第7話 それぞれの思惑③~第一師団第43中隊 隊長シュメル~
半年前、王国史上初の“多人数召喚”が、行われることが決まった。
その二か月後、第一師団の中隊長全員に、集合がかかった。
この王国は、軍部が、第一師団から第八師団まである。
それぞれ、約一万人の兵士が在籍している。
そして、第一師団は、貴族の子息、民間でも優秀な者が集められていた。
第一師団は基本、王都及び周辺の警備に当たる。
優秀な者が多いが、比較的安全な配属先だ。
いくら比較的安全な配属先でも、中隊長が全員集められることはない。
中隊長だけでも、70人以上いる。
それが、一同に集められた。
何か、異変でも起こったのかと、ざわめきが収まらない。
師団長が現れると、ざわめきが一瞬で消える。
全員が、敬礼で迎え訓示を待つ。
師団長は、一段高い壇に立ち、空咳をした後、中隊長たちに向けて言葉を放つ。
「諸君、四か月後に、召喚の儀が行われるのは聞いているな。その召喚の儀の護衛任務を、この第一師団が、受け持つこととなった。これは、軍務大臣からの指令である」
シュメルは、驚いた。
召喚の儀は、安全であり、万が一というよりも、威厳・風格を出すためだけに、軍部が参列するのが習わしだ。
そのため、第八師団の一中隊が、持ち回りで行うと、聞いたことがあったからだ。
しかも、軍務大臣からの指令だ。
「そこで、自薦を求める」
師団長が、続ける。
「まあ、何の功績にもならん任務だ。奇特な中隊長は居るか?」
ハハハと、自嘲気味に笑う。
少し、ざわめきが起こる。
皆、他の中隊長の出方を伺う。
横目で見ると、隣の中隊長も、無表情の中に戸惑いが見て取れる。
安全なはずの召喚の儀に、わざわざ第一師団が参加する。
しかも軍務大臣の指名というオマケ付き。
何か、裏があるのか。
なくても、師団長の言う通り、何の功績にもならない。
しかも、任務に約一か月を要する。
その間の、自分の本来の任務地、任務時間の調整は、中隊長の仕事だ。
誰も進んで、やりたがらないだろう。
「やはり、居ないか」
師団長は、納得した顔で頷くと、
「今回、カリス最上位魔術師が、召喚の儀の指揮を執るとのことだ」
シュメルは嫌な予感がした。
ルヴァン・カリス召喚魔術師は親戚筋だ。
庶民の出でありながら、最上位魔術師に任命された親族一同の誇りだ。
シュメルも、庶民出でありながら、第一師団の中隊長に任命された時、家族や近しい親戚から、誇りだと言われたが、遠い親戚筋からも、誇りだと言われるルヴァンには、敵わない。
嫌な予感は、当たる。
「そういえば、第43中隊、シュメル中隊長。貴殿は、カリス卿の親戚筋だったな」
第4大隊隊長の声が響く。
「そうか、それなら、カリス卿も安心だろう」
師団長が大きく頷き、シュメルを見る。
汗が、背中を流れる。
シュメルは、心と裏腹に、右手を高く挙げ、
「はい。第43中隊シュメル、この任務に、立候補いたします」
「うむ。あい分かった。滞りなく、任務を遂行せよ。以上、解散!」
弛緩の空気が周囲から漂う。
心臓が、脈打つ音が聞こえてくる。
シュメルの悲劇が、始まる合図のように。
他の中隊長に同情されながらも、嫌味を言われ、諸々の調整を済ませた。
召喚の儀、15日前。
シュメルたち第43中隊は、王都を出立した。
馬車で、10日ほどの距離である。
シュメルは、馬に跨り、馬車に歩調を合わせながら、西へと進んでいく。
召喚の館から一番近い砦へ、何事もなく、出発から9日目には到着した。
砦に在任している、第八師団の大隊長へ挨拶に向かうため、部下2人を連れ入っていく。
第八師団の大隊長は、実に不愉快な男だった。
“横柄で粗暴”、それがシュメルの印象であった。
第一師団の方が中隊長とはいえ、格が上である。
部下たちは、不満を表に出していたが、シュメルは、一晩の辛抱だと言い聞かせ、そつなく対応していく。
召喚の館に到着後、建物の中はもちろんのこと、周囲の見廻りを行う。
召喚の館には、物理的にも魔法的にも厳重な施錠が、施されている。
ただし、第一師団には、召喚の儀の警備の経験がないため、第八師団に教示された以上に、警戒に当たった。
ついに、当日の朝を迎えた。
日の出とともに、召喚の館に向かい、入口を警備する兵士たちに、敬礼で迎えられ、入館する。
ルヴァン・カリス最上位魔術師が、テラスを降りてこちらに近付いてきた。
「シュメロ中隊長、本日は、よろしく頼むよ」
話は、親や親戚から聞かされていたが、会うのは初めてである。
名前も微妙に間違えられ、尊敬の念よりも、仲間たちからの嫌味や、第八からの侮蔑が脳裏をよぎる。この人と親戚だったがために…。
シュメル中隊長は、敬礼しつつ、
「はっ。召喚の儀が安全に完遂するよう、第一師団第43中隊150名、全身全霊で任務に当たります」
部下たちに、配備の最終確認を行う。
弓兵、魔術兵はすでに両脇のテラスで待機している。
槍兵も、何十人かを魔法陣のフロアへ移動させる。
出入口には、自分を含め、槍兵を配備する。
王女殿下もおられるが、自分の立場では挨拶はできない。
王女の周りには、王宮近衛兵が警護に当たっている。
いよいよ、召喚の儀が始まった。
ハズレ任務に嫌気はあったが、滅多にできる経験ではないので、土産話にでもしようと魔法陣を注視する。
眩しい光が、魔法陣から発生する。
甲冑兜の細いスリットから、目を焼き尽くさんばかりの光が入り込む。
大きな破壊音が、聞こえた。
目を開けると、巨大な壁がそこにあった。
召喚の館の両脇の壁は崩れており、天井も一部を残して突き破られていた。
ステージ状になった部分にいた人間以外、生きていないのでは…と、思った次の瞬間、壁の一部が大きく割れ、巨大な塊がこちらへ向かってきた。
その塊は、人の姿をしていた。
王女陛下を掴み上げ、持ち去っていく。
あまりの早業に、周囲も含め、なす術がなかった。
「魔物か?巨人…」
魔物領にも、巨人がいると噂で聞いたことがある。
“サイクロプス”と呼ばれる、単眼の巨人らしい。
しかし、その巨人は10mほどだと言う。
10mは、遥かに超えていた。
そしてまた、巨人が現れた。
ステージ下で、生き残っていた魔術師を捕まえていく。
ルヴァン・カリスが、捕まったのが見えた。
「非常事態だ!このままでは、全滅する。砦に、応援要請!王都へ報告!」
シュメル中隊長は、周囲に叫んだ。
と、同時に部下たちが一斉に動き出す。
一か所しかない出入口に集まってくる。
シュメルは、違う恐怖を覚え、出入口から出てしまう。
指揮官が、真っ先に現場を離れることは禁忌だが、殺到する兵士たちに、圧倒されてしまった。
ここに残っていても、死ぬだけだろう。
とにかく、砦と王都に見たことを伝えなくては。
敵前逃亡は、死罪に値する。
同じ死ぬなら、少しでも役に立たなければ
「行くぞ!」
そう言い、シュメルは、近くにいた部下二人とともに、長い廊下を走る。
外に出て、馬を2頭ずつ厩舎から出す。
途中でつぶれた場合の保険だ。
他の兵士たちは、建物からまだ出てこない。
しかし、報告を優先させなければならない。と、言い聞かせ、馬に跨る。
3人と6頭は、東へ草原を駆けていった。
まるで、罪悪感から逃げ出すように。




