表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/89

第53話 王国の闇

 暖の季節5日。

 王城の謁見の間に、暖かい光がガラス窓から入り込んでいた。


 謁見の間で、玉座に座るアストレイア国王。

 横には宰相が立っていた。


 謁見の間には、高位貴族たちが並ぶ。

 国王への新年の挨拶である。


 公爵から、爵位の高い順に挨拶を述べていく。


 ルイーゼ辺境伯の挨拶は最後だった。


 ルイーゼ辺境伯が、玉座の前で片膝を付き、臣下の礼をとる。

 新年の挨拶を終えると、顔を上げ、三段ほど高い位置にいる国王の顔を見る。

 「国王陛下。少しお話良いじゃろか?」

 と、話し出した。


 周囲が騒めく。


 他の貴族では、無礼に当たるが、王国に塩を卸し、多額の税金を納めている辺境伯には、さすがに国王も無下には出来ない。


 「何だ、手短に申せ」

 国王が答える。


 「本年より、学校を開設したでの。報告じゃ」


 「報告?許可を求めるのではなく?」


 「報告じゃ。」

 

 「……何だ?学校?……“魔術師学校”か?それは認められんぞ」


 「王都にある“魔術師学校”ではないのじゃの。巨人勇者のテツジ殿から聞いた、領民が、文字や計算を勉学するための場所じゃ」


 「貴殿の領にいる貴族は少ないであろう?そんなものが必要なのか?」


 「庶民が通う場所じゃ」


 周囲の貴族たちが騒めく。

 隣同士でひそひそと話す。

 「学校とは何だ?魔術師の学校ではないのか?」

 「魔術適性の庶民の学校か?」

 「いや、文字や計算を勉学すると言っていたぞ」


 国王は構わず、辺境伯に問う

 「庶民⁉……庶民が文字や計算を覚えてどうする?」


 「領地の底上げの為じゃの。テツジ殿の世界では、身分関係なく学校に通い、勉学に勤しむそうじゃ。それが、発展の礎となるそうじゃの」


 周囲の声が、少し大きくなる。

 「庶民に知恵を付けさせてどうする?」

 「巨人勇者の世界?異世界人は、この世界より劣るのではないのか」


 辺境伯は構わず続ける。

 「それと、わしの後継者を選挙なるもので決めるでの。決まったら、また報告するじゃの」


 「選挙とは一体、何だ?」

 国王が問う。


 「これも、テツジ殿の世界の話じゃ。テツジ殿の国では、王はいらっしゃるが、政治は国民の代表者が執り行うそうじゃの。その代表者を国民が、入れ札で決めるそうじゃ」

 ルイーゼ辺境伯は、そう言うと頭を下げ立ち上がる。

 杖を突き乍ら自分の立ち位置へ戻る。


 謁見の間にいた貴族たちの騒めきは、大きくなっていく。

 その中で、国王に一番近い位置に居るシギリード公爵は、不快感を顕わにした目で、辺境伯の背中を見ていた。

 

 国王は、吹き出してしまった。

 「フッハハハ。そうか、好きにせよ」

 


 国王は、一つ頷いてから宰相に耳打ちをした。


 宰相は、一つ咳払いをし、

 「静粛に!」

 謁見の間のざわめきが消える。


 

 国王が退室する。


 シギリード公爵は、国王の背中を見送り、閉じた扉を睨んでいた。


 宰相は、それを横目で見ながら、各々貴族たちが退出していく様を見ていた。


 

■■■


 シギリード公爵は王都の屋敷へ戻ると、不機嫌な顔も隠そうとせず、自分の執務室に入っていく。


 机の上にあった書類を掴み、床へ叩きつけた。

 「南部の銭ゲバめ!何をふざけておるかー!」


 更に、机の上の物を手で払うように床に落とし

 「国王も、国王じゃ。好きにしろとは!庶民が政治をしてどうなる⁉わしのような高貴な血の者が、為政者でなければ、国は亡びる!」


 肩で息をしながら、公爵の独り言は続く

 「やはり、あの王では駄目だ。それに、異世界人の巨人。彼奴のせいで、長年の計画が破綻した。彼奴を何とかせねば」


 「おい!誰かおるか?」

 シギリード公爵が叫ぶ。


 執務室の扉がノックされ、執事長が入ってくる。


 シギリード公爵は、執事長へ

 「影を全員集めろ。それを西の巨人へ」

 そう静かに言った。


 執事長は、頭を下げ、無言で部屋を出ていく。



 「わしの影は、その辺の戦闘魔術師とは格が違う。しかも、魔物領だ。あいつらの深緑色は、森に溶け込む。ただの巨人には手も足も出まい」

 シギリード公爵は、窓際に向かい、沈む太陽を見ながら独り言を続ける。

 「あの太陽のような火球を食らって燃え尽きろ。……フハハハ」


 シギリード公爵の目は、オレンジ色の太陽を反射し、焦点が合っていなかった。



■■■


 王城の一室、オレンジ色の光がガラス窓から入り込んでいた。

 それは、闇に近付く光だった。


 椅子に座るアストレイア国王。

 横には宰相が立っていた。


 この部屋には、二人しか居ない。


 国王は、笑みを浮かべ

 「宰相よ。南部のタヌキには驚かされたな」


 「はい。学校や選挙とは、何とも言えませんね」

 宰相が答える。


 国王は、

 「確かに、庶民に文字や計算を教えれば、国の底上げになるだろう。そこから優秀な者も出てくる可能性はある」


 「そうですね。確かに土台を広げれば、優秀な庶民も多く排出されるでしょう。しかし、その者たちが、今の政治体制に不満を持つやもしれません。学があれば、他の者を扇動する者が出てもおかしくありませんな」

 宰相は、淡々と答える。


 「巨人勇者様の世界か。文明はかなり発展しているようだ。庶民への教育というものが、礎にあると言うのは説得力がある。しかし……」

 国王は、玉座から立ち上がり

 「急速な発展は、いや変化は、庶民も付いてこられぬ。このままの体制を、維持したいとは思っておらぬが、変化は緩やかな方が望ましい。国のためには……悩みどころだな」


 国王は宰相の顔を見て

 「シギリード公爵の顔を見たか?かなり動揺しておった。奴こそ“血統主義”の塊だな」


 「はい。南部タヌキも、あの場であの様に発言したのは、計算かもしれませんね」


 国王は、声を上げずに笑う。

 「ククク。シギリードがどう動くか……。それに、タヌキが上手くやれれば、真似れば良い。そうでなければ、領地を召し上げろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ