第78話 許せない相手
哲治は、魔物領を散歩でもするかのように歩いて行く。
時々出てくる魔物は、スパイクケースの石で撃退する。
元動物とか、元人間とかは考えず、作業の如く石を投げる。
哲治は、肩慣らしに丁度良い。
そう自分に言い聞かせた。
整地されていない、切り株だらけの道。
切り株を避けながら歩く。
時々立ち止まり、上空を眺める。
旧王都の壁が見えた。
一旦止まり、旧王都上空を確認する。
ドラゴンは飛んでいない。
壁に近付き、腰のスパイクケースを下ろす。
バットケースからバットを取り出して、右手でグリップを握る。
今の力なら、片手でも振り回せる。
2、3回バットを振り、感覚を確認する。
ドア盾に付けてもらったフックにバットを掛けて、片手を自由にした。
壁を跨いでから、巾着袋を地面に下ろして、巾着袋の口を開いた。
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その頃、西第三砦でライナーは目を覚ました。
酷く嫌な夢を見ていた感覚だ。
寝汗が酷い。
起きようとしたが、身体が鉛のように重く、動くことが出来なかった。
横から、声が掛かる
「ライナー、隊長。分かり、ますか?」
首だけを動かし、声の主を見る。
ラムダだった。
ライナーは答えようと口を開けるが、声が出ない。
ラムダは、ライナーの胸に手を乗せ
「無理、駄目よ」
そう言った。
胸に置いた手を、背中に回して起き上がらせる。
コップに注いだ水を渡してきた。
「ゆっくり、飲んで」
背中を支える手が暖かい。
言われた通り、ライナーはゆっくり水を嚥下した。
「喉、痛み、無い、ですか?」
横から覗くようにラムダが、心配そうな顔で聞く。
ライナーは頷いた。
ラムダは笑顔になり
「無理、駄目よ、大事に」
そう言って、部屋を出ていった。
ライナーは、苦笑した。
大工たちが、熱上げるの分かるわ〜。
内心で叫んだ。
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ラムダが部屋を出ると、クルーガが走って来た。
「おーい、ラムダ。シータ知らないか?昨日から見ていないんだけど」
クルーガが聞いてくる。
「シータ、魔法陣、描く」
ラムダが答える。
クルーガが困った顔をして言う
「魔法陣描いているのか。そうか、人手が欲しいが仕方ないか……」
ラムダは微笑んで
「ライナー、隊長、起きた、お願い」
そう言って、顔の前で手を合わす。
クルーガは笑顔になり
「ライナー大隊長の意識が戻ったのか⁉良かった!……見てくる。シータに手伝うように言っておいて」
そう言って、ライナーの病室に駆け込んだ。
ラムダはその背中を笑顔で見送り、他の負傷者の元へ行く。
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静寂が広がる旧王都。
哲治が、巾着袋の口を開けると、そこにVサインをするシータが居た。
思わず二度見した。
おい!
何してんの?
顔で語る。
シータはVサインからサムズアップに変えた。
「Θ、Σβ、※щ」
何か言っているが、全く分からん。
哲治は、冷汗を流し、周囲を見回す。
シータを掴み旧王城へ走った。
慌てているためか、足が言うことを聞かない。
ドラゴンが来る前に、何とかシータを旧王城へ入れられた。
不思議な顔をして覗いている。
シータは、また何か言っている。
哲治は、人差し指を口元で立て、静かにと念を送る。
出てくるなと、身振り手振りで伝え、直ぐに巾着袋の場所へ戻る。
何か、朝から格好つけたのに、――モヤモヤする。
ドア盾を持ち、巾着袋から石ボールを一つ掴む。
縫目は無いが、指が掛かる部分は作ってもらった。
手の中で、石ボールを遊ばせ握りかえる。
そして、深呼吸をして気持ちを切り替える。
もう一度、周囲を見回す。
崩れかけた建物。
更地になっている場所。
ここは、アウェーだ。
この前、十分に視察したが、あの時は戦う前提ではなかった。
もう一度、確認する。
瓦礫の状況。
石畳の状態。
魔法陣の位置。
昨日夜、スマホで確認したままだ。
フーと大きく息を吐く。
その時、空が翳った。
ゆっくりと上を見上げる。
許せない相手が、太陽を背に、そこに居た。




