第66話 西へ西へ
暖の季節になった。
哲治は、魔物領の開拓ではなく、西へ進む。
ヴァレルから、昔の王都の場所を聞いた。
ハッキリとした位置は分からないが、高い山の近くにあったと。
高い山を目指していたのは、間違いではなかった。
これも、何か見えない力が働いたのだろうか。
木を切りながら進んで行く。
切った木は、持ち帰る。
切り株はそのままだ。
魔物領の木は住宅建設や紙に使われる。
焦る気持ちもあるが、シティーに集まってくれた人たちのために、独り善がりには成り切れない。
奥へ行くほど、木も高くなってくる。
自分の背丈より高い木もザラだ。
以前よりも力が強くなっている。
大きな木も難なく運べる。
魔物化が進んでいるとは、考えたくない。
ゴブリンモドキの時から、自分の肌の色を気にしている。
しかし、毎日見ていれば、変化に気付き難い。
哲治は、王都から久し振りに戻ったヴァレルに、自分の身体に変化がないか聞いた。
ヴァレルは、しっかり観察した後、「大丈夫だ」と言ってくれた。
優しい嘘ではない。
ヴァレルは、そういう人ではない。
シティーの人間は信用している。
とにかく西へ。
朝日を背に魔物領へ入り、夕日を背に魔物領を出る。
返還の館も気になるが、なぜか西に誘われている。
やがて、魔物領の高い山に近付く。
その麓に、拓かれた場所があった。
壁が見えた。
魔物領との境にある塀と同じような壁。
形は直線ではなく、王都で見た城壁に似ている。
木を切り倒し、壁までの道を作っていく。
壁越しに見ると、建物の残骸も疎らに見えた。
壁を跨ぎ、元王都と思われる場所に入る。
少し息苦しさを感じる。
それと同時に、力が漲る感覚もある。
初めての場所だ。
緊張感があるのだろう。
王城らしき建物があった。
その建物に向かって歩いて行く。
その時、一瞬空が暗くなる。
空を見上げると、大きな“何か”がいた。
鳥とは違う、何か。
空を飛ぶ魔物は見たことがなかった。
コカトリスは翼を持っているが、飛ぶことは無かった。
爬虫類。
トカゲが、空を飛んでいるようだ。
哲治は目線を切らさないように空飛ぶトカゲを追い、耳は周囲を注意する。
グラコンのポケットに右手を入れ、中の石を一つ握った。
トカゲが、ゆっくりと降りてきた。
哲治の30mほど先に。
背丈は自分と、そう変わらない。
恐竜なのか!?
首は少し長く、足は胴の横からではなく、動物と同じように生えている。
翼は大きくなく、あれで空を飛べるのかと思うほどだ。
翼竜が吠えた。
「#√∇%∌、∬∂∠」
言葉にも感じる。
分からない……。
哲治は、グラコンのポケットから右手を出し、そのまま石を投げる。
先手必勝だ。
翼竜が再び口を開ける。
音ではなく、赤い光が口から放たれた。
炎だ!
火炎放射器のような炎が哲治を襲う。
両手で顔を隠しながら、哲治は反転し、走り出す。
熱い。
痛い。
髪の毛から嫌な匂いがしている。
城壁を走り飛び、東へ逃げる。
切り株が足を取る。
ちゃんと整地しておけば良かった。
そんな意味の無いことを考え、痛みを忘れたかった。
どこをどう走ったか分からない。
どれくらい走ったか分からない。
あの翼竜型の魔物は追って来ていないのか。
振り返ることもできない。
確認したい気持ちはあるが、振り向いてあの魔物がいたら、足がすくんでしまう気がした。
空を飛ぶ魔物。
追って来ていないことを必死で祈る。
逃げ切らなきゃ。
その一心で足を動かす。
肺が焼けるように熱い。
炎を吸い込んだとは思えない。
霞む視界の中に塀が見えた。
走り超えしようとしたが、足も身体も限界だった。
塀に躓き、地面に叩きつけられた。
……そして、意識が闇に呑まれた。




