第88話 「さよなら」は別れの言葉じゃなくて
寒の季節に入った。
巨人勇者の返還……帰還の日が決まった。
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涼の季節の終わり頃、テツジシティーでは、水道の開通式が行われた。
無事に水が魔物領の川から流れ、シティーを経由して川へ戻る。
水道管が鉄で作られているので錆が心配だが、こちらの職人のことだ、すぐに改良されるだろう。
辺境伯領でも、上下水道の工事が始まった。
石大工や職人たちは、ゼネコン会社を設立して公共事業を請け負っている。
会社名は『テツジ建設株式会社』。
……名前、止めて!
ライナーから
「報いだ。諦めろ」
と言われ、散々ライナーの名前で遊んできたので、言い返せなかった。
この王国で、初の株式会社。
大株主はルイーゼ辺境伯だ。
哲治は"名誉会長"。
社長はバンスが担う。
ガンツじゃなくて良かったよ。
ガンツは石大工を辞めて、サッカーの普及に力を注いでいる。
スポンサーはテツジ建設株式会社だ。
辺境伯領には、王都から多くの大工や職人が水道工事や紙漉きなどの研修に来ている。
そして、惜しみなく技術を教えている。
どうも『独占ダメ。絶対!』が合言葉になっているようだ。
……誰が言ったのだろう?
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アストレイア王国、王城の一室。
日の光が、優しく部屋を照らしている。
アストレイア国王は、宰相と内務大臣、それに官僚たちと会議をしていた。
国王は、各官僚の報告を聞いている。
質問や指示を出しながら会議を進めていった。
会議が終わりに近づき、国王の締めの言葉となった。
「巨人勇者が今日、元の世界へ帰る。このことは内密に頼む」
そう言った後、一同を見回し続ける
「巨人勇者の召喚は、初め大きな失敗だと思った。隷属出来ない危険な存在だと」
淡々と話す国王に、一同が静かに聞き入る。
「しかし、我が国の民たちが信頼関係を築き、勇者は我が国が変わるきっかけを与えた」
国王は言葉を切り、最後の言葉を紡ぐ
「失敗から生まれる利益もある。……この改革に失敗を恐れるな!」
国王自身に言い聞かせたような言葉。
「「「はいっ」」」
一同は、大きく返事をした。
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ルイーゼ辺境伯は、哲治の帰還を残念に思っていた。
哲治の知識は、確かに驚くものばかりだった。
甘い考えを持っていたが、それも魅力と感じていた。
純粋に人間性を気に入っていた。
優しさを持ちながら、現実的でもある。
鍛えれば、面白い施政者になると感じていた。
ルイーゼ辺境伯は、哲治が残ったのなら、養子にする腹積もりもあった。
しかし、哲治は元の世界へ帰る。
それを止める権利は無い。
ルイーゼ辺境伯は、テツジシティーの方角を見て心に誓う。
『哲治が残したものを平和に繋げる。
辺境伯領がある限り。』
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いよいよ準備が整った。
哲治は、召喚された時の服に着替えた。
パーカーはボロボロになってしまったので、代わりにグラコンを羽織る。
ユニフォームなどはバッグに入れて、持って帰るものを一纏めにした。
返還の館の床に描かれた返還魔法陣の中央に座って、荷物も魔法陣の中へ入れる。
周りではルヴァンとヴァレルが中心となって、多くの魔術師たちが動き回っている。
返還の館入口に住民たちが集まっていた。
シータやラムダ、ブルーに車椅子のライナー。
世話になった人たちの笑顔があった。
ルヴァンが、
「準備万端だ。テツジ殿、申し訳なかった。そして、ありがとう」
そう言って頭を下げた。
哲治は頷く。
「では、さらばじゃ」
ルヴァンの言葉と共に、魔法陣に魔力が注がれる。
魔法陣が光りだす。
哲治は右手を上げ
「皆、ありがとう。さよなら」
哲治が、眩い光に覆われた。
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リリアーナはその頃、王宮の自室に独りでいた。
テツジが帰る頃だ。
ルヴァンにもらった召喚魔法陣のサンプルを胸に抱き。
テツジの無事の帰還を願いながら、溢れる涙を抑えられなかった。
突然、胸に抱いた魔法陣が熱を帯びた。
驚いてリリアーナは魔法陣を離してしまう。
床に落ちた魔法陣が光り輝いた。
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哲治の周りから光が消えた。
目の前には、驚いた顔の等身大のリリアーナがいた。
リリアーナが両手を広げ走って来る。
全て悟った。
「瞬間移動じゃね〜か!」
皆様、いつもお読みいただき本当にありがとうございます。
いよいよ次話で完結となります。
初めての小説投稿で至らぬ点も多々あったかと思いますが、こうして最後まで走り抜けることができたのは、ひとえに皆様の応援のおかげです。心より感謝申し上げます。
この物語をより良い形にまとめ直したいと考え、完結後、「カクヨム」にて改稿版を投稿することにいたしました。
ストーリーはそのままに、構成の整理や加筆修正を行う予定です。
もしよろしければ、新しく生まれ変わった物語も覗いていただけると嬉しいです。
それでは、最終話もよろしくお願いいたします!




