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第85話 覚悟

 哲治は、化け物に抑えつけられた。

 頭に靄がかかり、破壊衝動以外何も考えられない。


 「テツジ様ー!」


 美しくよく通る声が聞こえた。


 いつも聞いていた声。

 淋しさを紛らわせてくれる声。

 安心と励ましを与えてくれる声。


 ……魔法の声。


 魔法が上書きされた。

 頭の靄が晴れる。



 化け物は、どこから齧ろうか迷っている感じだ。

 化け物の目線が、哲治の右手を見る。


 哲治はとっさに右手を遠ざけた。

 指先に何か当たる感覚。

 折れた紙だ。


 人差し指と中指で挟む。

 引き寄せ、人差し指と親指に持ち直して紙を広げる。


 化け物の頭の口が大きく開き、涎が垂れる。


 哲治は、紙をプロテクターの上に乗せて左手で押さえた。

 右手をカーゴパンツの腿ポケットに突っ込み、蓄魔石を取り出す。


 “破裂の魔法陣”が描かれた紙。

 もう、これしかない。


 蓄魔石を紙の上に置き、化け物の胸の口にプロテクターごと押し付けた。


 起動してくれ。


 両手が吹っ飛んでもいい。

 至近距離だ。

 命もないかもしれない。

 構うものか。


 リリアーナが無事なら……。


 涎を垂らした化け物の口が、哲治の視界を埋めた瞬間、哲治の腹部から大きな破裂音が響いた。


 化け物の頭が、哲治の肩に落ちる。

 抑えられた力が無くなり、違う重量が体に伸し掛かった。



 哲治は、息を吐いた。

 ……生きている。


 自分の手がどうなったのか、見たくはなかった。

 だが、痛みがない。

 痺れた感覚があるだけだ。

 興奮と緊張が、感覚を狂わせているのか。



 ラムダに描いてもらった破裂の魔法陣。

 ポケットに入れた蓄魔石。


 今回も運に助けられた。



 体を捻り、化け物をどかす。

 化け物の上半身が滑り落ちた。


 第八師団の兵士たちや、近衛兵たちが集まってくる。

 国王たちも旧王城から出てくるのが見えた。


 哲治は、下半身に乗った化け物の体の半分を下に下ろして立ち上がる。

 覚悟を決め、自身の両手を見た。


 変わらない両手が、そこにあった。

 少しでもと思い、プロテクターを盾にした。

 プロテクターの表面は酷い有様だ。

 プロテクターを外すと、内側に魔法陣が描かれていた。



 ふと、思い出す。


 ドラゴンとの戦いの後、シータがプロテクターに何かしていた。

 ……これか!


 何の魔法陣かは分からないが、また、皆に助けられた。



 ブルーが指揮を取り、化け物の観察と解体が始まった。

 哲治は、それを見ることは無かった。


 リリアーナの顔に笑顔が戻ったことに、ホッと胸を撫で下ろした。



 化け物は、変異種だったようだ。

 異常に大きい魔石が出てきた。

 蓄魔石より少し大きい。


 あの蓄魔石は粉々になってしまったが、この魔石があれば大丈夫だと思えた。



 旧王都の視察は中止になった。



 視察団を連れ、テツジシティーへ戻る。

 補修されたリリアーナ邸で、緊急の会議が開かれる。


 哲治は、今回不参加だ。


 哲治はルヴァンに化け物の魔石を見せて、問題ないことを確認した。

 ついでにプロテクターに描かれた魔法陣を見せ

 「これ、何の魔法陣?」

と聞いた。


 ルヴァンはじっくり観察した後、

 「魔法無効化の魔法陣だな」

 そう答えたあと、続けて

 「シータか?」


 哲治は頷き、

 「……多分」


 ルヴァンが納得顔で

 「聞きに来ていたな。確か、ドラゴンが火を噴く時に口の中に魔法陣が見えたと。だから魔法を無効化出来ないかと」


 うん。

 シータありがとう。

 でも、ドラゴン倒した後に描いても……ね。

 まあ、おかげで今回助かった。


 「魔法を無効化出来るの?」

 哲治はルヴァンに聞く。


 「ああ。テツジ殿を帰還させる時に、強靭化など、かかっている魔法を無効にするために考えていたのだ」

 ルヴァンは何気に言う。


 確かに、巨人化も魔法の作用なら、このまま帰ったら大変なことになる。

 強靭化は惜しいが、もう27才だ。

 今更、プロスポーツの選手にもなれない。



 それと、ルヴァンは

 「あの旧王都の魔法陣だがな。魔素召喚と別の魔法もあった。魔素を留まらせる効果だな」


 哲治は頷き

 「息苦しかったのは、魔素が濃かったからだね」


 ルヴァンも頷く

 「あの魔法陣を止めて、魔素を払ったと言ったな。……その濃い魔素を感じて、化け物が釣られたのかもしれん。魔物のことはよく分からんが、大量の魔石を喰った化け物なんだろ?」


 あれ!?

 魔素振り払ったよ。

 呼んだの俺?

 ……黙っておこう。



 話を変え、返還の魔法陣のことを聞くと、もう少し待って欲しいと言われた。


 通信とか瞬間移動とか遊んでないで、ちゃんと頼むよ。



 満タンの蓄魔石2個に、大きな魔石。

 帰還のための魔力は揃った。


 物置も、もう無いため、返還の館もこれ以上高くしなくても良い。


 後は魔法陣だけだ。



◆◆◆


 緊急会議が、夕方に終わった。


 結論から言うと、旧王都は破棄。

 魔素召喚魔法陣も壊して欲しいとのこと。


 また、他に同じようなものが無いか、調査の依頼を受けた。



 この王国、国王は大きな判断をした。

 化け物が決定打だったのか。

 理由は分からない。


 国王は笑いながら

 「今後は、タヌキ……ルイーゼ辺境伯の開発に協力して国を発展させる。勇者殿にも教えを乞うと思う。帰還される日まで、ご協力願う」

 そう一方的に言われてしまった。



 魔素は、毒なのかもしれない。

 でも、元の世界のエネルギーも……。


 哲治は、頭を振り、元の世界へ帰れる日が近付いたことを素直に喜んだ。


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