第6話 腹が減っては…交渉します
この話は、主人公目線です。
第7話、第8話は別視点になります。
哲治は、飼育ケースから近衛兵のピピンを掴み上げ、目の前に持ってくる。
ピピンは、何か騒いでいるが、気にしない。
「俺の名前は、なが…いや、テツジだ。お前の名前は?」
「化物に名乗る名はない!」
こいつ、状況分かっているのか。と、思いながらも、じっと待つと、
「ピピン。名乗りなさい。反抗しないで」
隣の飼育ケースから、リリアーナ王女が叫ぶ。
ピピンと呼ばれた男は、不満顔のまま言う。
「ピピン侯爵家次男、アルバート・ピピンだ」
「では、ピピン殿。今から貴殿を解放する。ただし、使者として、だ」
「使者…?」
「王国なら王様か。王様に、条件を飲んでもらいたい」
「…不敬な!」
「ピピン!」
王女が再び叫ぶ。
「ど、どんな条件だ?」
「まずは、食糧と飲み水を明日から、毎日提供すること。もう一つは、この白服のおっさんが、俺を元の世界に返せるようにすること…だな」
「待て、明日からは、無理だ」
「なぜ?」
「ここから王都まで、早馬でも7日は掛かる。王都に着いても、国王にすぐに謁見できるわけではない」
「ん?…王女が居るのに?」
と、王女の方を見ると、青ざめた顔をしていた。
「砦、そう砦から、食糧と水を運ばせればいいわ」
王女が、慌てた様子で叫ぶ。
「砦は、遠くないのか?」
「馬で駆けて、2時間ほどだ」
「馬、居るのか?」
「外に何頭か、繋いでいるはずだ」
哲治は、先ほど、外で大暴れした時のことを思い出す。
外に馬らしき生物は、居なかった。
周囲の建物も壊してしまったので、生き埋めにしてしまったかもと、申し訳ない気持ちになった。
「では、今からその砦に向かい、交渉してきてくれ。条件は、この4人の安全の保障と、そうだな、さっき言っていた魔物の駆逐?開拓だっけ。手伝ってもいいぞ」
「…分かった。まずは砦に行き、その条件を伝えよう」
「ちゃんと、国王にも言えよ。それと、食糧や水に毒でも入れたら、王女様死んじゃうよ」
「貴様。王女殿下を毒味役にするつもりか?」
やっぱり“毒”あるのか。
時代劇の定番だから言ってみたけど、ファンタジーにもあるんだな。
まあ、人間なんて、考えることは同じか。
「それはそうだろう。お前らのこと、一切信用していないし。もし、明日、太陽が中天に差し掛かる前までに食糧が届かなかったら、王国を潰しまーす」
宣誓のように、左手をビシッと挙げ、哲治はニヤリと笑った。
5人の小人は皆、驚愕の表情を見せる。
これだけ脅せばいいだろう。
と、哲治はピピンを持ったまま外に出る。
瓦礫を超え、土が見える部分にピピンを降ろす。
「じゃ、よろしく」
そう言って、哲治は踵を返し物置へ戻っていく。
ピピンは、茫然と見送りながら、地面にへたり込んでしまった。
哲治は、物置に戻ると、扉を閉める。
幸いこの物置には、明り取り用の窓が付いているため、真っ暗になることはない。
ケースの前に座り、
「今度は、お前の話を聞こうか」
白い服の小人を見詰める。
白服の小人は、ルヴァンと名乗った。
大泥棒に名前が似ているので、覚えやすい。
「なるほどね~。8年毎に異世界人を召喚して、奴隷化して魔物と戦わせてきたのか。非人道的と言うか、何と言うか。国民には“勇者召喚”とか言って美談にしていたのか~」
ルヴァンの話を聞き、哲治は複雑な気持ちになっていた。
目の前に、自分たちを守るツールがあり、それが常態化していたら、異世界人の人権がどうのとか、命がどうとか、考えられなくなるのかな。
でも、国民には胡麻化していたのだから、非情なことをしているという意識はあったのか。
いや、多分、国民からの反発を恐れたのだろ。
哲治は、今まで“キレる”ということは、一度もなかった。腹が立つことも、怒りが湧くこともあったが、決して我を忘れる状態になることはなかった。
しかし先ほど、まさにキレた。
ルヴァンの話を聞き、『狂暴化』の魔法がかかった状態ということが分かった。
魔物に怯えてしまい、戦力にならない異世界人がいたため、この魔法が開発されたらしい。
彼の話によれば、催眠魔法と違い、一過性のものではなく、本来は狂暴性が続くそうだ。
魔物以外を襲わせないため、隷属の首輪で支配していたらしい。
もしかすると、今は治まっているが、何かの拍子に狂暴性が顕在化するかもしれない。
さっきは、自分の血を見た瞬間、我を忘れた。
それが“トリガー”なのかもしれない。
とにかく、注意をした方が、良いだろう。
ルヴァンとの会話が終り、物置を出る。
返還魔法には莫大な魔力が必要だという。
瓦礫を掘り返し、畜魔石という透明の石を探す。
ルヴァン曰く、畜魔石が三つは欲しいそうだ。
ここに二つ埋まっているが、もう一つは魔物領で、見付けるしかないとのこと。
瓦礫をどかしていると、小人…いや現地人たちの惨たらしい亡骸を、何体か見付けてしまった。
苦しい気持ちに、『呼んだお前たちが悪い』と、転嫁しながら、畜魔石を探す。
ほどなく、言われた場所付近で、畜魔石を見つけた。
少し重いが、持って歩くことも可能だ。
畜魔石は、魔力を溜める性質があるという。
自然に溜まるには、7年かかるらしいが、魔物を倒した際に、魔素が排出されるので、それにかざせば、早く溜まる可能性があると、言っていた。
あくまで可能性らしい。
畜魔石を物置に運び、ルヴァンに確認すると、彼は頷いた。
不意に、尿意を催した。
朝から、かなり時間がたっている。
彼らも、生きているのだから、生理現象はあるだろうと考えに至る。
さて、どうしたものか。
人質ではあるが、人権は無視できない。
自分の用を、まず外で済ませてから、物置の中で、使えるものはないか物色する。
ブルーシート、寒冷紗は目隠しに使える。
プラスチック製のプランター、家庭菜園用の土。
急場しのぎで、簡易のトイレを作ることにした。
のこぎりで、プランターの側面に途中まで切り込みを2か所入れる。切り込みと切り込みの間は10センチくらい。
使い慣れていないためか、切り口は綺麗とは言えない。
そして、その部分を思いっきり外側に折る。
カッターを入れ、戻らないようにする。ここが入り口になる。
そこから土が漏れない程度に、家庭菜園用の土を入れる。
薄いレンガが有ったので、足場にするため土に埋める。…出来上がり。
それを二つ作り、一つは物置の奥の棚の下に置く。
棚からブルーシートを垂らし、目隠しにする。女性トイレ完成。
もう一つは、入口付近に置いて、終わり。男性トイレ完成。
我ながら、素晴らしい出来だ。
4人を飼育ケースから出し、トイレの説明をすると、灰色服の魔術師――クルーガという名前――が、一目散に走って行った。
女性陣は、ブルーシートの奥に行くと、「ありえない!」「無理よー」と絶賛の嵐だった。
ルヴァン、君は大丈夫か?年を取ると、近くなるんじゃないのか?
この時、ついでに、彼らのサイズをメジャーで測らせてもらった。
女性二人が11センチ無いくらい、男性二人が11センチ少しあるくらいだった。
女性が160センチ。男性が170センチだと仮定すると、実に1/15サイズである。
この世界から見たら、哲治の身長は175センチ×15倍で、26メートル強ということになる。8階から9階建ての建物に匹敵する。そりゃ大巨人だ。
そうすると、体重は15の3乗倍になるんだったけ。
でも、何ら自分の感覚は変わらないな。
友人が言っていた、“ご都合主義”かね。
一仕事終えると、物置の中は薄暗くなっていた。
外に出ると、左の方に太陽が見える。
扉を閉め、沈みゆく太陽に向かい歩き出す。
西の方角に、魔物領があると聞いたので、見られるなら見ておこうと思い歩き出した。
自分のいた世界の常識を当てはめ、西はこっちだろうと向かったが、はて、この世界の太陽も、東から昇って、西に沈むのだろうか。
まあ、いいか。
そう思いながら10分ほど歩いていくと、5~60㎝ほどの塀があった。
左右、この場合南北だろうか、一直線に塀が出来ている。
魔物の侵入を防ぐ塀か。
そう思い、塀の先を見ると、少し先から森になっていた。
あれが魔物領なのだろう。
帰り道、明日の朝の“大きい用”は、どうしようと考えていた。
周囲に何もないし、開放的にするしかない。
大きい問題は、ペーパーレスということだ。
日が沈みかけ、少し冷えてきた。
彼らの寝床も、用意しないといけない。
何か、使えるものを探さないと、な。
やはり腹は減っていない。
彼らの晩御飯は、おにぎりを四等分すればいいだろう。
茜色の光を背に、巨人は、ひとり歩いていく。




