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第84話 驕りの代償

 哲治は、初めて見た異型の魔物に思考が追いつかない。

 驚きと恐怖心で初動が遅れた。


 化け物は、旧王都の壁を簡単に破壊して、入ってこようとしている。

 哲治でも破壊出来るか怪しい壁を、いとも簡単に破壊した。


 哲治は、意を決し動き出す。

 壁を跨ぎ、旧王都を走る。


 走りながら叫ぶ

 「化け物だー!デカい化け物ー!」


 南寄りに旧王城がある。

 化け物の方が近い。


 叫びながら走る哲治に、化け物の四つの視線が向いた。


 よし、注意を引いた。



 走りながら、考える。


 バットはドラゴンとの戦いで折れ曲がって使い物にならない。

 ゴルフクラブは武器にならないと判断して持ってきていない。


 手元にある武器は、スパイクケースの中の石のみだ。

 他の魔物に対しては、この石で充分有効だった。

 ドラゴンほどの魔物はいないと決めつけていた。

 驕りや慣れがあったのは確かだ。


 ……この石礫があの化け物に効くのか?

 しかし、反省は後だ。


 他に武器になるもの……シャベルと鍬は東門の外だ。

 リリアーナの側を通ることになる。

 駄目だ、危険過ぎる。

 あの化け物が何に興味を持っているのかは分からないが、二代目クラケン号に興味を持つ可能性もある。

 絶対に視線に入れさせてはいけない。


 武器なしで戦えるのか?

 格闘技は今までやったことがない。



 化け物は、(かじ)っていたサイクロプスを投げ捨てると、ゆっくりと中に入って来た。


 化け物の全身が見えた。


 四本の足……いや、前足は手だ。

 ゴリラのように握り拳で、歩いている。


 変異種?


 魔物の変異種は、今までも見てきた。

 四本腕のサイクロプス。

 角の生えたキングボア。

 他にもいた。

 しかし皆、原型は分かった。


 大きさも異様さも、比じゃない。

 他の魔物の魔石を、どれだけ喰ったのか。

 元が何の魔物かも分からない。



 旧王城から何人かが顔を出して化け物を見ている。

 逃げるか、籠るか迷っているようだ。

 哲治にも、正解が分からない。

 「逃げろ」とも「隠れろ」とも言葉が出ない。



 魔素召喚魔法陣の近くまで来た。

 ふと、石ボールのことを思い出す。

 12個の内、9個は持って帰ったが、3個残っているはずだ。


 確か魔法陣の側に置いておいた。


 哲治は、進路を変えて石ボールを探す。

 石ボールは直ぐに見付かった。

 一つは尻ポケットへいれ、右手と左手で一つずつ持つ。

 気合を入れ直し、化け物が見える位置まで戻る。



 化け物の右手に、一人の近衛兵が掴まれていた。

 頭の右の目だけが、掴んだ近衛兵を見ている。


 他の近衛兵たちは、旧王城へ走って避難していく。


 頭の真ん中の目と左目は、哲治を観察するように見ていた。

 旧王城へ関心は向いていない。

 哲治は、ランニングスローの要領で石ボールを投げた。


 唸りを上げ、石ボールは一直線に化け物へ向かう。

 避ける素振りがない。


 化け物は左手で振り払うように石ボールを弾いた。

 勢いのある石ボールは、化け物の左手を轟音と共に破壊する。

 石ボールの軌道が変わり、化け物の右の目に深くめり込んだ。


 化け物は、咆哮を上げて、右手を大きく振る。

 掴まれていた近衛兵が手から離れ飛んで行く。

 良く聞こえるようになった耳に近衛兵の悲鳴が響く。


 助けられなかった。



 化け物は痛みのためか、四本の腕を無茶苦茶に振って暴れ出す。

 2本の足で立ち上がると、哲治よりも遥かに大きかった。


 哲治は、二投目を相手の胸を目掛けて投げた。

 キャッチボールの基本だ。

 と言っても少し高い位置に相手の胸がある。


 投げた石ボールは風を切り裂いて、化け物の胸の目に吸い込まれるように命中した。

 轟音を響かせて化け物の胸の目が破裂した。

 化け物の動きが止まる。


 やったか!?



 化け物の残った頭の二つの目が、哲治を睨みつける。


 四本の手足を使い、先程とは違う速度で哲治に迫る。

 哲治は、尻ポケットから石ボールを取り出そうとするが、なかなか出ない。


 バックステップで後退しつつ、石ボールをポケットから無理やり引っ張り出した。

 ポケットが破れた音が聞こえたが、気にしていられない。


 しかし、これ以上は下がれない。

 リリアーナが見付かる可能性がある。

 バックステップを止めて、その場で立ち止まり、投球フォームに入る。


 思ったよりも早く、化け物は目の前に迫っていた。

 石ボールで殴りつけるように投げる。

 石ボールは、化け物の左肩に当たるが、化け物の動きは止まらない。


 化け物の右手がボクシングのフックのように哲治に襲い掛かる。

 投石後に前のめりになった体を強引に後ろへ引く。

 避けきれなかった化け物の右手が哲治の鼻を掠めた。


 鼻の奥が熱い。

 鉄の臭いがする。


 ボタボタと鼻血が垂れてきた。

 頭に靄がかかる。


 ……壊さなきゃ。

 ……全てを壊さなきゃ。


 素手で化け物を何度も殴りつけるが、全く効いていない。


 化け物の顔が笑ったように歪んだ。

 そして、化け物が二本の足で立ち上がる。

 哲治よりも高い位置に移動した頭を目で追ってしまった。

 その時左斜め下から顎へ衝撃を受ける。


 頭に靄がかかったまま、哲治は尻もちをついた。

 立ち上がれない。

 足に力が入らない。


 ……壊さなきゃ。

 頭の中の靄が濃くなっていく。

 視界が狭くなっていく。


 化け物は、哲治に覆いかぶさるように、両前足手で哲治を抑えつけた。

 胸の口が大きく開いて、哲治に迫る。


皆様、お読みいただきありがとうございます。

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