第56話 相談と言う名の
アストレイア王国の東、アリーシア帝国西部のとある街。
重厚な石造りの建物の中、軍服を着た人たちが、大きな丸いテーブルを囲い座っている。
「アストレイアのネズミから連絡が来た」
「巨人の件か?」
「否、シギリードが粛清されたそうだ」
「やはり、無能は無能か」
低い笑い声が起こる。
「まあ、計画は良かったが、例の巨人だな」
「ああ。詳細は不明だが、シギリードの破滅は彼奴の仕業らしいぞ」
沈黙が流れる。
この面子は、アリーシア帝国、西部軍団のタカ派の集まりであった。
「今回の件で、アストレイアが落ちなかったのは痛いが、それ以上に巨人が厄介だ」
「シギリードに接触させた中尉が、西の山で遭遇したと聞いたが」
「ああ、あれは手に負えないという話か」
「演習の大佐が同じことを言っていたな。しかも、アストレイアの皇太子が、巨人を“わが国の勇者”と言っていたそうだ」
「アストレイアの腰抜けが、我が帝国に歯向かうとは思えんが、巨人は注視した方が良いな」
「ネズミを増やしましょう」
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異世界に来て、一年が経ちました。
めでたい話ではないので、一周年記念パーティーはしません。
と言いつつ、キングボア狩りに精を出します。
石大工のガンツが、大量の肉を見て
「何かの祭りか?」
と、はしゃいでいます。
「働かざる者、食うべからず……です。シャー‼」
と、威嚇しておきました。
何となく、この世界に慣れてきてしまった哲治です。
水道の施設工事も、魔物領部分は、ほぼ完成しています。
元の世界で、水道施設工事が、どの位で出来るのか分かりませんが、こちらの職人たちの頑張りに、敬意を表しておきます。
水道施設は、まだ、土で埋めてはいません。
開通して、問題が無ければ、埋めていく予定です。
物置前シティーは、活気に溢れています。
色々なところから、人々が集まってきています。
何と、東の方の村からも人が来ているようです。
特に、辺境伯の領地から多くの人が来ています。
そして、辺境伯の領地の方は、テツジシャトルバスが10日に一度、領都まで送迎させていただいております。
職人の入れ替えや、里帰りなど様々ですが、二代目クラケン号が大活躍しています。
二代目クラケン号のソリ足前方に、ブレードと言うのでしょうか、板が付いていて、引っ張って走って行くと、地面が均されていきます。
グラウンドのトンボ掛けの要領ですね。
物置前シティーからルイーゼ辺境伯領都の交通網整備も兼ね備えた、とっ~ても、お得な商品です。
今すぐお電話を、ルヴァン電信電話局0120……まだ。機能していません……。
ルイーゼ辺境伯領都は、少し小高い丘の上にあった。
天然の城塞ですね。
防壁で囲まれていますが、それほど高い防壁ではありません。
その小高い丘の周囲にも、人々の生活の基盤が出来ています。
領都を中心とした、城下町と言うか、領都下町です。
その、領都下町の入口で、ルイーゼ辺境が護衛の兵士と共に待っていました。
二代目クラケン号から、領民の方々が降りていきます。
辺境伯に頭を下げ、横を通り過ぎていく。
それを、辺境伯は労いの言葉をかけ、手を振って応えていた。
本当に、貴族然としてない人だ。
本来は、物置前シティー行きの人たちが並んで待っているのだが、今日は居ないようだ。
その説明かと思い、哲治は辺境伯の前でしゃがむ。
辺境伯は哲治を見て
「すまないの。“テツジシティー”に行く者は、後で来させるの。少し相談に乗って欲しいのじゃ」
相談……“相談”と言う名の、指令ですね。
はい、分かります。
クライアントの“相談”は、“出来るよね”の隠語ですね。
「…………。」
哲治は、ルイーゼ辺境伯を見詰める。
ただ、見詰める。
ルイーゼ辺境伯は、一つ咳払いをし、
「コホン。実はの、学校で使う羊皮紙が、希少で高額のため困っておるのじゃ。薄く挽いた板を使っておるじゃが、何か手は無いかの?」
哲治は、本当の相談だったことに安堵し、
「俺の世界では、植物由来の紙が使われていました」
そう言って、知っている限り紙漉きの説明をしていく。
紙に適した、こちらの世界の木材は分からないので、麦藁でも出来ることも付け加えた。
アルカリ水とかは説明できないので、煮る時に灰を入れるとか、そんな簡単な説明だ。
小学生時代の自由研究が役に立った。
更に、ルイーゼ辺境伯は、
「テツジ殿に以前、“教科書”や、“試験”というものを聞いたがの、何か簡単に出来ないかの?」
哲治は、
「活版印刷と言う方法がありますよ」
自分の発明ではないが、自慢げに説明していく。
この国の文字は、表音文字だそうだ。
簡単に言えば、ローマ字みたいなものらしい。
それであれば、活版印刷も簡単にできるだろう。
ルイーゼ辺境伯は、大いに喜んでくれた。
お土産の魚の唐揚げを沢山いただき、二代目クラケン号の屋根に乗せる。
物置前シティーに行く人々を乗筏させ、来た道を戻って行った。
無自覚に、この世界の文明に革命を起こす哲治は、“テツジシティー”の名称に疑問を持っているだけだった。




