第75話 取締役会
哲治は、次の日の朝、辺境伯領へ向かって走り出した。
二代目クラケン号に乗っているのは、ヴァレルとルヴァン、ブルー、そして紙漉き職人全員と、辺境伯領への帰還組だ。
リリアーナ王女は、お留守番だ。
二代目クラケン号は、職人たちの手で大きく改造されている。
ソリ型ではなく、沢山のタイヤが着いた。
サスペンションも拙い説明で作ってしまった。
今回、いつもよりも乗車人数が多いが、いつもよりも速い。
前面もガラスが付いた。
ほぼ大型バスである。
辺境伯領へ到着し、乗客を降ろす。
ルイーゼ辺境伯は、
「王都にテツジ殿が行くことを先触れしておいたの。このまま向かうじゃの」
そう言って、何も聞かず送り出した。
ヴァレルとルヴァン、そしてブルーのおじさん三人衆を乗せて、二代目クラケン号を走らせる。
辺境伯領から王都の道は、それなりに人々が行き交っているので、常に前方と上空を確認しながらゆっくり走る。
王都の南側に着いた。
もう存在もバレているので、南側から王都の西門まで周る。
並んでいる人たちに迷惑にならないように
ゆっくり歩いて行く。
しかし、西門には人影が無かった。
西門は、崩れていた。
城壁越しに街を見ると、広範囲に燃え落ちた跡がある。
大火事があったのか?
否、ドラゴンの仕業か!
西門付近で片付けをしている兵士に声を掛けた。
兵士は見上げて、驚いて数秒固まった後、走って行った。
西門で待っていると、馬に乗った兵士がやって来た。
南側で待機してほしいと国王からの伝言だった。
哲治たちは、西門を離れ南側へ向かう。
間を置かず、立派な馬車が走って来る。
周りには多くの騎馬が並ぶ。
哲治は、胡座をかいて地面に座る。
おじさん三人衆は、姿勢を正し、立ったままお出迎えだ。
簡単な椅子と机が用意される。
向こう側に国王と、もう一人――宰相と自己紹介された。
こちら側はおじさん三人衆が椅子に座る。
哲治は、お誕生日席だ。
さて、臨時青空取締役会の開催だ。
まずは、副社長……もとい宰相が口を開く。
ドラゴンが来た顛末を語る。
山脈を越え、帝国領へ行ったところまで情報が入っていると教えてくれた。
国王が、何があったか聞いてきた。
ヴァレル専務が代表し、順を追って説明する。
魔物領の奥で哲治とドラゴンが出会ったこと。
大火傷を負い10日間意識不明だったこと。
そして、ドラゴンが街に来たこと。
国王と宰相は、口を挟むことなく静かに聞いていた。
話が核心に入った。
「テツジ殿が旧王都を見付けました」
ヴァレルが静かに言った。
国王と宰相は同時に目を見開く
「まことか?」
ヴァレルは深く頷き、膝に乗せた資料を兵士に渡す。
兵士はそれを宰相へ渡した。
哲治もスマホを取り出し、電源を入れる。
鳴った機械音に皆が注目した。
『会議中はスマホ、マナーモードにしておけよ』
先輩の言葉が頭をよぎる。
哲治は首を二度振り、スマホの操作を続ける。
画像を開き、国王と宰相に見えるようにした。
国王と宰相は口を開きポカンとしている。
なんか無性に可笑しくなるが、必死に笑いを堪えた。
スライドして画像を見せる。
そして魔法陣も。
ヴァレルが国王に向かい、昨日、話し合った話をゆっくりしていった。
国王も表情を戻して、ヴァレルに向き合う。
話を聞き終わり、国王は、唸った後、
「魔法陣の件は、少し待ってくれ。魔素が無くなった場合の状況が掴めない」
そう言った。
宰相が続けて
「ヴァレル・ワイト魔術大臣と、ブラッド・ルイーゼ軍務大臣は残ってもらえないか。この件に関しての話を詰めたい」
そう言って会議が締めくくられた。
最後に国王は、哲治に向かい
「巨人勇者よ、あのドラゴンを倒してくれ。王国に害なすものだ」
そう言った後、立ち上がり
「お願い申し上げる」
深く頭を下げた。
プライドを捨てた……いや、崇高なプライドを持った大人のお辞儀だった。
哲治は即答出来ず、複雑な心を持て余した。




