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第68話 巨人を動かせ

 意識の無いテツジが、そこに横たわっていた。


 顔に火傷跡は無いものの、髪は焼けた跡がある。


 ライナーはテツジの顔に近付く。

 息遣いは少し荒いが、しっかりしている。


 更にテツジの顔に近付き、ライナーは素手でテツジの鼻をペチペチ叩いた。

 テツジの口が少し反応したが、目を覚ます様子はない。


 テツジの顔は熱を帯びているようだ。


 ライナーはどうすべきか悩んでいた。



 その時、三台の荷車が土煙を上げ走り込んできた。


 先行して来た一台の荷車から、クルーガが降り大きな布を下ろそうとしていた。

 ライナーは集まった兵士たちに手伝うように指示を出す。


 遅れて着いた残り二台には、水が積んであった。


 クルーガの指示で、大きな布を濡らし数人で絞る。

 その濡れた布をテツジの火傷した左前腕に被せる。


 空になった荷車は、急いで戻って行く。

 入れ違いにもう一台の荷車が来た。


 御者が降りると、荷車に積んだ紙の束を抱えて走ってくる。

 「ライナー大隊長。ルヴァン卿より渡された風の魔法陣です。魔石も有りますので、濡れた布に風を当てるようにと」


 「風を当てるのか?」


 「気化熱がどうとか……すみません。よく分かりません」

 そう言って、御者は頭を下げた。


 ライナーは、

 「すまない。……俺も動揺しているな。ありがとう。ルヴァン卿の言う通りにしよう」


 ライナーは、何も考えず飛び出した自分を恥じながら、ルヴァンの落ち着いた対応に感謝した。



 第八師団第二大隊の兵士たちは、全員集まっていた。

 防壁の見廻りは、第三砦に詰めている大隊が引き受けてくれた。


 兵士の半分は鎧を脱ぎ、濡れ布の交換や風の魔法陣を使い、テツジの腕を冷やしていた。

 テツジの頭にも濡れ布を掛けている。

 数人が土台になり、そこにまた何人か乗り人間脚立を形成して濡れ布を掛けていた。


 残り半分は魔物領の警戒に当たる。

 誰も文句どころか、不満な顔は見えない。

 ただ、不安な顔が見える。



 日が低くなり始めた頃、石大工や職人たちが荷車を曳いて歩いてきた。


 石大工や職人たちが、テツジの姿を確認し話し合いを始める。

 ものの数分で話し合いは終わり、動き出した。


 職人たちがテツジの右横に溝を掘りだす。

 その溝に石大工たちが、石の塀を作っていく。

 幅は約2メートル。

 それを等間隔に8箇所。



 木工職人たちは、テツジが魔物領から伐採して防壁近くに置いておいた木を加工し始める。


 皆、必死にやれることをやる。

 ライナーも鎧を脱ぎ、走り回っていた。



 夜になっても、篝火を各所で焚き、作業が続けられる。



 次の日の朝、食糧と一緒に大量のロープが届く。

 シータも一緒にやってきた。


 シータは、いつもの無表情だが疲労の色が見える。

 火傷治療の魔法陣を大量に描いて来ていた。


 ロープが下ろされ、強度や長さを職人が確認していく。

 テツジの体にロープを巻き、皆で引っ張って、テツジを仰向けにする作戦だ。

 その時に、簡易のソリに乗せ運ぶ計画になっている。


 この場には、兵士、職人、住民合わせて500人以上集まっている。

 皆で力を合わせて引っ張る。

 動かなければ、キャプスタンを設置する予定だが時間がかかり過ぎる。

 雨や不測の事態を避けるためにも、人力で動いてくれることを祈る。


 テツジが目を覚ますことが一番良いが。



 ロープをテツジの体に巻く作業が問題だった。

 左足首は簡単に巻けた。

 左膝部分も、力自慢たちがテツジの左足を持ち上げ、テコを使い何とか巻くことが出来た。


 問題は肩、胸、腰部分だ。

 体を持ち上げられないため、ロープが巻けない。

 テツジの体の下に穴を掘る案も出たが、土が硬いため時間がかかり過ぎる。



 まだ、簡易ソリも完成していないため、試行錯誤を繰り返す。



 さらに次の日の昼に簡易ソリが出来た。

 長さ30m、幅10m。

 軽量化のため、所々穴が開いている。

 ソリの下には、丸太の"ころ"が敷かれている。



 現場にヴァレルとルヴァンも来ていた。

 テツジの右横に作った、支点となる石塀に"強靭化"の魔法陣を描いていく。



 その時、見慣れない馬車が二台走ってきた。


 ライナーの側に止まると、馬車からブルーと煤だらけの男たちが降りてくる。


 煤だらけの男たちは、もう一台の馬車に行き、見たことのない素材……いや、テツジに見せてもらったことのある素材……確か、プラスチックと言っていた。

 その大きな箱を運び出した。


 中を開けると、"し"の字をした金属が数個入っていた。


 ブルーが、

 「テツジが以前、釣りに使う針を『もう釣りしないから、あげる』と言って、辺境伯に渡した物だ」


 ライナーは困惑する。

 構わず、ブルーは続け、

 「鍛冶師が潰さずに持っていた。これ使えないか?」


 ライナーの周りに集まってきた職人たちから声が上がる

 「これ、返しが付いている。テツジの服に引っ掛けられるぞ」

 「服が破れるかもしれん。補強を考えよう」

 「この金具にロープは結べるか?」

 「何とかしよう」

 そう言って、釣り針を抱え職人たちは走って行った。



 簡易ソリの上に青いシートを広げ、10本のロープを各40人が持つ。

 残り100人は、テツジの左側で、テコを使い持ち上げる係りだ。

 見張りの5、6人を残し兵士も全員参加している。


 ブルーの掛け声で、一斉にロープが引っ張られる。

 ピンっと張り詰める10本のロープ。


 切れないようゆっくりと、ブルーの掛け声に合わせ引っ張る。



 テツジの体が少しずつ動いていく。

 支点の石塀に引っ掛かり、左半身が上がって行く。


 頭部分には大量の藁が敷かれ、左腕はロープが巻かれテコ係が、ゆっくり下ろすために反対側から引っ張っている。



 テツジの巨体が音を立て、青いシートの上に仰向けになった。


 500人の歓声が、防壁に響いた。


皆様、お読みいただきありがとうございます。

今回は2話連続投稿します。

第69話も是非お読みください。

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