第55話 本当の悪
ゴブリンを見付けたと思っていたのに、人だった……。
あれは、事故です……事故なのです。
ヴァレルは、すぐにブルーを呼ぶように、近くにいた兵士に頼んでいた。
ブルーとライナーが走ってくる。
哲治は、『違うんです……違うんです……』と、壊れたレコードのように、念を送る。
ブルーとヴァレルが何か話している。
「ブルー師団長。見てくれ。これは多分、シギリード公爵の影だと思うが」
ブルーが、深緑色のローブを着た亡骸を観察する。
「……深緑。……確かに、『深緑のローブを見たら気を付けろ』と、軍の上層部では言われています。……暗殺者ですか」
そしてブルーが何かに気付き、深緑色のローブの前を開いて服を脱がす。
首には、金属製と思われる首飾り。
奇妙なのは、胸に模様が描かれている。
ヴァレルが、驚いて
「これは、“隷属の首輪”!……それに、この胸に描かれた魔法陣は……破裂の魔法陣⁉」
今度は、ブルーとライナーが驚く
「「隷属の首輪?……破裂の魔法陣?」」
二人の声が揃う。
哲治は、息ピッタリだな~と思った。
それよりも、『隠蔽して、隠蔽して』と、三人に念を送る。
ヴァレルが、暗殺者の胸の魔法陣を観察し
「これは、消されないように、肌に直接描き込んでいるな」
続けて
「隷属の首輪も、形は少し違うが、間違いないであろう」
ブルーが言う
「隷属の首輪は、王族の管理下ですよ。まさか王族が……」
ヴァレルが、手で制し、ブルーの発言を止める。
「滅多なことは言うな。……これは、国家機密に値する話だが……」
言い淀むヴァレル。
しかし、意を決した表情の後、
「隷属の首輪は、シギリード家が昔、開発したものだ。あまりに危険なため、王族の管理となり、他の者が手を出せば、極刑になるとした。……その功績と、権利の譲渡……それで、公爵に異例の陞爵だったという話だ」
ブルーとライナーは言葉が出ない。
哲治も無言で頷く。
なんとなく、そうした方が良いと思った。
他の暗殺者も、飼育ケースから取り出し、並べていく。
ブルー、ライナー、ヴァレル、それに呼び出したルヴァンの四人が、検分していく。
検分を終えたヴァレルが、
「何人か、息はあるが、助ける必要はない。どうせ、何も言えないだろう。動けるようになったら、破裂の魔法を使うかもしれん。すまないが、ブルー殿。止めを頼む」
ブルーは静かに頷くと、ライナーと共に、息のある暗殺者に止めを刺していく。
哲治は、その行為を複雑な思いで見ていた。
操られた暗殺者、でも自分を害そうとした存在。
自分も手に掛けた罪悪感。
仕方なかったという言い訳。
“本当の悪”に繋がる期待。
“本当の悪”⁉
昔、誰かが言っていた。
『正義って、見方が変われば、ひっくり返る。こっちが善で、向こうが悪。向こうも同じこと思っている』
哲治は、頭を振るい、余計な考えを消していく。
哲治は、ヴァレルに
「ヴァレルさん。その隷属の首輪、解析できない?外す時に、自我が壊れないように出来ないかな?」
ヴァレルは、哲治を見上げ、頷く。
「そうだな。サンプルが8個もある。やってみよう」
「8個?……2個壊れているの?」
「2個は、国王に持って行く証拠だ」
哲治は合点がいき頷いた。
「……エルフのためか?」
ルヴァンが問う。
哲治は、ルヴァンに視線を向け
「うん。それもあるけど……この国の為かな」
その哲治の言葉は、そこに居たそれぞれで、違った取り方をしたかもしれない。
ただ、言葉の通りと言うことだけが、全員一致した。
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哲治が、ゴブリン退治をした15日後。
王城、国王の執務室。
窓の無いその部屋に、アストレイア国王と宰相がいた。
宰相が国王に書類を手渡しながら言う
「確認が取れました」
「そうか。これで、公爵家も終いだな」
冷酷に国王が話す
「魔物どころか、王国の病巣まで取り除いた。巨人勇者か……勇者ね。……宰相、どう思う?」
宰相は、ゆっくり頷き
「薬も量を誤れば、毒になります」
国王は頷き
「後2年。リリアーナが、優秀な調剤師になることを祈ろう」
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その数日後、シギリード公爵一族の処刑が密やかに執り行われた。




