第53話 王国の闇
暖の季節5日。
王城の謁見の間に、暖かい光がガラス窓から入り込んでいた。
謁見の間で、玉座に座るアストレイア国王。
横には宰相が立っていた。
謁見の間には、高位貴族たちが並ぶ。
国王への新年の挨拶である。
公爵から、爵位の高い順に挨拶を述べていく。
ルイーゼ辺境伯の挨拶は最後だった。
ルイーゼ辺境伯が、玉座の前で片膝を付き、臣下の礼をとる。
新年の挨拶を終えると、顔を上げ、三段ほど高い位置にいる国王の顔を見る。
「国王陛下。少しお話良いじゃろか?」
と、話し出した。
周囲が騒めく。
他の貴族では、無礼に当たるが、王国に塩を卸し、多額の税金を納めている辺境伯には、さすがに国王も無下には出来ない。
「何だ、手短に申せ」
国王が答える。
「本年より、学校を開設したでの。報告じゃ」
「報告?許可を求めるのではなく?」
「報告じゃ。」
「……何だ?学校?……“魔術師学校”か?それは認められんぞ」
「王都にある“魔術師学校”ではないのじゃの。巨人勇者のテツジ殿から聞いた、領民が、文字や計算を勉学するための場所じゃ」
「貴殿の領にいる貴族は少ないであろう?そんなものが必要なのか?」
「庶民が通う場所じゃ」
周囲の貴族たちが騒めく。
隣同士でひそひそと話す。
「学校とは何だ?魔術師の学校ではないのか?」
「魔術適性の庶民の学校か?」
「いや、文字や計算を勉学すると言っていたぞ」
国王は構わず、辺境伯に問う
「庶民⁉……庶民が文字や計算を覚えてどうする?」
「領地の底上げの為じゃの。テツジ殿の世界では、身分関係なく学校に通い、勉学に勤しむそうじゃ。それが、発展の礎となるそうじゃの」
周囲の声が、少し大きくなる。
「庶民に知恵を付けさせてどうする?」
「巨人勇者の世界?異世界人は、この世界より劣るのではないのか」
辺境伯は構わず続ける。
「それと、わしの後継者を選挙なるもので決めるでの。決まったら、また報告するじゃの」
「選挙とは一体、何だ?」
国王が問う。
「これも、テツジ殿の世界の話じゃ。テツジ殿の国では、王はいらっしゃるが、政治は国民の代表者が執り行うそうじゃの。その代表者を国民が、入れ札で決めるそうじゃ」
ルイーゼ辺境伯は、そう言うと頭を下げ立ち上がる。
杖を突き乍ら自分の立ち位置へ戻る。
謁見の間にいた貴族たちの騒めきは、大きくなっていく。
その中で、国王に一番近い位置に居るシギリード公爵は、不快感を顕わにした目で、辺境伯の背中を見ていた。
国王は、吹き出してしまった。
「フッハハハ。そうか、好きにせよ」
国王は、一つ頷いてから宰相に耳打ちをした。
宰相は、一つ咳払いをし、
「静粛に!」
謁見の間のざわめきが消える。
国王が退室する。
シギリード公爵は、国王の背中を見送り、閉じた扉を睨んでいた。
宰相は、それを横目で見ながら、各々貴族たちが退出していく様を見ていた。
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シギリード公爵は王都の屋敷へ戻ると、不機嫌な顔も隠そうとせず、自分の執務室に入っていく。
机の上にあった書類を掴み、床へ叩きつけた。
「南部の銭ゲバめ!何をふざけておるかー!」
更に、机の上の物を手で払うように床に落とし
「国王も、国王じゃ。好きにしろとは!庶民が政治をしてどうなる⁉わしのような高貴な血の者が、為政者でなければ、国は亡びる!」
肩で息をしながら、公爵の独り言は続く
「やはり、あの王では駄目だ。それに、異世界人の巨人。彼奴のせいで、長年の計画が破綻した。彼奴を何とかせねば」
「おい!誰かおるか?」
シギリード公爵が叫ぶ。
執務室の扉がノックされ、執事長が入ってくる。
シギリード公爵は、執事長へ
「影を全員集めろ。それを西の巨人へ」
そう静かに言った。
執事長は、頭を下げ、無言で部屋を出ていく。
「わしの影は、その辺の戦闘魔術師とは格が違う。しかも、魔物領だ。あいつらの深緑色は、森に溶け込む。ただの巨人には手も足も出まい」
シギリード公爵は、窓際に向かい、沈む太陽を見ながら独り言を続ける。
「あの太陽のような火球を食らって燃え尽きろ。……フハハハ」
シギリード公爵の目は、オレンジ色の太陽を反射し、焦点が合っていなかった。
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王城の一室、オレンジ色の光がガラス窓から入り込んでいた。
それは、闇に近付く光だった。
椅子に座るアストレイア国王。
横には宰相が立っていた。
この部屋には、二人しか居ない。
国王は、笑みを浮かべ
「宰相よ。南部のタヌキには驚かされたな」
「はい。学校や選挙とは、何とも言えませんね」
宰相が答える。
国王は、
「確かに、庶民に文字や計算を教えれば、国の底上げになるだろう。そこから優秀な者も出てくる可能性はある」
「そうですね。確かに土台を広げれば、優秀な庶民も多く排出されるでしょう。しかし、その者たちが、今の政治体制に不満を持つやもしれません。学があれば、他の者を扇動する者が出てもおかしくありませんな」
宰相は、淡々と答える。
「巨人勇者様の世界か。文明はかなり発展しているようだ。庶民への教育というものが、礎にあると言うのは説得力がある。しかし……」
国王は、玉座から立ち上がり
「急速な発展は、いや変化は、庶民も付いてこられぬ。このままの体制を、維持したいとは思っておらぬが、変化は緩やかな方が望ましい。国のためには……悩みどころだな」
国王は宰相の顔を見て
「シギリード公爵の顔を見たか?かなり動揺しておった。奴こそ“血統主義”の塊だな」
「はい。南部タヌキも、あの場であの様に発言したのは、計算かもしれませんね」
国王は、声を上げずに笑う。
「ククク。シギリードがどう動くか……。それに、タヌキが上手くやれれば、真似れば良い。そうでなければ、領地を召し上げろ」




