第82話 先行きの不安
アリーシア帝国の帝都は、蜂の巣を突っついたような騒ぎになっていた。
最西の街に、空を飛ぶ大きな生物が現れ、街を一瞬で火の海に変えたとの報告が、次々に入ってきた。
教会の大聖堂が崩れ落ち、各所で火災が起こった。
真っ先に大聖堂が襲われたことで、民に教会不信を生み出した。
また、帝国西部軍団の将校の半数が、運悪くこの街に集結しており、全員が死亡した。
そのため軍部の統制も出来ず、パニックに拍車がかかった。
アストレイア王国への干渉を禁じた矢先の出来事だ。
それに亡くなった将校たちは、タカ派と呼ばれる強硬派だった。
アストレイアに干渉し報復を受けたとか、魔物にアストレイアが滅ぼされたなどの噂が、まことしやかに流れていた。
誰も実情が分からない。
巨人が居るという話は、事実としてあった。
その巨人が空を飛び、火を吹いたのか。
最西の街の生き残りの証言は、巨大なトカゲだったと口を揃えて言う。
巨人と巨大トカゲ。
アストレイアが差し向けたにしろ、魔物が来たにしろ、帝国も安全では無い。
帝国は見えない敵に怯えていた。
■■■
雨期が明けた。
まだ、旧王都までの道の整地が出来ておらず、焦る哲治です。
ブルーが一人で戻って来た。
ブルーから話を聞く。
国王様御一行は、王都から馬車で来る。
巡幸という体を取るらしい。
各街のドラゴンによる被害を確認してくるとのことだ。
各地を回るから、到着は20日後になるとのこと。
期限が延びてホッとしたが、国王様御一行は、旧王都での宿泊を希望されている。
魔物領のど真ん中で、宿泊を叫ぶ!
やめて〜。
そこからまさに地獄。
石大工と第八師団の兵士を連れて、旧王都へ行く。
石大工は、壁の確認と修繕。
第八師団は、石大工の護衛と旧王都内の哨戒。
旧王都内には、魔物が居なかった。
壁のおかげか、ドラゴンの影響なのかは分からない。
ただ、野営する訳にはいかないので、日が暮れる前には皆を連れて戻らなければいけない。
ドラゴンの亡骸はそのままだ。
腐ることも無く、そこにある。
こちらの世界の刃物では鱗が硬すぎて、解体出来ないそうだ。
ノコギリでの解体を頼まれたが断った。
今更、血を見るのが嫌ということではない。
心がドラゴンの解体を拒んだ。
他の魔物と、何ら変わりはない。
しかし、どこか自身に重なって見えた。
哲治は、整地作業と並行して修繕のお手伝い。
更に壁周辺の警戒、調査。
夕方に皆を送った後、夜道をひとり資材運搬。
残業、休出、週40時間越えています。
サブロク協定違反ですよー。
何とか、国王様御一行が到着する前に整地は完了した。
壁も思ったほど崩壊しておらず、石大工たちによる補修も完了した。
壁の門も、職人たちにより修繕された。
ただ問題は、旧王都に行くと数人が体調不良を訴える。
体調不良までいかなくても、皆、少し息苦しいと言っていた。
魔素召喚魔法陣を止めても症状は変わらない。
魔素は空気より重くて、壁で囲まれているから、ガス溜まりみたいになっているのかもしれない。
何か換気の方法を考えないといけないな。
でも、現状を知ってもらわないといけない気もする。
まぁ後で団扇になりそうな物を探そう。
一段落した次の日。
国王様御一行が、西第三砦へ入ったと連絡があった。
明日には、物置前……物置はもう無い。
あーもう!
……テツジシティーに来るそうだ。
水道工事の現場を視察し、旧王都へ向かう予定になっている。
水や食糧は、前もって今日、旧王都へ運んでおく。
ヴァレルも一緒に戻って来る。
ヴァレルがどこまで国王を説得出来たか、そこに期待するしかない。
魔素を止める。
この国の魔道具のエネルギー。
自分の元の世界、日本で電気が無くなるに等しい行いだ。
それに、この国の人たちの身体から魔力が無くなったらどうなるのか。
トライ&エラーとは、軽く言えない。
難しい問題だ。
旧王都の視察で、何も無いことを祈ろう。
この祈りが届かないことを知らずに眠りに落ちた。




