第79話 プレイボール
ドラゴンは、哲治の頭上をゆっくり飛んでいる。
まるで様子を見るように。
哲治の射程には入っている。
しかし、投石は避けられるだろう。
そんな距離だ。
それに、ドラゴンは警戒しているように見える。
左前足を投石で奪った相手だ。
当たり前だ。
哲治は、ドラゴンから目線を切らさない。
無意識にシータの居る旧王城を見てしまえば、気付かれるかもしれない。
守るものが有る。
これほど、心強いものはない。
守る者が居る。
これほど、臆病になるものはない。
ドラゴンが何か叫んだ。
哲治には伝わらない。
哲治は何も言わず、ただ睨みつける。
痺れを切らしたのか、ドラゴンが火を吹いた。
想定していた距離より遠い場所から。
射程が思っていたより長いのか?
慌てて、ドア盾に隠れる。
炎が来ない。
ドア盾から顔を出して確認すると、ドラゴンが突っ込んで来ようとしている。
焦って、サイドスローのように投石した。
腕だけで投げた石ボールは、勢いもコントロールも無い。
しかし、ドラゴンを警戒させるには充分だった。
ドラゴンは進路を上空に変えた。
炎で目眩ましをして近づき、体当たりか炎を吐こうとしたのだろう。
相手にも頭脳がある。
いかに相手の虚を突くか。
それが、勝敗の鍵になりそうだ。
盗塁、セーフティバント、スクイズ、それにキャッチャーのインサイドワーク。
野球には、相手の虚を突くプレイが、いくつもある。
虚を突くためには、虚を突かれないためには観察が大事だ。
状況、状態、体勢、目線。
足元の巾着袋から、石ボールを取る。
体ごと動かし、目線はドラゴンを追う。
今度は、真上から炎を吐いた。
想定の射程だ。
ドア盾を持ち上げ、頭上にかざす。
炎が盾の横から漏れ出す。
熱い。
直撃は避けられるが、周囲は火の海だ。
1、2、3、4、5……。
炎が止んだ。
5秒。
さっきの炎から、今の炎まで、5分くらいか。
無限ではないだろう。
ドラゴンは上空で、距離を取る。
■■■
ドラゴンは、朝から森を飛んでいた。
あの大男の痕跡を見付けるため。
あの大事な石も見付からない。
やはり、あの集落だろうか。
一旦、旧王都へ戻ることにした。
あいつが居た。
あの大男が。
板を持っている。
見覚えがある。
あの集落にあった、ブレスが効かない大きな建物。
その一部だ。
ドラゴンは、大男に向かい叫ぶ
「俺の大事な石を返せ!」
だが、大男は何も言わず睨んでくる。
言葉が分からないのか?
人間ではなく、この森の変異種か?
……関係ない。
こいつが現れてから、平穏が壊れた。
ブレスを吐く。
目眩ましだ。
案の定、板に隠れた。
連続で、ブレスは吐けない。
体当たりで、あの建物は壊れた。
ドラゴンは哲治に突っ込む。
不意に大男は顔を出し、何か投げてきた。
左前足を奪った武器か?
今回は、しっかり見える。
簡単に避けられるが、軌道を変えたため体当たりは難しい。
前回は、初見で不覚をとった。
もう、仕掛けは分かった。
あの速度なら、分かっていれば怖くない。
上空に行き、今度は上からブレスを叩き込む。
やはり、あの板が邪魔だ。
上空へ行き、作戦を練る。
■■■
哲治は、消耗戦に持ち込むか、短期決戦に持ち込むか迷っていた。
当初は消耗戦狙いだった。
挑発し、炎を限界まで吐かせる。
そこからの反撃。
しかし、ドア盾で炎の直撃は防げても、周りの炎は危険だ。
火傷を負えば、反撃どころではなくなる。
体感で5分が経過した。
ドラゴンが、距離を詰める。
来る。
ドア盾を構え、右目でドラゴンを観察する。
口を開き、赤い光が見えた。
盾に隠れると同時に炎が来た。
盾の両サイドから炎が舞い踊る。
5秒数え、盾を離しバックステップ。
着地した右足を踏ん張ると、スパイクの歯が地面を噛んだ。
ゆっくりと盾が前に倒れていく。
ドラゴンの顔が見えた。
左足を踏み出し、全身を使って石ボールを投げる。
指にかかった石ボールは、倒れゆく盾の上を通過し、あっという間にドラゴンに吸い込まれた。
ドォンという音が、旧王都に響いた。




