺境伯に政治学やこの王国の歴史などを一年間教えられました。
それから更に半年後、テツジシティーへ領主として、恥ずかしながら帰って参りました。
皆が、笑顔で迎えてくれて、懐かしいやら恥ずかしいやら。
巨人の時は俯瞰で街を見下ろして、箱庭のように感じていましたが、皆と同じサイズになってみると街の大きさが異様なことになっていることに気づきました。
それと、帰還の館跡が立派な宮殿に変わっていた。
いくら基礎があったとはいえ、たった2年半で造ってしまったこの世界の大工と職人には、本当に驚きです。
残された道具類は、この街で色々活用されています。
2年前に道具類をどうするか聞かれ、
「大き過ぎて使えないから、好きにしていいよ」
って言ったら、本当に好きなように使ったみたいです。
宮殿の壁の一部が物置の棚だったり、パネルだったり、門の柱の上にはゴルフボールが乗っています。
キャッチャーミットやグローブの革は第八師団の革鎧に変わり、破裂の魔法陣の罠を仕掛ける兵士が機動力重視で着用するらしい。
レインコートは防護服にしたと言われ、初め意味が分かりませんでした。
他にも色々活用されていますが、キリがないので割愛します。
この領地に来て一番驚いたのは、鉄道ができていたことです。
まだその時は、試験的なもので直線1kmのレールしかありませんでしたが、それから二年半経った今、辺境伯領にレールが延びています。
夢の魔導蒸気機関車です。
石炭使いません。
魔石を使って魔法陣で蒸気を作っているそうです。
哲治の残した鍬の鉄部分に魔法陣を描いて……説明されたけど、分かるか〜!
魔石は将来的になくなるんじゃないの?
いい質問ですね!
あの、ルヴァンです。
魔素召喚魔法陣の小さい版を描いていました。
テツジシティーの外れにルヴァン研究所なるものがあります。
物置のパネルを壁に使い、完全に外気を遮断した研究所。
建物内に魔素召喚魔法陣と細かく砕かれた蓄魔石。
無限動力ならぬ無限エネルギー!
研究所に入る時に、そうですレインコート製の防護服に着替えます。
雨は防げるけど、魔素も防げるのか?
そのルヴァンに帰れなかった文句を言うと
「あの魔法陣は完璧だった。誰かさんの想いが理を捻じ曲げたんじゃないか?」
そう言った。
「瞬間移動の魔法陣と間違えたんじゃないの?」
と詰め寄ると
「それはない。瞬間移動の魔法陣は完成しとらん」
そう言うルヴァンは、王都と研究所を行ったり来たりしている。
しかも、いつの間にかいなくなり、いつの間にかいる。
……怪しい。
元の世界へ帰ることは諦めました。
なぜなら、帰れない理由ができたからです。
家族ができました。
妻は……はい、リリアーナ王女です。
二人の間に2歳になる姫様もおります。
「てつ〜、そろそろ帰ろ〜」
優しいリリアーナの声が聞こえる。
哲治が自分の家族の話をして以来、哲治の母親の口調を真似るようになった。
「そうだね。冷える前に帰ろうか。ソフィーも待ってるしね」
「うん。帰ろ〜」
「ゆっくり帰ろうね。お腹に触るといけないから」
二人手を繋いで歩いて行く。
帰れなかった代わりに、帰る場所が出来ました。
まぁ、今、すげぇ幸せです。
―― おしまい ――
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