第64話 技術と平和
ルイーゼ辺境伯領。
ソロモン・ルイーゼは、哲治との話し合いを心待ちにしていた。
テツジ殿の世界は、この世界よりも何百年、いや、何千年も先を行っている。
人を運ぶために、鉄の箱が大地を走り、海を渡り、空を飛ぶ。
しかも、魔法ではなく技術でじゃ。
空を飛ぶと言うのが理解できなかったが、テツジが紙を折って作った“紙ヒコウキ”には、たまげた。
テツジの国は平和だと言っていたの。
ただ、他の国では争いが有ると。
高い技術が、争いに使われていると。
そして、全世界を滅ぼす兵器まであると。
全く想像がつかないじゃの。
でも、テツジ殿が言うことは、嘘ではない。
こんな話もしていたの。
争いが技術を磨いたのかもしれないと。
他国よりも優位に、他人よりも優位に。
世界は違えど、人間とは同じじゃの。
この国も帝国に飲み込まれないように、背後の魔物領の対応を異世界人に任せている。
いや、正確には"やらせている"じゃの。
鉄道が出来れば便利になるの。
海鮮を新鮮な内に運べるようになるの。
しかし、多くの人を早く運べるなら、戦局は大きく変わる。
テツジ殿が引っ張る、"クラケン号"のような速度で走る荷車が出来たら、それが鉄で出来ていたら、帝国に勝てると考え出す人間もいるはずじゃ。
便利なものが、争いを産むのかの。
争いが、便利なものを産むのかの。
わしも、まだまだじゃ。
平和を願うテツジ殿の考えは、崇高過ぎるの。
こちらが平和を望んでも、それを許さない者もいるじゃの。
テツジ殿のような、圧倒的な力と知識がなければ、平和は叶わない。
やはり、他者より技術も力も圧倒してからじゃ。
まだまだ、死ねんじゃの。
■■■
アリーシア帝国領西部の街。
帝国軍西部軍団のタカ派が集まり、また軍議を開いていた。
「帝王陛下からのお達示は聞いているな?」
ひとりが静かに話し出す。
「ああ。アストレイアの干渉を止めろと言う命令だな」
「陛下も日和ったか⁉」
別の男が怒鳴った。
「おい。陛下を侮辱するのか!」
静かに言いながら、右手は剣の柄を掴んでいる。
「あ……申し訳ない……」
怒鳴った男が、頭を下げる。
「ネズミはどうする?全員撤退させるか?」
剣の柄から手を放し、男は言った。
「どうすると言っても、連絡が取れない。潜り込ませた商人も戻ってこない」
「アストレイアで何が起っている?」
誰も答えられず、沈黙が続いた。
タカ派の中でも、アストレイア不干渉の達示に安堵する者も数人いた。
■■■
アストレイア王国。
王城の国王執務室。
窓のないこの部屋に、魔道具に照らされた二人の影があった。
アストレイア国王と宰相である。
国王が宰相に向かい言った。
「タヌキから書簡が届いた」
宰相は一瞬眉毛が動いたが、無表情のまま
「何と書かれていましたか?」
そう聞いた。
「まずは、学校の件だな。王都並び、王国中の街や村に学校を設立しろと。巨人勇者が居る内に教育者を育成しろと」
「そうですか。確かに辺境伯の学校で、埋もれていた才能が開花した庶民も居るそうですね」
「まあ、学校に関しては、皇太子も賛成のようだったな」
国王は苦笑いの後、
「巨人勇者が、元の世界の技術を語っているようだ。面白いのが、鉄道というものだな。人や物を馬車よりも早く運べるそうだ。それには蒸気機関というものが必要らしい」
「じょうき……ですか?何ですかそれは?」
「湯を沸かして、その水蒸気で風車のようなものを回し、動力にするようだ。これを、王国を上げて開発しようと」
「珍しいですね。タヌキが共同を持ちかけるとは」
「ああ。最後にこう書いてあった。……帝国を上回るには技術で先を取るべし、とな」
「我が王国には、魔法部隊がおります。旧王都が見付かり、旧魔術が復活すれば、帝国など目ではありません」
「東の山脈を作ったとされる昔の魔術師のようにか。“眉唾”と言ったのは宰相だぞ」
国王は、笑みを作り。
「まあ、旧魔術はあやふやな存在だ。技術で馬車よりも早い荷車が出来れば、兵や兵站の輸送に革命がおこる。ひとつ、乗ってみようと思う」
「そうですね」
宰相が頷く。
「タヌキは、技術を抑止力にしろと」
国王は息を吐き、静かに言った
「……帝国を蹴散らし、覇道を求める方が恒久な平和へつながる」




